「女性と血友病」 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

「女性と血友病」

夏合宿2016報告 その2〈1日目〉

「女性と血友病」

                              講師:大阪医療センター 西田 恭治 医師
日 時:8月6日(土)20:00-21:00
場 所:あたらし屋、213号室

 

 今日は「女性と血友病」という話題の中で、保因者を取り巻く諸問題についてお話をさせていただきたいと思います。
 今日のような患者会の夏合宿で、最初にこういった企画をいただいたのは、ちょうど4年前、京都の夏合宿の時でした。今回と同じように、ご飯を食べた後にお話をさせていただきました。その時は、大人はスライドの写真のようなお風呂を楽しみ、子どもはプールを楽しみ、といったような合宿でした。今日はかなり広いお部屋を用意していただいていますが、その時はスライドの写真のようなお部屋で、ほんの数人の方との対話という形で行いました。しかし、とてもこのような部屋では収まりきれないほど熱気が高まり、それで今日は少し広いお部屋を用意していただいたのだと思います。この時に私は、やはり保因者の方々のニーズはかなり高いものであると再確認させられました。それが4年前です。

 
 ちょうど同じ年に、私は産科の先生向けの雑誌から、血友病やフォン・ヴィレブランド病と妊娠に関しての原稿を書いてほしいと依頼されました。しかし、いざそういったタイトルの原稿を書こうと思っても、なかなか日本語の資料がありませんでした。資料やデータはほとんどが諸外国のもので、国内にそういった資料やデータがないということにまず驚かされました。その原因は何かというと、おそらく我々自身が今まで産科の先生などにそういった関心を引くような努力をしてこなかったからであり、これはその報いだと思いました。ところが諸外国においては、そういった保因者を取り巻く問題に関しての研究や指針などがかなり高度に進んでおります。

     
  

 
 このスライドは、WFH(世界血友病連盟)という組織が出している冊子です。これらは全てWFHのサイトからダウンロードできます。WFHのこういった冊子は300冊ぐらいあるのですが、その中で保因者の方や女性の問題、あるいは遺伝の問題を取り扱ったものはこれだけあります。しかし、日本に関しては全然こういったものが見当たらないというのが現状です。

     


 WFHのサイトは我々にとっていろいろな情報を知る宝庫ではあるのですが、何がいちばんの障壁かというと、やはり言葉の壁です。インターネットで情報には瞬時にアクセスできても、全て英語で書かれているので、なかなか我々日本人にとってはそこから先に進んでいかないというのが現状です。WFHのサイトは、英語以外にもフランス語、スペイン語、中国語、ロシア語、アラビア語まであるのに、残念ながら日本語はありません。中国語は人口が多いので仕方がないとしても、ロシア語やアラビア語にも負けているのかという状況だったのですが、WFHにようやく一部ではありますが日本語化しようという試みが昨年できました。その企画の監修の依頼を私が受けさせていただきました。現在では、この4月から「血友病保因者と女性血友病」と「絵でわかる血友病教師用指導書」の2つの保因者に関連した冊子が日本語化されています。ですから、皆さんもぜひ「WFH」で検索して利用していただければ非常にありがたいです。
 こういったものにアクセスしていただくと、WFHも気を良くして、アクセス数が多いということは需要も高いのだということで、今後もこういった取り組みが進んでくると考えています。残念ながら、今のところはほんの一部でしかありません。今はスライドのようなサイトになっておりまして、「日本語」という欄ができています。ぜひ検索してみてください。

    


 私はこういった需要が非常に高いということと、日本ではこういった啓発がなかなか血友病の家族や医療者に届いていないことを鑑みて、いろいろな機会をもって啓発活動をしています。そのひとつとして、2年前にバクスアルタで患者さん向けのウェブセミナーを開きまして、その中で「血友病保因者健診への提唱」というテーマで1時間行いました。今日こちらにいらっしゃる早川さん(母)もこの時に登場していただいた一人です。世界血友病デーである毎年4月17日に血友病の患者さんやご家族を対象に行っているのですが、この年のアクセス数は例年の3倍ぐらいあったようです。これにはバクスアルタも驚いて、こういったことに対する需要は高いということで、この年のウェブセミナーは今、ヘモフィリアステーションというバクスアルタのサイトの中でコンテンツとして再録されています。ですので、これを知らされてもいないし見もしなかったという方は、ぜひ「ヘモフィリアステーション」で検索して見ていただければ参考になるかもしれません。

 私自身は2010年頃から保因者や女性に関する話を講演会の中でしています。それが講演会のメインテーマではなくても、例えば定期補充療法の進歩や新薬の話などといった講演依頼をされても、その中のトピックスとして挟み込むこともあります。これらを含めると、今まで19ヶ所ぐらいで保因者啓発の話をしています。

     


 では、どうして今さら保因者健診というものをテーマにしなければいけないのでしょうか。新薬の話などは非常にホットな話題です。どんどんいろいろな新しい薬ができてきています。また、定期補充療法が普及してきたのはここ5年、10年です。一方、保因者の話は30年以上前からあるわけですが、そんな中でなぜ今わざわざ保因者の話がテーマになるのかについては3つ理由があります。1つ目として、確かに血友病患者さん自身の状況はこの30年間で飛躍的に進歩しました。治療法も薬も進歩しました。しかし、振り返ってみて保因者の方々に対するケアは30年前と一向に変わっていないのです。こういった現実があります。2つ目として、血友病の患者さんが新たに生まれてくる時の大きな合併症である頭蓋内出血が30年前と比べて一向に減っていないのです。今でも30年前と同じ割合で血友病の赤ちゃんの出産時に事故があって、不幸にも頭蓋内出血が併発しています。3つ目として、先ほど言いましたように日本の啓発のレベルは世界水準に達していません。これら3つの理由から、ようやく日本でも保因者について取り上げることが必要なのではないかという機運が出てきています。

   


 保因者健診とはあまり耳慣れない言葉ですが、これはどういったことなのかご説明します。まず、保因者診断という言葉は皆さん聞かれたことがあると思います。保因者であるかどうかを判断するものです。しかし、これは保因者かどうか分からないような推定保因者の方が受けるべきもので、確定保因者、つまり家系を見て保因者と確定している方には不要なものです。ですから、私が「健診」と位置付けたのは、推定保因者の方にも確定保因者の方にも隔たりなく門を叩いていただけるようにするためです。つまり、保因者健診は検査を前提としておりません。ですので、お話だけで終わってしまうこともないわけではありません。広い意味合いの保因者健診の一部が保因者診断と捉えております。
 模式図にしてみると、スライドのようになります。広い輪には保因者支援とありますが、これはお母さんが患者さんを病院へ連れて行って、顔馴染みの看護師さんとの「実は今度うちの妹が子どもを生むのですが、どうしたらいいですか?」というような立ち話の相談事なども保因者支援の中に入ってくると思います。ここから一歩進んで、「では、その妹さんにカルテを作ってもらって、一度先生とお話されたらどうですか?」というのが保因者健診に入ります。その中で必要があれば保因者診断に進んでいくかもしれません。こういった大きな絵を描いています。



 おさらいになるかもしれませんが、確定と推定の保因者はいったい何が違うのでしょうか。ここにおられる皆さんはお分かりかもしれませんが、例えばお父さんが血友病である娘さんは確定保因者になります。あるいは2人以上の血友病患児を出産した女性も確定保因者です。1人であればその子が突然変異であったという可能性が非常に少ないながらもあるのですが、突然変異が2回続くのは天文学的な数字の確率なので、こういった方は確定保因者ということになります。このように家系を見るだけで分かるのが確定保因者です。推定保因者は1人しか血友病のお子さんを持っていなくて、血縁者に血友病患者がいないという方です。これは、その生まれたお子さんが突然変異であるという可能性を否定しきれないからです。それ以外には、家系の中で証明できない方、あるいは兄弟の中に血友病患者がいる女性が推定保因者ということになります。家族歴を聞くだけで、保因者診断はしなくてもいいという方はたくさんいらっしゃるということです。



 保因者診断にはどういうものがあるのかというと、大きく分けて凝固因子を測定する方法と遺伝子解析をする方法があります。凝固因子を測定する方法というのは、重症血友病の患者さんのⅧ因子活性やⅨ因子活性は1%以下で、健常な方は平均して100%なのですが、保因者の方はその中間に値します。だいたい平均50%です。もちろん人によっては100%に近い方や中にはそれを超えている方、逆に低い方では5%以下の方もいらっしゃいます。しかし、平均してみると健常な方よりは低いということをもって推測するのが凝固因子での検査です。遺伝子検査というのは、その家系に血友病をもたらす遺伝的な変異がその推定保因者にも一致しているものがあるかどうかを見るものです。
 この2つの違いをもう少し詳しく言いますと、凝固因子検査は保険でできます。つまり、開業医の先生でもその検査ができるわけなのですが、その解釈が非常に難しいです。検査結果だけで保因者であるかないかを言い切ってしまうことはできないですし、往々にしてそういった間違いは見受けられます。ですので、凝固因子での検査はどこででもできるのですが、その結果をもって保因者であるか否かは極めて難しい検査方法です。一方、遺伝子検査は凝固因子検査よりも遥かに確度は高いです。ただ、確かに確度は高いのですが、非常に時間を要します。また、費用も非常に高いです。そして、日本の中で遺伝子検査をオープンに行っているのは、私の知る限り東京医大だけです。他のところでは、技術はあったとしても保因者診断をするという名目のもとに受けてはいただけていないのが現状だと思います。遺伝子検査のもう一つの問題点は、家系内の患者さんの協力が必要だということです。つまり、兄が血友病で自分はどうなのだろうということが知りたい時は、まず兄の変異を確定させなければいけません。それと自分が持っているものが一致するのかどうかを調べるので、そういう意味で家族内の協力が必要だということです。これについて何が問題になってくるのかというと、患者である兄はもうすでに亡くなっているとか、他に血縁の方がいらっしゃらないなどという方は遺伝子検査ができないのです。あるいはそうでなくても、自分がそんな検査を受けることを離れて暮らしている血縁患者に話しにくい、血縁患者の協力を得にくいといった場合にも、残念ながらこの遺伝子検査を前に進めることはできません。ですので、確度は高いけれども、かなりハードルの高い検査だと言わざるを得ません。

     


 こういった啓発は医療者にも患者さんやご家族にも両方に必要なのですが、まず最初に大切なのは医療者への啓発です。去年、ヘモフィリア友の会全国ネットワークが大阪で全国フォーラムを行いました。その時のテーマが女性の問題についてでした。スライドの上の写真の方はアメリカ・ミシガン州のクルカルニ先生です。女性の問題や保因者の問題に非常に熱心に取り組んでいる方で、基調講演をしていただきました。下の写真の方はナダージュさんというフランスの女性で、彼女自身が保因者です。保因者であるが故にいかに今まで苦労してきたか、いかに偏見を受けてきたかということを講演していただきました。

     


 どういう内容だったかを簡単にかいつまんで紹介しますと、クルカルニ先生は保因者には大きな障壁があるというお話でした。保因者というのは遺伝的な呼称であって、臨床的診断名ではありません。このことによってどのようなトラブルが起こってくるのかというと、医療者は保因者も出血するということを分かっていないし教えられてもいません。ですから、保因者は血友病とは違って出血しないと医療者は思い込んでいます。こういったことが非常に保因者にとって困った状況を生んでいます。ですから、保因者の方は出血傾向があって出血が起こってもそれを理解してもらえることが少なく、息子さんや兄弟の凝固因子製剤を借用している方もいらっしゃいます。こういった現実があります。クルカルニ先生は、血友病患者だけではなく、保因者の方自身も血友病の包括医療の中に組み込まなければいけないとおっしゃっていました。血友病患者さんは包括医療といって、小児科医、内科医、整形外科医、カウンセラー、歯科医、ナースコーディネーターなど、様々な職種の人を巻き込んで全体的な治療を受けられているわけですが、その中に保因者の方々も入っていただかないといけません。こういったことをクルカルニ先生は主張しておられました。
 ナダージュさんは、自分が保因者だということでいろいろな思いをしてきました。血液の専門家であったとしても、彼女には「血友病ではないのだから出血はしない」、「そんなことを君が言っているとしたら、何か嘘をついているのではないか」と言い、「医療を欺こうとしているのではないか」、あるいは「健康保険を騙そうとしているのはないか」とまで言われたことがあるそうです。どうして因子活性の低い保因者を血友病と言わずに「症候性保因者」というような曖昧な名前で呼んでしまうのだろうか、あっさりと「女性軽症血友病」というような名前を付けてくれた方が、医療機関に運ばれた時にも速やかに治療してもらえると訴えていました。彼女は歯科治療の後に頸部に大きな出血をして、気道を圧迫するような酷い目に遭ったことがあるそうです。それで救命救急に運ばれたのですが、すぐに製剤による治療をしてもらえませんでした。彼女自身はⅧ因子活性が20%程度の保因者だそうですが、そういった理解のなさが治療の停滞につながったということを訴えておられました。

     


 スライドの写真は先月(7月)、アメリカ・フロリダ州オーランドで行われた2年に一度のWFHの世界大会です。早川(祐哉)君や佐野さんもヘモフィリア友の会全国ネットワークがNMO(National Member Organization:その国を代表する患者団体)に認められたことによって代表として出席されました。この中でも毎年女性の問題や保因者の問題は取り上げられてはいるのですが、今年はとりわけ大きなセクションとして講演が行われていたり、あるいは女性の問題についてのブースが3つぶち抜きで並んでいたりしました。写真はそのブースの一つなのですが、彼女たちは保因者であったりフォン・ヴィレブランド病であったりします。このように海外ではネットワークが非常に密にできています。それに比べて日本では、まだまだ今からネットワークを築いていくところだと考えています。

     


 保因者健診が必要な理由ということで、まず一つ目に、保因者でも出血傾向で困ることがあります。先ほどご紹介したナダージュさんのように酷い目に遭った保因者の方には、声を上げていない人もたくさんいると思います。今日ここに来られている保因者の方にも、黙っていただけだという方はたくさんいらっしゃると思います。実際のところ、保因者の方の5人に1人は凝固因子活性が30~40%以下だと言われています。これにはいろいろな数字があるのですが、一般的に血友病の分類の中で、凝固因子活性が40%以下は軽症血友病に分類されます。ですから、保因者の中の結構な数の方々は、軽症血友病と分類されることになります。

     


 スライドの表はアメリカでとったアンケートなのですが、保因者の方々に今までにどういった出血を経験したことがあるかを聞きました。すると月経過多、生理が非常に多くて困っている方が半数近くいらっしゃるわけです。それから産後出血です。お産は無事にできたけれども、その後の出血で非常に難渋したという方も半分近くいらっしゃいます。ですから、女性の場合はいかに軽症であったとしても、こういった人生の中でのイベントの時に出血傾向が発露してしまうわけです。女性にも青あざや鼻出血が起きるのは分かっていますが、関節内出血も思いの外あります。先月のWFH世界大会での発表の中で、保因者に関節障害がどれだけあるのかという確率が出されていたのですが、10数%と結構高い確率でありました。つまり、我々は「血友病性関節症は血友病患者にしか起きない」と思っていたのですが、実際は意外と保因者の方の中にも少し不自由な関節がある方がいらっしゃるということにつながっていると思います。

     


 出血傾向以外の問題としては、出産時のトラブルがあります。血友病の赤ちゃんが頭蓋内出血を起こしてしまうというトラブルが今も30年前と同じ割合で起こるというのはおかしいのではないかという疑問です。我々は多くの血友病患者さんを診ていますが、その中には少なからず出産時に頭蓋内出血を起こしたという患者さんがいらっしゃいますし、その時の後遺症のためにずっと抗てんかん薬を服用されている患者さんもいらっしゃいます。アメリカのデータでは、一般的に血友病の患者さんの出産の2~4%ぐらいは頭蓋内出血を起こしてしまうと言われています。しかし、実際にはもっと多い可能性があります。そういった嫌な、怖い合併症があるにもかかわらず、保因者の方はあまりそういうことに関して危機意識を持っておられない場合がほとんどです。ですから、産科の先生にもそういったお話をされておられません。

 そこで我々にできることは何かということを考えると、とにかく産科の先生と我々が連携をとり、いざという時に備えることが非常に大切だと思います。それだけで発生率は下がります。また、そのためには保因者の方自身にもこういった意識を持ってもらわないと困ります。「実は私は保因者で、Ⅷ因子活性はこうです。生まれてくる子どもはこういう可能性があります」というようなことを言ってもらわなければ、産科医は分かりません。それから、今の日本の状況では保因者の話はなかなかお茶の間の話題に向いていません。ですから、家族にもそういう話はハードルが高いと思われている方が多いようです。また、我々医療者も保因者に配慮してきていませんでした。今日は医療者の方もいらっしゃいますが、自分の患者さんを思い浮かべてください。その方に姉や妹はいるでしょうか。お母さんはどうでしょうか。お婆ちゃんはご健在でしょうか。これらを答えられる医療者はまずいません。問診は初診の時にとって終わりですから、ずっとその患者さんを診てはいても、その患者さんのお婆ちゃんがご健在かどうか、叔母さんはどうか、姉妹がいるのかなどは意識していません。ですので、改めて医療者がそこに気づくことが非常に大切です。


 どうして産科医が「妊婦が保因者である」ということを知るだけでトラブルが減るのかについては、スライドのデータをご覧ください。アメリカのデータですが、経腟分娩では約4.2%の方に分娩時の頭蓋内出血が起こっています。これが同じ経腟分娩でも、産科医が「妊婦が保因者である」ということを知っていれば、これだけ減るのです。圧倒的に減ります。また、帝王切開をすればゼロになります。これはどういうことかというと、産科の先生は赤ちゃんが出にくい時に、鉗子分娩は今あまりされないかもしれませんが、吸引分娩といって、器械的な方法で赤ちゃんを引き出すことがあります。この時に頭蓋内出血が起こってしまうのです。ですから、産科の先生に器械を使わずにがんばってもらうか、あるいは帝王切開という選択肢を妊婦に与えていただくか、こういったことによって頭蓋内出血の頻度は減らせます。放っておけば産科の先生は乱暴なことをするとまでは言いませんが、血友病の赤ちゃんの出産にはこういったことが大事になります。


 しかし、我々医療者からの弁解として、保因者から何か相談を持ちかけられることは、ほとんどないということがあります。そもそも保因者の方が病院に来ることは患者さんの付き添いを除いては、ほとんどありません。また、家族にとってもなかなかそういう話はしにくいということもあります。ですので、その状況を打破するには、医療者がそういった意識をもって、患者さんに積極的に「君はお姉ちゃんがいたかな?」、「妹さんがいたかな?」、「お母さんは検査を受けているのかな?」、「お婆ちゃんはまだご健在かな?」などと聞いて扉を開かなければいけません。患者さんの方からこういった話を持ち掛けてくることはまずありません。ですから、これは我々医療者の問題です。とにかく患者の家族の状況にもう一度焦点を当ててほしいということです。

     


 実際に保因者としての勉強をしたり検査をしたりすることに不都合はあるのでしょうか。まず、検査のために病院へ行くのは面倒だということがあります。私は血友病患者さんの診察時に、「あなたのお姉さんやお母さん、お婆さんにも一度はお話しさせてもらいたい」とお願いするようにしているのですが、10人の保因者の候補者がいらっしゃっても、実際に来てくださるのは1人か2人です。やはり8人や9人の方にとっては、どこも痛くも痒くもないのに学校や会社を休んで病院へ行くなんていうのは非常にハードルの高い話です。ですから、実際のところ来てくださるのはほんの一部だということは分かっています。
 また、保因者の親の立場からすれば、「こういうことは知らないままでいる方が得なのではないか」、もしくは「自分の娘が思春期になって、恋愛、結婚に対して非常に負担を背負ったらどうしよう」ということをおっしゃる方がいらっしゃいます。これは医療者もそうなのですが、こういった講演をやっていますと、小児科の先生などが「いや、やはり思春期の間は言えない」とか「受験の前は言えない」などと言われることがままあります。ですから、こういったお話をいつ保因者の方にするのかは、今でも非常に議論の対象になっているし、判断が難しいところです。
 しかし、やはり避けてほしいのは、妊娠してから慌てて相談に来られることです。「もう赤ちゃんができてしまった。どうしたらいいだろう」ということで来られる方が結構多いのです。今まではそういったことを思ったこともなかったのが、いざその時になって現実問題として捉えられるようになるわけです。こういうことは少なくないのですが、いろいろな意味でまずい状況になります。もはや生まれてくる赤ちゃんだけの問題ではなくて、夫婦間の問題、あるいは家と家の問題になってきて、後になれば後になるほどまずいことになってきます。


 保因者の方にいつお話しするかということについては、先ほど言ったように決まった時期があるわけではなく、欧米を含めて結論は出ていません。ただ、まだ小さい頃に話しておいた方がいいという意見が有力です。その利点としては、検査をするにしろ、血友病のことを知るにしろ、まずストレスが少ないということが挙げられます。今日もこの患者会の合宿にたくさん小さな子どもたちが来てくれています。この中には患者さんのきょうだいもいると思いますが、彼らはもう小さな頃から血友病を普通のものとして受け入れているので、彼らが思春期になろうが成人しようが、自然に血友病の体質に関して受け止めることができます。こういった理由で、小児期、早い頃から話しておく方が入りやすいということがあります。
 小さい頃から話しておくデメリットとしては、先ほどお茶の間の話題に向いていないと言いましたが、家族関係に対する何らかの影響があるのではないかとか、あるいは検査をするのかしないのかを含めた判断をまだ幼い子どもに委ねていいのかということが問題としてあると思います。後者の子どもの判断についてですが、遺伝子検査に関しては自身の判断が非常に大切ですし、後々自分や自分の子孫にも関与してくる問題です。ですから、きちんとした判断ができるような年齢になってからでないと遺伝子的な検査は不適切だというのが大方の結論です。ただ、凝固因子に関する検査は、たとえ小さな子どもでもやっておいた方が利点は大きいと考えます。その子がたとえ小学生でも、いつ何らかの事故に遭うとも限りません。あるいは、いつ何らかの手術をしなければいけないような病気になるかもしれません。ですから、凝固因子検査に関しては早いうちからやっておいた方がいいのではないかと思います。


 保因者をサポートする資材には、どのようなものがあるのでしょうか。最近は各メーカーもこういったことに気づき始めまして、この5年ぐらいは積極的に様々な資材を出してくれています。スライドは、バイオジェンという凝固因子製剤メーカーが今年の4月に出した機関誌です。今日も来てくださっている保因者の方の協力を得て行った座談会が掲載されており、また私や遺伝子診断を行っている篠澤先生も寄稿しています。スライドにあるのは創刊号なのですが、新しい会社が機関誌の創刊号にこういったテーマを持ってこようということ自体が、やはりこの問題に対する意識の高まりを表しています。その他、WFHのサイトからダウンロードできるものもありますので、ぜひ皆さん、最悪見なくてもいいのでダウンロードはしてください(笑)。アクセス数が多いと、WFHはこのテーマに関して今後もっとがんばってくれるかもしれません。

     


 こういった資材は「ヘモフィリアねっと(http://hemophilia-japan.org/)」というヘモフィリア友の会全国ネットワークのサイトから取り寄せることができますので、ぜひ利用してください。
 また、このサイトの中には、スライドのようなアニメーションによる保因者教育のためのビデオも収めています。これはカナダの血友病友の会が作っている保因者啓発のためのビデオで、30分程度で保因者について理解していただけます。実写の女性は推定保因者で、絵で表現されているのが彼女の叔母さんで確定保因者です。よくできていることに、この叔母さんは医者の卵だということになっています。この親戚の2人が話をしているうちに、推定保因者の彼女が保因者というものがどういうものなのかを勉強していくという、非常によくできたストーリーです。

   

動画を見る

  


 これを見つけた時に、私はぜひともこれを日本語にさせてほしいとカナダ血友病協会に交渉しました。その結果、今は字幕が付いていますので、ぜひ皆さんこちらも利用してください。これを見てから、あるいは先ほどご紹介したパンフレットや機関誌を読んでから健診に来ていただけると非常に有益なのです。そうでないと非常に初歩的なところから話すことになって、時間が2倍も3倍もかかってしまいます。しかし、これらの資材である程度の知識を持っていただいていると、「どこが分かりにくかった?」というようなところから始められるので、建設的に話を進めることができます。


 また、この「ヘモフィリアねっと」では、昨年行われた全国ヘモフィリアフォーラムでのクルカルニ先生の講演、あるいは保因者の方の経験についての講演なども日本語化してコンテンツの中に収められていますので、大阪へ去年行けなかった方はぜひ参考にしていただければ我々もありがたいです。

    
  


 大阪医療センターではどのような取り組み方をしているのかを説明させていただきます。まず、我々の保因者健診の手順です。これが良い手順なのかどうかについては皆さんのご意見を聞きたいのですが、まずは、今来られている、目の前にいる患者さんの家族歴を取り直すことから始まります。これは先刻申し上げたように、意外と知らないことがたくさんあります。つまり推定保因者や確定保因者の方がいらっしゃるのかどうかという我々の確認です。
 それから、今来ていただいている患者さんに、その推定保因者や確定保因者の方が病院へ足を運ぶことがいかにメリットのあることなのかを分かっていただきます。その患者さん自身に「いや、うちの娘にはそんなこと言えない」とか「うちの妹にそんなこと言っても分かるわけがない」などと思われると、話はそこから進みません。その時に来ている患者さんに「話して一度連れてきます」、「これは連れて来ないとダメだ」と思ってもらうことが何よりも大切です。
 次に、先ほど言ったように10人のうち1人か2人は病院へお見えになりますが、その多くの場合は発端者である患者さんと一緒に見えられます。中には一人で来られる方もいらっしゃいますし、患者さん自体全く診たことがないのに「私は血友病の保因者なのでお願いします」と言ってくる殊勝なお嬢さんもいらっしゃいます。しかし、多くは発端者の方と一緒に来られます。
 その時に何をするのかというと、まずはいろいろな説明です。先ほど紹介したようなパンフレットを使ったりして、遺伝的背景から出血の可能性、検査の種類と意味合いといったことを説明させていただきます。それから、多くの方の場合は凝固因子検査を施行します。遺伝子検査は大阪医療センターではできませんので、希望があれば、どういう手順を踏めば我々が東京医大への道筋をつけることができるのかを説明します。それから、彼女たちに将来的に妊娠、出産の可能性があれば、留意点、注意しなければいけない点をお話しします。具体的には、どこで出産してもいいのですが、血友病の専門医と必ず連絡を取るようにすること、それから2つ目には、血友病の赤ちゃんだったらリスクを伴うような器械分娩はやめるように産科医に伝えることをお話しします。

     


 また、保因者健診では暗い話ばかりではなくて明るい題話をすることも大事ですから、現在の血友病を取り巻く環境がどれほど以前と違うかについてお話します。前の世代の多くの患者さんは関節障害を抱えていました。杖のお世話になったり、車いすの患者さんも少なくありませんでした。また、1970~1980年代に治療を受けた患者さんはHIVやC型肝炎に感染するという辛い傷跡も残しています。しかし、今の患者さんにはプロスポーツ選手もいますし、私の診ている患者さんでも出血をしない方はままいます。ですから、時代は変わっているわけなのです。こういった21世紀の知識を十分伝えるのは大切なことです。
 それから、見ていらっしゃらなければ保因者に関する知識を得るために有用なサイトなども紹介します。そして、2回目は必ず一人で来ていただくようにします。もうお兄さんやお父さんと一緒には来ないように伝えます。2回目の受診目的は、1回目に行った凝固因子検査の結果報告やいろいろな質問に対する回答、場合によっては様々なサポートの紹介もします。つまり、カウンセラーのサポート体制が整っていることや、それ以外にも婦人科や産科の先生のサポートも受けられるというように、多くの人が彼女たちをサポートする体制が整っていることの説明もさせていただきます。

   
  


 また、凝固因子検査は反復することがあります。なぜなら、非常に変動の激しい検査だからです。1名あたりの受診回数はだいたい2~4回ということでした。まだまだより良い方法を模索中ですが、とにかく我々が目指しているのは、「病院へ来るのは面倒だったけど、いろいろなことが知れたし、受診して良かった」と言ってもらえることを目標にしています。
 現在までのところ、大阪医療センターで遺伝子検査の道筋は作っているのですが、遺伝子解析をされた推定保因者の方はいらっしゃいません。
 また、来られる方にはいろいろな事情があって、自分の親戚の血友病患者である発端者が血友病AなのかBなのかも分からないという方もいらっしゃいます。そういう方には、こちらは凝固因子検査をするにしても、いったい何を測ればいいのかよく分かりません。こういう方も少なくありません。また、カップルで来られた方も2組いらっしゃいました。

     


 このような形で大阪医療センターでは保因者健診を行っていますが、その中で我々がいちばんに思ったことは、保因者に関する取り組みには特別な器具や検査や施設などは何もいらないということです。我々にやろうという気持ちさえあれば、今からでもできます。対応する意思以外に用意しなければいけないものは何もありません。
 繰り返しになるかもしれませんが、保因者健診の必要性のまとめです。一つは、今年のWFH世界大会でも非常に大きなホールでセッションが行われていたぐらい大切な問題になっている、血友病患者以外の保因者も含めた女性の出血傾向です。それから、なんとかして分娩時におけるリスクを減らそうということ。3番目は、現在の血友病を取り巻く環境のお話をする機会を持つということです。これがなければ、我々が保因者の方と接することはできません。彼女たちと接して驚くことは、その知識のあまりの古さです。アップデートが全くされていません。これはなぜかというと、自分が知っている患者さんはお父さんや叔父さん、お兄さんといった一世代以上前の患者さんで止まっているからです。今から生まれてくる血友病の子どもの世代のことは全くご存じありません。

     


 ですから、彼女たちが血友病に対して持っている重篤な関節障害、HIV、HCV、寿命が短いといったイメージは、現在の血友病環境にはそぐわないものです。今の患者さんが関節障害を起こしていることは稀になりつつあります。今の製剤はウイルス感染症とは無縁になっていますし、平均寿命は健常人とほとんど変わらなくなっています。彼女たちはこういったことをご存じありません。ただ、これは彼女たちのせいではなくて、彼女たちにそういった知識を得る機会をなかなか与えなかった我々の責任でもあります。その結果として、彼女たちは非常に漠然とした不安を抱えて、実際の必要以上に結婚や出産というご自身の人生設計に消極的になっておられることが多いように思えます。我々が行っている健診は、保因者であるか否かを判定する保因者診断が主たる目的ではなく、健診というチャンスを通じて、保因者が適切な認識のもとに適切な判断をする手助けになれば幸せだと考えています。皆さんも保因者健診を普及させてください。こういったことが彼女たちを身体的にも精神的にも救い、また新たに誕生してくる血友病患者さんの命を救う可能性もあります。ご清聴ありがとうございました。

 

<質疑応答>

Q:
 先ほど推定保因者のお母さんの間で話になったのですが、やはり月経過多の方が多いのです。娘がいる方は娘のことも気になるのですが、毎月のように月経過多を起こしていると、どうしても会社の健診などの検査で貧血に引っかかってくるのです。貧血も徐々に進んでいって、気づいた時には普通なら倒れていると言われるような数値が出てしまうまで気づかずに生活しているというケースも、やはり実際に私たちお母さん同士で話をしている中にありました。ただ、私たちのような子どもを生んだお母さん世代でも、やはり産婦人科は行きにくいです。貧血は「あぁ、貧血ですね」で終わるのですが、月経過多は終わりがないのかと思ってしまうほど長いです。特にこれから結婚する、子どもを産むという若い子たちにとって、産婦人科を受診することは非常にハードルが高いです。月経過多が産婦人科に起因することもあるかもしれませんが、保因者であることが原因で月経過多になっていた場合、どのように病院とのお付き合いをしていけばいいのでしょうか。やはり貧血を起こす月経過多によって生活はしんどくなります。この辺りのお付き合いはどうしていけばいいのでしょうか。

西田:
 非常に良い質問だと思います。私が医療者を対象にこういった話をしていた時に、たまたまその場にいらっしゃった奈良医大の前教授である吉岡章先生という方がいたく心に留められまして、「いや、西田君、その通りだ。お母さん方の中に貧血で非常に悩んでいる人はたくさんいる。保因者の人は貧血でどれくらい困っているのか、そしてそれにきちんと対応できているのかということを調べてテーマにしてほしい」と今年の初め頃に言われました。やはりずっと長く血友病を診ている先生は、こういったことに困っている方が物言わずたくさんいるということに気づいていらっしゃいます。先ほど言ったクルカルニ先生も、保因者はサイレントだとおっしゃっていました。だから、少々のことがあっても「息子に比べたらこんなものは大したことはない」とか「お兄ちゃんのあの出血に比べたら、これくらいで文句を言ったらいけない」などと我慢している人が本当はたくさんいます。吉岡先生にはその辺りのことを調べてほしいと言われたのですが、そのためにいちばん適切なものはやはり貧血の検査だと思います。それと、本当に月経過多をもたらす婦人科的な問題がないのかどうかも調べなければいけません。

 

Q:
 凝固因子活性がそんなに低くなければ、一度は産婦人科で子宮筋腫などの検査をしたらどうかと言われ、産婦人科では、子宮はきれいで子宮筋腫も何もないから、保因者であることが原因なのではないかと言われてしまうと、もうこのしんどさとはこのまま付き合っていくしかないのかとあきらめてしまって、いつしかそれが普通になってしまいます。ただ、普通になるとはいえ、毎月のしんどさに弊害がないこともありません。

西田:
 そのしんどさは当事者にしか分からないものです。例えば血友病の出血の痛さが当事者にしか分からないように、保因者の方のそういったしんどさも当事者にしか分からないものです。月経過多を逃れるために、子宮摘出手術を受けた方もいらっしゃいました。

 

Q:
 その方は実際に子宮を取って楽になったのですか?

西田:
 それはすごく喜んでおられました。その方もヘモグロビンがそこまで下がるまで、長年に渡ってすごく我慢されていたと思います。ですから、もっと早期に「保因者だから月の半分が生理で、そのことが貧血をもたらしている」ということが分かれば、やれることは増えると思います。

 

Q:
 自分自身や娘さんのそういったことで悩んでいる方は数多くいらっしゃると思うのですが、実際にまずどこに相談すべきですか?お母さんの場合はまず産婦人科に行ってみようかという話になりますが、娘の場合はそうはいきづらいです。ただ、若くてもそういう婦人科系の病気はあるので産婦人科に行く必要はあると思いますが、やはりどちらに先に相談すべきですか?それと、保因者についての相談は、近畿圏内ではやはり西田先生のところが行きやすいというか安心というか紹介しやすいところがありますが、大阪医療センターでは婦人科との連携はどうなっていますか?

西田:
 もちろん婦人科との連携は行っています。ただ、やはり自分の息子なり兄弟の患者さんが受診している主治医の先生のところへまず話を持っていくのがいちばんだと思います。血友病の専門の先生ではなくても、その先生たちがきちんと受け皿として受け止めてくれるように私たちはがんばっています。

 

Q:
 残念ながら、そこが正直まだまだ難しいです。とりあえず実際にそういったことで悩んでいる方は今日来られている方の中にもおられると思いますが、まず西田先生のところにそういう相談に行くことも可能ですか?

西田
 可能です。その時には、例えば初診受付で「西田に来いと言われた」と言えばすぐに通るようになっています。紹介状がなくても高い初診料は取られません。

 

Q:
 それは先に西田先生がおられる感染症内科に連絡して予約を取ってからの方がいいですか?

西田:
 そうしてもらってもいいですし、いきなりでも構いません(但し、西田の外来日は月曜・火曜の午前です)。あらかじめ連絡しておいてもらえると、ナースコーディネーターが対応の準備をしています。

 

Q:
 実際に月経過多の対処療法として凝固因子製剤を打った方がいいのではないかと思っていたりするところはあるのでしょうか。

西田:
実際の経血量を減らす方法として今最も行われていて一般的なのは、低用量ピルなどです。ただ、そういったものだとやはりホルモン的なバランスを崩したり、あるいは今からの若いお嬢さんにはあまり向いていない方法かもしれません。ですから、今後は凝固因子製剤の適切な使用も視野に入ってくるかもしれませんが、実際にはピルを使わなければ大変な方もいらっしゃいます。ですから、低用量ピルと凝固因子製剤を天秤にかけた場合に、後者だと赤ちゃんを作ることに関しても負担は少ないので、こういった選択肢の広がりが今後出てくる可能性があると思います。

 

Q:
 トランサミンなどを月経過多に使用するのはどうでしょうか。

西田:
 トランサミンで効いてくれれば、それに越したことはありません。でも、おそらくあまり役には立ってくれないと思います。ただ、これで効果があったというのであれば、それがベストです。だから、試してみることに対しては全くやぶさかではありません。

 

Q:
 低用量ピルなどをもらおうと思うと、絶対に婦人科へ行かなければいけなくなります。そうなると婦人科に受診するのが先になりますか?

西田:
 どちらが先でも結果は同じだと思います。例えば、我々にところに相談されても婦人科を紹介します。先ほど言ったように、まずは婦人科的な問題があるのかどうかをきちんと調べてもらわなければいけません。婦人科へ先に行かれても、こちらの方へ話が来ると思います。ですので、どちらを先に行かれても同じだと思います。

 

Q:
 保因者が出産する時には鉗子分娩や吸引分娩のような器械分娩によって頭蓋内出血を起こす場合があると先ほど先生がおっしゃいましたが、リスク的な問題で、経腟分娩と帝王切開の場合では、やはり帝王切開の方がリスクは少ないのでしょうか。

西田:
 帝王切開の場合なら頭蓋内出血のリスクは原則的にゼロです。

 

Q:
 子どもに関してはゼロかもしれませんが、帝王切開による保因者の出血の量としてはどうでしょうか。

西田:
 保因者の方には凝固因子活性が20%とか6%などといった低い方もいらっしゃると先ほど言いましたが、女性の身体は非常によくできたものでして、妊娠すると凝固因子活性が上がってくるのです。そして、出産時には多くの方が100%を超えています。ですので、分娩の時にお母さんが出血で困ることはまずありません。ところが、赤ちゃんが出てしまうと元の自分に戻ります。50%近くの保因者の方に出産後出血があると先ほど言いましたが、このためなのです。出産は困らずに、たいした出血もなくできるのですが、産後にビックリするような出血があったということはあります。ですから、帝王切開をする時の出血傾向にはあまり心配をする必要はありません。しかし、血友病B保因者の場合は、出産時にも9因子活性はあまりあがらないので、出血に対する配慮は必要となることがあります。

 

Q:
 そうすると、経腟分娩よりは帝王切開の方が良いということですか?

西田:
 これはかなり文化的な背景もあって、お母さん一人ひとりの思いも全く違います。自然分娩に対する思いは国によっても違うし、年代によっても違います。だから、やはり「お腹を痛めた子どもでないと・・・」という文化も尊重すべきですが、次第に帝王切開が増えているのが現実です。特に欧米では増えています。なぜなら、一つには頭蓋内出血などの出産時の事故をゼロにできることがあります。2つ目には、やはり訴訟の問題もあります。医療事故で訴訟問題になることを恐れる医療側が、より安全な帝王切開を勧めることがあります。これら2つの理由で帝王切開は増えてきています。

 

Q:
 私が娘を生んだ時は吸引分娩でした。もし頭蓋内出血をしていたとしたら、その場で分かるものなのでしょうか。その時に頭蓋内出血については何も言われなかったということは、頭蓋内出血はしていないということでいいのでしょうか。

西田:
 非常に程度の低いものであれば、その場では分からないこともあるかもしれません。ですから、決められたものとして新生児にはエコーなどを必ず行うことも一つの方法となってきていますが、非常に軽微なものであれば分からなかったかもしれません。

 

Q:
 別の理由で大学病院のNICUに2週間入っていろいろな検査をされたと思うのですが、もし軽微でも頭蓋内出血していればその時に分かるものでしょうか。

西田:
 おそらく分かっているはずですが、過去にそういうことがあったのではないかというのがご心配なわけですか?

 

Q:
 「もしかしたら頭蓋内出血していたのかな」という心配です。それが今も何らかの後遺症として出ていたり、これから出たりするのだろうかという心配があります。

西田:
 小児科の先生にお伺いしたいと思います。

小児科の先生:
 問題ないと考えられていいと思います。NICUに入られて、2週間入院されていて、特に今まで後遺症を指摘されていないのであれば、出血に関しては全く問題ないと考えていいと思います。

 

Q:
 大学病院に運ばれたのが、筋力が弱くてミルクが飲めなくて、不整脈とかで・・・

小児科の先生:
 NICUに入院された場合は、エコー検査をまず実施されていると思いますので、頭蓋内出血に関しては、なかったと考えられていいと思います。

 

Q:
 2人目を産む時に、この子がかかっている病院の小児科の先生に「何か注意しておくことはありませんか?」と聞いたら、今はもし保因者が生まれるとしても、私が保因者なので、子どもが血友病や保因者であったとしても、今は特に吸引分娩などは気にしなくていいと言われました。

西田:
 女の子だと分かっていたのですか?

 

Q:
 いや、2人目は男の子です。

西田:
 「吸引分娩をしなくていい」と言われたのですか?

 

Q:
 今は血友病だからといって吸引分娩はダメなどといった考えはないと言われたのです。

小児科の先生:
 吸引分娩自体は産婦人科の先生は避けようとします。出血のリスクを考えると鉗子分娩はされなくなってきて、吸引分娩もよほどでないと行いません。胎児が降りてこない時には、陣痛促進剤の使用や帝王切開が選択されると思います。

西田:
 でも先生、結構いらっしゃるのです。

小児科の先生:
 吸引分娩は避けようという話になっていると思います。

 

Q:
 陣痛が弱くて、結局吸引分娩で出てくるまでに16時間ぐらいかかったのですが、陣痛促進剤のことは言われませんでした。それで吸引分娩という話になったのですが、陣痛促進剤を打たなかったということは、そこまで陣痛は弱くなかったのでしょうか?

小児科の先生:
 産科のことになるのでなかなか難しいのですが、陣痛促進剤を使うかどうかは、ケースバイケースで、主治医の先生の判断になるかと思うので、陣痛が弱かったから使ったのだろうとしか言えません。

 

Q:
 陣痛促進剤は使いませんでした。でも陣痛は弱いので吸引分娩になったのです。

小児科の先生:
 実際にはその状況に応じた判断になってしまうと思うので難しいです。