世界血友病連盟(WFH)2016世界大会 参加報告 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

世界血友病連盟(WFH)2016世界大会 参加報告

世界血友病連盟(WFH)2016世界大会 参加報

ネットワーク医療と人権 花井 十伍

 

 今年の7月24日から28日まで、アメリカ・フロリダ州オーランドで開催された、世界血友病連盟(World Federation of Hemophilia,WFH)の世界大会WFH2016に参加したので、そのご報告をしたいと思います。

大会会場 正面

 今回の大会の様子をお伝えする前に、私とWFHとの関係について少し紹介させてください。私は、中等症の血友病Aの患者で、HIVに感染したことによって、1996年前後にケアーズにもかかわることになりました。日本の血友病患者のHIV感染問題は周知の通り、国と製薬企業を被告としたいわゆる「薬害エイズ」裁判の結果、和解による解決が図られ、国による恒久対策としてHIVの医療体制の整備が行われました。また血友病に関する対策についても、被害者のほとんど全てが血友病患者であることから、1996年の裁判和解以降は原告団による権利擁護活動が行われてきました。

 私は、京都に住んでいた頃、病院の紹介などでお世話になった、元・洛友会の会長でもあり、二代目の原告団代表でもあった、故石田明氏の助言から、血友病のHIV感染問題にかかわるようになり、故屋鋪恭一さんや、衆議院議員も務めた、家西悟さんなどとの出会いから、ケアーズや原告団活動にかかわるようになりました。そうしたHIV問題から入った私にとって、血友病患者会やWFHに対する印象は芳しいものではありませんでした。WFHに関して言えば、1983年のストックホルム大会において、非加熱製剤の使用継続が決議され、元帝京大学副学長の安部英氏などによって、非加熱製の安全性を喧伝する結果を招いた元凶であると考えていました。しかしながら、和解成立以降、血液新法への取り組みの必要から、欧州を訪れ、各国の血友病患者の取り組みを知ったことをきっかけとして、WFHが完全な組織ではないにせよ、重要な役割を担おうとしている姿勢を徐々に理解するようになりました。

 欧州諸国においても、HIV感染の問題は大きなインパクトをもった問題であり、血友病患者会は、HIV感染問題を機に活動を活発化していきました。しかしながら、日本のように原告団が主体になるような枠組みにはならずに、あくまで血友病患者会が主体となっていたことから、HIV感染症が治療可能になった1990年代半ば以降、徐々に血友病全体の問題とのバランスを考慮するようになっていったようです。1997年頃の時点で、オランダ患者会の、キース・シュミット氏に「血友病問題全体の中で、HIVの占める割合はどのくらいか?」と尋ねた時には、氏は二割程度が適切ではないか、と話していました。
 
HIV感染問題で日本の患者会活動が停滞した理由は、裁判の経緯から、多くのアクティブな患者が被害者救済グループとして活動していたためでもありました。しかしながら、原告団を中心とする被害者グループの活動は、やはりHIVやC型肝炎への対策が多くを占め、新たに血友病患者として生まれてきた次世代の患者やその親御さん達にとっては、参加しやすいとは言えませんでした。ヘモフィリア友の会全国ネットワークは、こうした状況を打開すべく構想されました。全国の血友病患者会のゆるやかなネットワークとして設立され、今回のオーランド大会において、日本を代表するグループとして、WFHに正式加盟を果たしました。

 2016年WFH世界大会はこれまで最多の125か国を越える国々が参加したそうです。WFHの基本的ミッションは、「全ての血友病患者に治療を」で、現在の加盟国は134か国です。現在、先進国では最新の遺伝子組み換え製剤による定期投与が行われていて、若い世代の患者は健常者と同様の生活を送っているのに対し、75%を占める途上国の患者はいまだに生命の危険にさらされているおり、こうした現状を改善することがWFHの課題となっています。私がはじめてWFH世界大会に参加したのは、1998年ですが、それから18年間で大会の様子は大きく変化しました。今も昔も世界大会で、もっとも目を引く空間はやはり、製薬企業のブースが立ち並んでいる会場ですが、血液製剤のメーカーは鳴りを潜め、遺伝子組み換え製剤メーカーが軒を並べており、かつては大きなプレゼンスを主張していた、献血を扱う非営利メーカーは、あまり目に付かなくなりました。それでも、フランスLFBやイギリスBPLなどは、ブースは出していたものの、凝固因子製剤は、細々といった感じで、赤十字に至っては、大会を通じて、ロゴマークを見かけることすらありませんでした。

 今回のプログラムを見渡してみると、定期投与の普及や保因者、女性、類縁疾患に関するものが増えてきているのが見て取れます。その他では、インヒビター、エイジング関連、整形、遺伝子治療などが散見されますが、インヒビターなどはかつてより少なくなってきている印象です。感染症に関しては、C型肝炎治療に関するものが一つだけで、HIV関連のセッションは一つもありませんでした。新しいところでは、半減期延長型製剤や医療技術評価のセッションが先進国における今日的話題かもしれません。こうした傾向は当然のことながら、現在の世界の患者の状況を反映したものとなっています。
 
定期投与に関しては、大きく二つの問題が指摘されていました。先進国においては、患者の拒否やアドヒアランスが問題になっているのに対して、途上国においては、そもそも十分な製剤が無い中で、患者の理解も進んでいないことが定期投与の障害となっていました。血友病患者は、どこの国でも概ね同じ比率で出生していると考えられていることから、診断率に依存しないように、人口あたりの凝固因子単位数(一人当たりの単位数、IU/人)で、治療水準を推定する手法が用いられます。人口あたり1単位を下回ると、重度の障害や死亡のリスクが急速に高まり、1単位を超えると、死のリスクは急速に低下します。日本においては1990年代に人口あたり1単位程度で、現在は4単位を超えています。人口あたり4単位を超える場合は、定期投与を行うべきという意見が多く聞かれましたが、1単位から2単位の間であっても一定程度は可能であるし、少ない量であっても定期投与が有効であるとのデータも示され、途上国であっても定期投与は血友病治療の基本であるべきという合意がなされつつあるのを感じました。

 保因者については、凝固因子活性が低く、伝統的社会的バリアのために、本人も貧血等の症状を見過ごしてしまったりしやすいことから、積極的にケアするべきという主張や、診断の意味とその伝え方について十分な検討が必要であるとの主張など、いまだ意見の収斂を見ていないように思われました。
 
医療技術評価のセッションでは、画期的新薬の価格高騰が医薬品の選択権を患者や医師から奪いつつある状況が世界的に広がっている現状が示されました。費用対効果の問題が血友病治療にも無縁ではなくなってきた危機感に基づくもので、医療技術評価の先駆け国であるイギリスとアメリカの取り組みが紹介されました。

総会会場

 

 最終日の総会では、日本が正式メンバーとして承認されましたが、2022年開催国の投票が行われず、事務局主導でモントリオール開催が決定しました。開催地の決議においては、これまでのように、候補国が会議中も選挙活動を行い、決戦投票が行われて確定するお祭り的ムードは鳴りを潜め、事務局に対する質問や意見が出され、深刻なムードの中で投票が行われ、モントリオール開催が決まりました。こうした一幕に、WFHの変化と置かれている厳しい状況を見てとることができます。今回の大会で、気がついたこととして、かつての大会では、一目見れば大会参加の患者であることが見て取れましたが、今大会の会場周辺を見るに、患者かどうか判別できなくなってきました。あきらかに「障害」をもった患者が減ってきているのです。これは、先進国であればあたりまえの事かもしれませんが、WFH加盟国の大多数が満足な治療環境にないことを考えると、そもそも、会議に出席している患者は先進国中心であることがわかります。もちろん、正式加盟国であれば、WFHのファンドで代表者は出席しているわけですが、おそらく人数は1ないし2名程度で、複数の患者が出席しているのは、やはり先進国であるということなのでしょう。つまり、WFHに加盟する多くの国は、支援を求めている国々であり加盟国が増えるたびに、必要とするファンドが巨額なものになっているはずです。そうしたなか、世界大会は資金集めの場としての意味合いがより強くなってきたために、これまでのように、各国持ち回り開催を長閑に行う余裕がなくなってきたのだと思われました。世界大会で大きな黒字を出したのは、2000年のモントリオール大会が初めてで、やはり地元で開催することのメリットを痛感したはずです。運営戦略を優先する今回の決断は、一定程度合理性が認められるものだとは思いますが、これまで培ってきた世界規模の患者のネットワークは、そうした合理性以外のそれぞれの土地での患者同士のコミュニケーションによって力を得てきた事実を忘れてはならないように思います。こうした課題は、先進国として正式加盟した日本のネットワークも背負って行く事になるでしょう。

アラン・ベイルWFH会長の基調講演


 どのような疾病や「障害」をもっていても、自由意思をもって幸福を追求できることは、基本的な人権です。WFHはこうした理想を実現することを目指す組織であることは間違いないでしょう。また、国内に目を向けても、いまだこうした理想には届かない問題がたくさん存在しています。少なくとも、血友病・先天性凝固異常症という領域でこうした理想を実現することが、輸血時代から感染症の時代を生きてきた私たちの役割であることを再認識したオーランド大会参加でした。