「血友病性肘関節症の予防と治療」 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

「血友病性肘関節症の予防と治療」

大阪友の会 医療講演会報告

「血友病性肘関節症の予防と治療」

独立行政法人 地域医療機能推進機構(JCHO)大阪病院
整形外科 部長 島田 幸造 医師

 

 スポーツ障害はわりと子どもに多いので、竹谷先生から「子どもの血友病患者さんを治療してあげてほしい」というお話をいただいて以来、血友病を勉強しながら仕事をさせていただいています。今日は肘の関節を中心にお話します。

    

 そもそもどうして関節症になってしまうかということは、皆さんもすでによく勉強されてご存じだとは思いますが、少しおさらいしながらお話したいと思います。今日のコンテンツは、「血友病でなぜ関節障害が起こるのか」、そして「その予防は可能なのか」、それから「関節症になってしまった場合、それは治るのか」、「スポーツはできるのか」、あとは「治療法としては、どんなものがあるのか」です。治療の話になると、どうしても手術が中心になりますので、「どんな手術があるのか」というお話をします。

 これらのお話をする上でのポイントとして、こちらも皆さんよくご存じだと思いますが、血友病には出血しやすい時期や出血しやすい部位が年代ごとにあります。また、健常人でも軟骨損傷はそもそも治りにくいです。このことは知っておいていただきたいです。あとはターゲット・ジョイント(標的関節)です。標的関節は出血を繰り返すことで、出血しやすい滑膜炎が起きます。まだ滑膜炎だけの段階なら可逆性、つまり元に戻せるのですが、関節症になって骨や軟骨にまで損傷が及んでしまうと、非可逆性といって、今の医学では正常な状態に戻すことはできないことになります。すでに何度もお話は聞かれていると思いますが、滑膜切除という方法で出血頻度を減らすことができます。ただし、血友病患者さんに対する手術の管理はやはり簡単ではありません。特にインヒビター(抗体)ができてしまって出血のコントロールが難しい患者さんに対しては、手術管理が非常に難しくなってくるので、リスクが伴うことも知っておかなければいけません。
 
もう一つは、小学生以下ぐらいの子どもさんは、いくら言って聞かせても、なかなかリハビリにのってくれません。もちろん非常にがんばってくれる子もいるのですが、どうしても甘えてしまうというか、痛いことはしたがらない子が多いのです。しかし、これは手術さえすれば治るものではありません。周到なリハビリがあってこそ初めて効果が得られるものなので、この辺りのことは理解しておく必要があります。

 関節の構造ですが、簡単に言うと、骨と骨との間や骨の表面などの動く場所には軟骨があります。軟骨は表面がツルツルになっています。それに比べて、骨は表面がザラザラしています。

図1

 このツルツルの軟骨が骨と骨との間で接するから関節は動くのですが、この軟骨がなくなってしまうと関節は機能を失います。もう一つは、これを支えている靭帯です。膝にはクロスした靭帯が関節の中を通っていますが、これを十字靭帯といいます。また、関節の外側を支えている靭帯もあります。こういった靭帯が骨を支えることによって安定した関節が作られ、軟骨同士がぴったり接するような動きをしているのが正常の関節です。図1は膝関節の構造を示していますが、表面は白いツルツルの軟骨に覆われています。そして、その間に前十字靭帯と後十字靭帯という2つの十字靭帯があることによって、関節は前後にずれずに安定した動きができるのです。怪我をしたりしてこの靭帯が切れてしまうと、膝がグラグラして安定を欠いてしまいます。そうなると、ほんの少しのことでも軟骨をゴリッと強く擦ってしまうことなり、それで軟骨損傷が起きてしまいます。そして血友病の場合には、それに出血が伴います。あるいはリウマチなどでもそうなのですが、関節の中に液体が溜まってしまい、パンパンに膨れると靭帯が緩んでしまいます。靭帯が緩んでしまうと、少しの動きでも軟骨損傷をきたしてしまうことになります。ですので、血友病患者さんが関節を痛める原因には、外傷とは違うメカニズムがあるということです。

図2

 変形性膝関節症は健常な人でも起こります。特に女性に多いのですが、50~70歳ぐらいになってくると自然に軟骨は減ってきます。そして関節の中に水が溜まり、その度に関節腔が風船を膨らませたようになり、炎症が起こった後も靭帯の弛緩が起こってしまいます。そうすると関節がガタガタと緩くなりますから、傷んでいるところに余計にストレスがかかり、さらに軟骨損傷が進んでいきます。
 
当然体重が重かったりすると、かかるストレスもそれだけ大きくなります。肥満は変形性膝関節症のリスク・ファクターなので、できるだけ痩せることが大事です。
 
膝の悪い人には大腿四頭筋の訓練を勧めています。座って膝を伸ばして筋肉を鍛えるように勧めているのですが、これは筋肉で関節の周りをしっかり固めることが目的です。たとえ靭帯や軟骨が少々傷んでいても、周りの筋肉がしっかりしていて安定すれば、骨や軟骨へのストレスが緩和されるからです。関節を安定化させるための筋力トレーニングで、これは非常に大事です。変形性膝関節症の人に対して、我々が必ず指導することです。
 
ここまでは一般的なお話しでしたが、実際にこういうことはどういった怪我をすることによって起きるのかということをお話したいと思います。怪我をする部位としては、靭帯や軟骨の表面、それから膝の場合には大腿骨と脛骨の間に半月板という特殊な軟骨があります。これはクッションのような働きをしているのですが、これも軟骨の一つで、こういった部位を傷めることで軟骨本体の部分がどんどん傷んでいくことになります。

 多いのはスポーツによる怪我です。バスケットボールやアメリカンフットボール、あるいはサッカーなどで膝をドンとついてしまう時に、このような怪我が起こります。先ほど申し上げたように、筋肉のトレーニングをしていて下半身が安定していると、なかなかこういった怪我はしないのですが、下手だったりしてクッションを利かさずにドンと膝をついてしまうとこういった怪我に繋がります。それから、何度も繰り返し同じ動作をすることによって、どうしても下半身の粘りが悪くなって、膝に直接負荷がかかってしまう場合もあります。

 これは水上スキーの動画です。この方は非常に上手な方です。最初のジャンプの時などは、足首や股関節を上手く使ってスッと着地しているので、膝には全く負担はかかっていません。ところが、いろいろな動きを続けていると、やはりかなり筋力を使うのでだんだんと疲れてきます。そして2回目のジャンプの時にはだいぶ無理が来ていて、難しい技をしたということもあるのですが、もう完全に腰が落ちてしまって膝がグッと入ってしまっています。それでもなんとか耐えているのですが、3回目にいよいよ悲劇が起こります。技でもう精一杯になっていて、全く粘りなくこのまま足から落ちてしまいます。後傾してお尻から落ちていっているのです。すでにお尻が落ちてしまっているので、全体重が膝を後ろに持っていくような力になってしまっています。そして膝のところで前後に力をかけてしまって靭帯が切れてしまいました。

 別のモトクロスの動画では全くクッションを効かせていなくて、足からドンと落ちてしまっています。ですので、股関節や足首を柔らかくして、体幹、身体全体でクッションを効かせていくと、靭帯損傷はなかなか起こりません。血友病の患者さんはそれでなくても関節を痛めているので、こういうスポーツはかなり危険だということになります。もちろん健常人でも、こういうやり方をしてしまうと怪我をして靭帯を傷めてしまうのですが、血友病の患者さんなら出血は必発です。

 先ほども申しあげましたが、安定性の破綻、適合性の破綻、そしてそれを繰り返しているうちにどんどん軟骨の性状が劣化していくのが関節症です。
 
年齢とともに日常の生活の中で軟骨が擦り減っていくのが典型的な変形性膝関節症ですが、二次性の変形性膝関節症もあります。
 
つまり、加齢以外の原因によって徐々に関節の破壊が繰り返されていってしまう関節症です。
 
血友病性関節症やリウマチも二次性関節症の一つですし、怪我をしたことによって若い人に関節症が起こってしまうことも二次性関節症になります。先ほどの動画のような怪我をすることによって靭帯を傷めたりして不安定になって軟骨を傷めてしまうような場合です。

 骨と軟骨の違いですが、骨は「骨髄」というぐらいで、中身は血液を作っている組織です。骨には血管が通っていて、見た目は堅そうですが、血流が実は豊富です。血が通っているということは栄養がそこに行くわけで、再生、骨新生という現象が起こります。それに対して、軟骨は表面がツルツルしていて全く血管が入り込んでいないので、血液の侵入はないということになります。血流がないということは、基本的に栄養はやって来ないということですから、再生はほとんどしません。
 
実際には関節液という潤滑油から少し酸素の交換をしたりしているので、もちろん軟骨の細胞も生きているのですが、非常に活性は低いです。
 
ですので、骨欠損はある程度再生して修復可能ですが、軟骨欠損の修復は非常に困難です。軟骨が傷んでしまうと、それは不可逆性、元には戻らないということを理解しておく必要があります。

図3

 図3は、実際に私たちが手術をする時に肘の関節鏡にどう見えているかを示したものです。軟骨は真っ白で非常にきれいです。ところが、軟骨と軟骨の間に軟骨の欠片のようなものが挟まってしまっています。これが痛みの原因だったり、曲げ伸ばしする時に引っかかったりするので、その手前のところから鉗子を入れて、周りのビラビラを掃除しました。奥の方にある小さな欠片でも表面を傷つけることがあるので、それも取り除いています。バサバサしていて少し傷んでいるところもありますが、まだ完全欠損にはなっていません。

     

 左の写真は、関節の中で骨折したというケースです。折れた骨がむき出しになっているところから出血しています。血友病でも最初の関節内出血の時は、おそらくこういうことが起こっていると思います。ただ、この段階では関節軟骨は割れてはいますがまだ傷んでいませんので、グッと戻してあげてピタッと合えば、ほぼ修復は可能です。厳密に言えば少し段差はあるのでしょうが、この場合はだいたいきれいな形に戻せて、軟骨もそんなに傷んでいません。
 
右の写真は、野球肘です。まだ軟骨が弱い時期に野球をやり過ぎたことによって、軟骨が剥げたようになっています。これがあまりに大きくなってしまうと、その部分の軟骨は元には戻りません。たとえ小学生でも、こうなってしまうとこの部分自体はもう元には戻らないです。ただ局所、例えば「肘の外側のある部分1センチぐらい」などというふうに限局していれば、その部分が欠損していても、肋骨をトリミングして修復することは可能です。
 
肋骨は一部、途中から軟骨になっています。人間が深呼吸、大きく息を吸ったり吐いたりする時は、胸郭が大きくなったり小さくなったりしているのですが、それはその軟骨の部分がある程度伸び縮みするから可能なのです。
 
その軟骨になっている部分をトリミングして、肘関節の欠損している部分にはめ込んでいます。そうすると、写真に示しているぐらいの欠損であれば、わりときれいに治せます。

     

 局所が傷んでいるのであれば、我々はこのようにして治す技術を持っています。しかし、これが何十年もかけて全体が擦り減ってしまっている場合は左の写真のようになります。全体がガタガタしていて、何かしらの大きな欠損があります。こうなってしまうと、いくら肋骨から移植して欠損を埋めても、全体がガタガタしてしまっているので、きちんとした解決にはなりません。一部分だけきれいにしても、次はその横の部分が傷んでくるということになります。そのような広範な変形性膝関節症になってしまうと、人工関節による機能改善が必要になります。
 
今はすごく良い人工関節がたくさん出ていますので、なんとか対応はできます。もう悪いところはなくなってしまうわけですから、少しも痛くなくなります。歩くのも全く平気です。ただし人工関節はチタンで表面を加工して骨と適応するようにしてありますが、10年、20年と使っていると骨と金属の境目に緩みが出てくることが多いです。また、先ほどの動画にあったような激しいスポーツをして怪我をしてしまうと悲惨なことになります。

最近、我々のところでお年寄りによく見られるのが、人工関節周囲骨折です。人工関節の繋ぎ目辺りで骨折したり、あるいは人工関節にかけて骨折したりします。そうすると、新しい人工関節を入れ直しても不安定になるので、だんだん大きな人工関節を入れなければいけなくなります。あるいは中にセメントを入れて安定を図ったりもしますので、異物の量も多くなります。また、折れる場所によっては上の方の骨をえぐって芯の場所を移動させ、次また折れた場合はまたその上へというふうにキリがなくなってしまいます。
 
もちろん人工関節はこういった重症関節症の人たちにとっては福音なのですが、やはりこれは大事に使っていかなければいけないし、ある程度制限しないと、その人の一生を台無しにしてしまいます。ですから、ご本人も少し「制限はあるものだ」と思っていただかないと、人工関節の手術は怖いです。

 まとめますと、軟骨の局所的な損傷なら局所への軟骨移植でなんとか治せますが、広範な関節症は人工関節以外では難しいということになります。

 血友病の話に入ります。「血友病と血友病性関節症」ということで、皆さんもご存じのことが多いと思います。血友病の出血の種類ですが、だいたい生後すぐは自然の皮下出血や頭蓋内出血が多いです。
 
そして、だんだん歩くようになってくると、膝や足首の関節が代表的な出血部位になると思います。そして、そういったところを痛めたりすると、今度は手で体を支えることになるので、次に出血するのは肘です。
 
ですので、膝、足首、肘の3つが代表的な出血部位になります。あとは股関節ももちろん体重がかかるはずなのですが、股関節障害はわりと珍しいです。股関節は元々完全な球形です。骨盤のソケットにスポンとはまっているような形なので、わりと安定しています。そういったこともあって股関節は出血しにくいのだろうと言われていますが、もちろん出血しだすとやはり破壊は進みます。くり返しますが血友病の代表的な出血部位は、やはり膝、足首、肘になると思います。また血友病には出血しやすい時期や部位があるというのも特徴です。

 では、その中でどういうことが起こってくるのでしょうか。
 
関節の中には、滑膜という関節内部の状態を一定に保つための機構があるのですが、関節内出血をしたことによって、そこに血液のような異物が入ってくると、それを排除しようという機能が働いて、滑膜が増殖します。滑膜が異物を排除するには、それを消化して、溶かして排泄しなければいけないので、そのための排泄路が必要になります。要するに、血管の中に異物を吸収して外へ出すための血管増生が起こるということです。

     

 それがスッと終わればいいのですが、この時の滑膜は少し腫れていて血管が豊富になっていますので、ちょっとした刺激でまた出血します。この悪循環が繰り返されて、やがては異常に滑膜が増生してしまいます。滑膜には異物の排除だけではなく、いろいろと関節の中に炎症を起こすような働きもありますので、関節破壊が進んでしまいます。
 
こういう出血を繰り返してしまっている関節は標的関節、ターゲット・ジョイントと言われます。
 
関節内で出血すると、それを処理しようと滑膜が大きく伸びてきて、炎症を起こす細胞とともに異物を排斥していくのですが、だんだん滑膜が増えて密度が高くなってくると、軟骨も傷んできます。

 軟骨がだんだんやられてくると、ついには骨までえぐられるような穴が開いてしまい、あるいはもっと破壊されてしまいます。こうなってしまうと、このままでは治せません。また、滑膜が増殖して腫れると、だんだん関節包が膨れて緩んでしまいます。
 
そうすると、こういった関節は動かすだけでガタガタしてきて不安定になります。あるいは軟骨が全くなくなってしまって骨同士が接している形になってしまうと、動かしていないところは固まって癒合してしまい骨性強直ということになります。

 この写真は、血友病患者さんの滑膜を関節鏡で見たものです。血管が透けて見えています。少しでも擦れると出血しそうな滑膜で、ジャングルのようになっています。手術ではこの滑膜を全て削り取るのですが、そうすると穴の開いた骨が見えてきます。この場合、軟骨はほとんどなくなってしまっています。先ほどの野球肘の関節などと比べると、かなり赤茶色っぽくなっています。このように、元々正常だった膝や足首、肘の関節の軟骨がだんだんと擦り減り、骨がガタついてきて破壊されていくのが血友病性関節症です。肘の場合は、膝や足首のように普段から体重がかかるところではないので、ガタガタさせながらも動かしていると、関節が詰まっていくというより、どちらかというと関節の間がえぐれていくような場合もあります。
 
所見とすれば、もちろん出血すれば痛いです。ところが、関節が悪くない、まだきれいな状態の時は、出血した時だけが痛くて、出血が止まってしまえば痛くありません。それがだんだん軟骨も傷んでくると、動かすだけで痛みを感じるようになってきます。やがて炎症性の滑膜炎が酷くなると、じっとしていても痛くなります。これは末期関節症ということになります。その他の所見とすれば、出血すると腫れや熱感があります。それから動かすと引っかかる、擦れるような感じがします。そして元々の形から変形していきますので、だんだん動きが悪くなってきます。初めのうちは出血して腫れている時だけ動きが悪く、出血が止まると元通り動いていたのが、だんだんと関節が固くなってきて動きが悪くなってしまいます。また、レントゲンを撮ると骨が不整になっていたり、MRIで見ると関節の中に水が溜まっていたり、滑膜が増殖していたりするのが分かります。
 
もう一度言いますが、骨と軟骨の違いとしては、骨は新生してくるので欠損していてもまだ形を修復させることはできますが、軟骨の修復は、完全に不可能とは言いませんが、かなり難しいということは覚えておいてください。ですので、関節内で出血が起こっても、軟骨がまだ残っている間は可逆性です。軟骨がなくなってしまうと、完全な元の状態には自然には戻りません。
 
これをどのように治すかということですが、例えば滑膜切除をして滑膜をなくしてしまえば、その部分にだんだんと骨は再生してきます。そしてその上に、完全な元通りの軟骨ではないのですが、ある程度クッションのような働きをしてくれる線維軟骨が再生して、その部分を埋めてくれます。

 従来行われる滑膜切除の方法としては、関節包と呼ばれる関節の壁を切って、関節の中に入って掃除するという直視下という方法があるのですが、私たちがよくやっているのは、関節鏡視下の滑膜切除手術です。これは横からスコープを入れて、要するに関節包にあまり傷を入れずに、もちろんスコープが入るところだけは6~7ミリほどの傷は付くのですが、そこから内視鏡を入れて中を掃除するという方法です。いずれにせよ、滑膜を取り除くことでこういった新生、再生を促してあげるというのが滑膜切除手術です。この方法によると、ある程度修復は可能です。少しガタつきは残りますが、病的な滑膜は減ることになります。滑膜はまた再生してきますので、出血さえしなければ元に近い滑膜になります。
 
軟骨さえ残っていれば、たとえ関節内出血を繰り返していても、きちんと薬でコントロールしてあげれば関節温存は難しくありません。しかし、軟骨がなくなり骨にまで影響が出てくると、やはり治療介入しなければならなくなります。滑膜切除手術などをすれば、まだ修復は可能です。血友病の患者さんに肋骨移植まではしたことがないのですが、たとえ血友病の患者さんでも、怪我をして軟骨や骨を傷めただけで、薬による出血のコントロールさえできれば、肋骨移植も理論的には可能です。ただ、もう完全に関節が破壊されてしまうと、もうその人の骨や軟骨で関節を生き返らせることは難しいので人工関節になります。
 
治療をする時、特に手術などということになると、やはり危険性と隣り合わせですから、その治療をして得なのか損なのかはやはり考えなければいけません。

 「リスクとベネフィット」という言葉があるように、大きな利益を得ようとすると、同時にやはり大きなリスクも抱えなければいけません。「何もしない」というのは、感染のリスクも骨破壊のリスクもありませんが、もちろん得られるものもありません。筋肉強化なら感染のリスクはまずありません。そして、それによって関節の安定性が得られたのであれば、多少のベネフィットは得ることができます。関節内で出血が起きれば、その血液は関節穿刺をして抜いてあげなければいけません。そうすると炎症は抑えることができますが、頻繁に穿刺していると、そこからばい菌が入ってしまうこともないわけではありません。関節を手術で固定したり、先ほどの滑膜切除手術をしたりすることになると、まさに手術ですので、当然感染など、それなりのリスクはあります。しかし、それによって出血しなくなれば、機能温存が可能です。人工関節になると、先ほど申し上げたように緩みや感染など、いろいろな問題がありますが、得られるものも非常に大きいです。この辺りのことを考えながら、上手く治療を選択していくことが大事になります。
 
滑膜切除手術ですが、従来の方法では関節の周りの壁にメスを入れるので、治っていく過程で、どうしても傷跡が瘢痕になって固くなったりすることが多くありました。それを鏡視下にすることで、感染のリスクも減るし、傷が瘢痕になるリスクも減るので、通常の滑膜切除手術よりは少しリスクが小さくなっています。劇的に違うわけではありませんが、そういった治療する側の工夫はあります。人工関節もどんどん新しいものができています。
 
リスクとベネフィットについて、例えば滑膜切除手術をある人にしようかどうかと考える時があったとします。この人は頻繁に出血していて、ものすごく痛がっています。でも若くて関節症自体は軽い。先ほど申し上げた、まだ可逆性の段階です。そして、あちこちの関節ではなくて、まだ1、2か所です。こういった方には滑膜切除手術をしてあげた方がリハビリも進みますし、ベネフィットは非常に大きいです。ただし、この人が免疫不全だったりインヒビターを持っていたりして手術に対する危険性を伴うような時には、もちろんリスクは上がります。また、非常に関節の動きが良い人は、たとえ鏡視下で手術をしたとしても多少動きは悪くなります。だから、メスを入れることによるマイナス面がないわけではありません。このことは理解する必要があります。ただ、鏡視下の手術にすることによって、こういったリスクは減らせるかもしれません。

 人工関節は、重症の関節症ならベネフィットは非常に大きいと考えます。ただし、人工関節は体にとっては異物です。つまり血が通っていません。ですので、薬が人工関節までは到達しません。これが生体組織との致命的な違いなのですが、もしも人工関節の周りに感染が起こってしまうと、なかなか治らないことになります。最終的には、手術で人工関節を一度関節から抜去しなければ感染が治らないこともあります。人工関節を抜去してしまうと、その膝、あるいは肘はグラグラになってしまいますので、かなり機能障害は大きくなってしまいます。これはリスクには違いありません。しかし、その辺りの薬が良くなってくれば、どんどん人工関節のリスクは下がるわけです。今はその辺りも良くなってきているので、人工関節置換術を実施してQOLを上げてあげようという流れになってきていると思います。ただし、リスクのこともやはり一応は頭の中に置いておかなければいけません。

     

 スライドの写真は血友病ではないのですが、リウマチで同じように骨破壊が進んでしまって、関節のところの骨がえぐれてグラグラになっています。まだ30歳の若い女性なのですが、肘が痛くて全然動かせませんでした。肘の人工関節も膝と同じように、片方にはだいたいステンレスやコバルトクロムのような金属が使われています。受け側は高分子ポリエチレンでできています。これをはめると非常に安定して、そんなに不自由なく使えるようになっています。痛くもなくなります。

 ただし、もしも関節に傷が付いたりした場合や虫歯の治療をせずに放っておいた場合などに、菌がそこから血液に乗ってたまたま人工関節のところに行ってしまうと感染を起こしてしまい、皮膚が破れて中から膿が出てきてしまいます。こうなると、治療には大変苦労をしますし、その後の制限も強くなってしまいます。できればそうなる前に、人工関節ではなく滑膜切除手術などで、つまり本人の組織で治してあげることができれば最善だと私たちは考えています。
 
特に肘は膝とは違って体重がかかる場所ではありません。もちろん膝が悪いから杖をついているなどという場合には肘にも体重はかかるのですが、やはり膝や足首に比べるとその頻度は少ないし、ガタガタになる前に治してあげられれば、身体を支える程度のことは十分可能になるかと思っています。

     

 症例1は17歳の男の子です。この方は、私が血友病性関節症の手術をさせてもらった最初の患者さんです。体重はそんなに大きくありません。元々重症血友病Bとして、両肘に頻繁に出血を繰り返していました。右の肘は120°くらい曲がります。伸ばすと完全には伸び切りません。左肘ですが、スライドの写真は出血をした直後なので、右肘よりも曲りは悪くなっています。ただ、元々は左肘の方の状態が良くて腫れも少なく、出血していない時はもう少しよく曲がります。130°くらい曲げられると何も困らないのですが、110°くらいになると、手が顔に届きにくいなどの障害になります。110~120°よりも悪くなってくると、治療の必要性が出てくると思います。

     

 左の写真は手術前のレントゲン写真なのですが、右肘はだいぶ骨同士が接してしまっているのが分かります。ちなみに、軟骨はレントゲンに写りません。軟骨は骨と骨との隙間としてレントゲンでは見えますので、その隙間がないということは軟骨が減ってしまっているということです。それに比べて、左肘はまだ軟骨が見られます。ただ、少しガタガタしています。最初に申し上げた「不安定な肘」という状態です。

 これは「アーノルド分類」といって、レントゲンを見て関節症の重症度を計ります。ステージ0は正常の関節で、ステージ5になると、もうガチガチに固まってしまっているということになります。この中でステージ2では、骨が少し痩せてきて、関節の周りが少し肥大してきていることになります。しかし、骨がえぐれてまではいませんし、軟骨のスペースも狭くはなっていません。この辺りだと可逆性ということになります。ステージ3になってくると、骨の方まで穴が開いてきて少しえぐれているのだけれど、まだ一応軟骨は全体としては残っているということになります。欠損はあるのだけれども、軟骨が残っているところも十分あるということです。ステージ4になると、軟骨がもう全体になくなってしまっている状態です。ステージ4ぐらいから非可逆性になって、ステージ2までは可逆性、ステージ3はその中間(ある程度まで可逆性)だと思ってください。

 これを先ほどの患者さんにあてはめると、右肘は骨同士が接しているのでステージ4になります。少し非可逆性に入りかけています。左肘はステージ3で、骨のあちこちにびらんもあるのですが、ギリギリまだなんとか救えるのではないかという段階でした。この時は両肘ともに出血を繰り返していたのですが、先ほどの「リスクとベネフィット」で言うと、左肘の方がベネフィットは大きいのではないかということで、左肘を手術しました。

 これは手術前のレントゲンとMRIの画像です。MRIは関節の断面を横から見た画像になるのですが、関節の中に穴が開いていて、滑膜が骨の中にまで入り込んでいます。そして、その周りにも滑膜炎が起きています。それから、もう少し外の方の断面を見ると、関節と関節の間が開いてしまっているのが分かります。水が溜まっているのですが、これは出血が古くなって溜まってしまった関節液です。

     

 左の写真は、上腕骨側の関節面と前腕橈骨の関節面です。軟骨がやはり毛羽立っていますがまだ残っています。この写真では見えていませんが周囲にたくさん増生した滑膜を掃除します。手術後ですが、16~17歳ぐらいになって、本人もしっかりリハビリをしてくれる場合には、右の写真のような装具を使ったりして、自分でも家でしっかり曲げたり伸ばしたりするように指導します。それと同時に、この患者さんはインヒビターを持っていたので、バイパス製剤を使って治療しています。この辺りについては、我々整形外科医は素人なので、インヒビターの患者さんの治療は、現状ではきちんとした血液の専門家がいる別の専門の施設で治療してもらっています。この症例では、私が血友病の専門の施設へ行って手術をさせてもらう形を取りました。

     

 手術後2年経つと、中の滑膜がきれいになくなって、骨の欠損した部分も再生してきています。ガタガタしていたところもなんとなく丸く、きれいになってきています。このように、軟骨変性や骨変形が起こって機能低下が進む前に病的滑膜を取り除くことによって、彼の活動度を上げることができました。5年経ってもずっと同じ状態が維持されているので、滑膜切除をすれば関節症の進行を遅らせたり、あるいは関節面の改変によって関節機能を回復させることができることを実感しました。彼は今、さすがにスポーツはしていませんが、普通に仕事をして生活しています。

 ただ、まだ右肘の回内外、手の平を下に向けたり上に向けたりする回転動作の制限がありました。右手が回外しないと、お金を払ってお釣りをもらったりする時に少し不便です。回内に関しては、45°回ればそんなに困ることはありません。肩が悪くなければ肩で代償して手の平を下に向けられるので、現実的にはあまり困りません。ただ、もし肩が固かったりすると問題になるかもしれません。左肘ほどではありませんが、時々出血もしていました。
 
彼の場合は、左肘が上手くいったので、右肘ももう少し何とかならないかということで、この時は滑膜切除に加えて橈骨を削る手術をしました。関節の出っ張っているところが腕を曲げたり回転させる時に当たってしまっていたので、そこをリンゴの皮を剥くように削るわけです。それで形を整えてあげると、手術後何年かで自然に形が整ってきました。こうして骨の形は良くなります。ただ、実際には骨を削ったところにきれいな軟骨はできません。先ほど申し上げたように、線維軟骨という少し質の悪い軟骨ができてくるのですが、膝のように体重のかかるところでなければ、肘の場合にはこういう方法で十分です。ですので、できるだけ人工関節を入れずに済むような治療、特に患者さんの年齢が若い時には、後々の長い人生を考えると、できるだけ肘に関しては人工関節を入れないで済む方法が良いと思って治療を進めています。ちなみに、彼は手術の後、両肘とも関節内出血を1回も起こさなくなりました。

 症例1をまとめますと、頻回に出血する左肘と動きが悪くなっている右肘に、順次鏡視下の滑膜切除手術を行い、右肘の時には骨の形成も同時に行いました。手術時の出血は、ノボセブンとファイバの両方を使ってなんとかコントロールできました。結果として、可動域の減少も機能の低下も来すことなく、出血もしなくなり、レントゲンで見る限り骨の形も良くなったので、この状態のまま長持ちできるのではないかと思って今も診させてもらっています。彼は1年に1回は必ず診察に来てくれるので、また10年経ったらこうだというお話もできると思います。

 次に、多数の関節に障害を来している症例2をご紹介します。19歳の男の子で、血友病Aです。10代から右足、右肘と、あちこちの関節がやられてしまっています。これまではオンデマンドに、出血したら製剤を打っていたのですが、きちんと血友病の専門の先生に診てもらうようになって、出血の頻度は減りました。ところが、ターゲット・ジョイントになっていたところに関しては、やはり時々出血してしまいます。要するに、易出血性の滑膜が完成してしまっているので、これをなんとかしたいということでした。

 これは手術前の右肘と右足のレントゲン写真です。レントゲンで見ると、やはり骨の表面があちこちでガタガタしていてえぐれたようなところもあります。関節の隙間も狭くなってしまっていて、軟骨がかなり擦り減ってしまった状態です。

 手術についてですが、身体を横向きにすると、肘と足の両方を同時に手術できますので、1回の手術で肘と足を同時にやりました。手術後3ヶ月ではまだ少しガタガタしていますが、それが2年ぐらい経つと、線維軟骨ができてくることによって隙間ができてきて、動きもそんなに悪くなくなりました。滑膜切除をしたので、出血もその後ピタリとなくなりました。この患者さんは左肘と左足は悪くなかったので、手術後は左足に体重をかけながら左手で杖をついてもらいました。そうやって右肘と右足をカバーできる状態だったので、こういう手術が可能でした。その辺りのことを考えて手術をしてあげないと、両手、両足が悪い場合には車椅子の生活をしばらくしてもらうことになってしまいます。この辺りはリスクとして手術前に考えておかなければいけません。ただ、条件が合えば、こういうことも可能だということです。

 手術前と2年後を比べてみると、関節のガタガタした感じがずいぶんスッキリして、少し長持ちさせられるのではないかと思っています。ただし、この患者さんは少し太っているので、肥満を解消するための指導もしています。

 まとめますと、この患者さんはインヒビターもなかったので、同側肘・足2ヶ所のターゲット・ジョイントに対して同時手術が可能でした。周術期管理としては、第Ⅷ因子を測りながらモニターしていくことによって問題なく手術ができました。複数の関節罹患が多い患者さんに対しては、負担を減らすためにも、一度にできるところは同時にやってしまうということも一つの方法だと思います。

 関節鏡をはじめとする外科的治療の技術の発展と薬物による内科的コントロールは車の両輪のようなもので、片方だけでは到底難しいです。そして、それらと理学療法を総合することで、血友病患者さんのQOLの改善が期待できます。関節破壊が進まない若年期のうちにやってあげたいところではありますが、もし進んでしまった場合には、もちろん人工関節という手が最後には残っています。しかし、人工関節には人工関節なりのリスクを持って臨まないといけません。例えば今だったらiPS細胞などで骨軟骨の再生まで持っていければ、もっと良い治療をしてあげることができるのではないかと思いますが、それは今後の発展に期待したいと思います。

 繰り返しになりますが血友病には出血しやすい時期や部位があります。ただ、軟骨損傷や骨関節損傷にまでなってしまうと非可逆性になるので、それまでになんとかしてあげたいところです。今日は上手くいった症例をご紹介しましたが、ある小学生の男の子に手術をしたところ、リハビリをきちんと上手くしてくれなくて膝がカチカチになってしまったという例もあります。膝が固まってしまうと、グッと踏み込んだ時に、また筋肉を痛めて出血することがあります。ですので、リハビリを担う理学療法士とも連携しながら、術後の管理も上手くしてあげることが今後の課題だと思っています。
 
一例として、幼少期にインヒビターが陽性になってしまって、元々左肘は出血していなかったのに、最近頻回に出血し始めてきたという症例があるとします。右肘はカチカチに固まっていて動かないので左手だけが頼りだったのに、左手も頻回に出血するようになると、かなり困ってしまいます。インヒビターがあって関節症は重症で、今のところ出血はするけれども左肘の可動域は良いという場合は、手術をすると失うものが多いかもしれないので、ベネフィットよりもリスクの方が大きいのではないかと迷ってしまうのですが、例えばこれが「右肘が機能も悪いし出血も非常にしやすい」という場合で、手術によって失うものよりも得るものが多いという判断をすれば、手術を勧めることになると思います。「普段、どちらの手でどういうことをしているか」ということを常に考えながら手術の適応を考えなければいけません。何でもかんでも手術をすればいいというような単純なものではないということは、よく本人やご家族とも話をして、お互いが「それを目標にしよう」という合意点が得られれば手術をすると考えてもらえたらいいと思います。

 「スポーツはできるのか」という点についてのお話があまりできていなかったので、その辺りをあと少しだけお話ししておきます。関節の状態として、治療が容易なレベルではスポーツは問題ありません。今や定期補充療法でそのような状態を維持することは十分可能ですし、健常人と全く同じように生活できるわけですから、出血さえしていなければスポーツは十分可能です。ただ、出血を繰り返し、何らかの関節症になってしまうと、やはり激しいスポーツや、あるいはプロを目指すなどということは、少し厳しいかもしれません。阪神タイガースの岩田選手などは若年性1型糖尿病という非常に重症の糖尿病ですが、きちんと体調管理をして、インシュリンを打って、彼は今もトップで活躍しています。ですので、きちんとコントロールをすれば、スポーツは十分可能です。ただ、関節を痛めてしまったら、やはり制限をしなければいけません。レクリエーション的なレベルのものなら可能ということになります。
 
まとめになりますが、血友病患者さんでも製剤の定期投与などで出血が完全に抑えられているなら、健常人となんら変わりはありません。ただ、出血を来したことがある場合には、その部分は注意をしなければいけません。筋力トレーニングなどで関節を安定化させてあげることで、少しでも関節への負担を減らすことは悪いことではありません。あまりやりすぎて「マッチョマン」になったり、200キロのバーベルを上げたりなどは論外ですが、筋力トレーニングは決して悪いことではありません。リハビリからアプローチして血友病患者さんの機能を良くしようということが、東大の竹谷先生や芳賀先生らを中心に今行われています。
 
出血を繰り返したことがある関節については、やはりとりあえずはレクリエーションとして楽しむのが無難です。あまり激しいスポーツはお勧めできません。せっかくなんとかギリギリ線維軟骨ぐらいの状態で治っているところに負荷をかけてしまうと、それもまたえぐれてしまいますから、レクリエーションぐらいにしておくのが無難です。関節症を来してしまうと、やはりスポーツ参加は難しいです。 ただ、人工関節にしてもゴルフぐらいはできますので、スポーツはゴルフなどをされたらいいと思います。が、あまり張り切り過ぎて1ヶ月に何ラウンドもして山を登って下りて、また強くスイングして、というようなことをし過ぎると、当然負担はかかってきます。先ほど痛い動画を見ていただきましたが、くれぐれも怪我はしないように、人生を楽しむためのスポーツとして楽しんでいただけたらと思います。

 私たちはよく2月になると沖縄に行って、キャンプ中の阪神タイガースと一緒に過ごすのですが、彼らは私たちには考えられないぐらいしっかりと入念に足を開きます。肘や肩を痛めるのは、結局股関節や体幹が十分使えていないために肘や肩に負担がかかっているからなので、投球動作などには、実は股関節や下半身の柔らかさが非常に大事なのです。実際にプロ野球の球団のキャンプなどを見てもらえれば分かるのですが、朝から1時間ぐらい入念に準備運動をしています。身体を捻転しながら走ったりして、いろいろな方向に対する身体の柔軟性を作りながら準備運動をしています。写真を見ると何気なくやっている感じなのですが、こんな姿勢は私たちにはなかなかできないです。ここまで足は開きません。彼らは40歳になってもこの姿勢ができるから、プロ野球で活躍し続けられるのです。これを見ていると、自分などは本当に身体が鈍っているなと思います。彼らの身体は非常に柔らかいです。筋肉を触ると気持ち良いです。身体が固まってしまうと、ジャンプして着地しただけで関節や軟骨を傷めてしまうので、準備運動をすることがスポーツをするためには必ず必要です。血友病患者さんがもしスポーツをするのであれば、準備運動が大事だということはよく理解しておいていただけたらいいと思います。 ブルペンの後ろで見ていると、プロ野球の投手はものすごいボールを投げます。こんなボールを打ち返すのは人間ではないと思うのですが、プロ野球の選手たちはこれを平気で打ち返します。やはり鍛えている人たちは、それだけのことをやっています。先ほどの「リスクとベネフィット」の話になりますが、多くのものを得ようとするには、それだけ自分で何か努力をして、あるいはリスクを取って、またはいろいろなことを理解して、気を付けてそこを目指していくということをしないといけません。「あれをしたいからこうする」だけではなかなか難しいということは、血友病でも何でも関係ないと思います。以上で終わります。

 

 

 <質疑応答>

Q:
 
関節が傷んでいくサイクルのお話がありましたが、私の経験上も、関節を守るためにはそのサイクルを繰り返さないことに尽きると思いました。ただ、どうしても日常生活の中では、普通の人でもこけたり捻挫したりすることがあると思います。それで良くなったら動かす、そしてまた痛めてしまうというのがよくあるパターンだと思います。それを防ぐために、普通の人でも一旦捻挫した時には、スポーツの再開にはやはりもう少し時間を取って、過度な負担を避ける方が後々良くなるというテレビ番組を私は最近見たのですが、我々もやはりそうなのでしょうか?

A:
 
そうですね。ただ、その時にはやはり「診断」というものが最初に必要になります。同じように捻挫だと思っていても、捻挫は医学的には3段階に分けられるのです。1段階目の軽症の捻挫は、軟部組織が引っ張られただけです。引っ張られたというか、おそらくは顕微鏡で見ると線維の断裂があったりするのですが、見た目の形は全く整っています。ただ顕微鏡レベルの断裂があるだけとはいえ、そこに出血は少なからず起こります。普通の人ならアイシングをして安静にすれば2、3日で出血は治まって、そこにコラーゲンを再生するような細胞がやってきて治していきます。肉離れでも1段階目の軽症なら3、4日で新しい細胞がやってきて筋線維を再生させます。だから3、4日気を付けていれば、それで良くなってしまいます。ただ筋肉は使わないと、今度は廃用性萎縮、使わないために筋肉が痩せていく現象が起こりますから、そういう意味では、3、4日経てば筋肉は徐々に使っていった方が強くなります。ただし、3段階目の重症の肉離れで早期に筋肉を使い出してしまうと、今度は筋肉が離れていってしまいます。筋肉は収縮しますので、完全断裂した肉離れでは肉眼的にも完全に離れてしまっている、消えてしまっているというようなことになってしまいます。これではいくら筋肉が再生しても浮いてしまう感じで、力をかけてしまうと、さらにどんどん離れていってしまいます。そうすると何が起こるかというと、筋肉の線維が離れてしまった部分に瘢痕といって、おでんにある筋の肉のような組織になります。柔軟性のない硬い瘢痕だけが残ってしまって、筋肉としての機能はドンと落ちてしまいます。そうやって機能が落ちてくると、今度は少しのことでも支えきれなくて怪我をしやすい、捻挫を起こしやすい、捻挫が癖になるようになってしまいます。そして筋肉が緩んでしまうと、自分ではコントロールできないような倒れ方をしてしまいます。だから捻挫をした時には、最初にその段階をきちんと判断することが大切になります。
 
簡単に言うと、怪我をして熱を持っている、あるいは出血している時には、基本はアイシングをして、その場で炎症を取ってあげることが第一です。そして安静から2、3日おいて、そこからスローに動かし始めることが基本です。それを「休んだ分、鍛えなければいけない」と言って毎日ガンガン筋肉をいじめると、むしろ使い過ぎで筋肉は痩せていきます。私たちは筋トレなどをさせる時、特に筋肉をつけていこうという方向性の時には、3日ないし4日に1回ずつ負荷をかけていきます。筋肉を痛めつけると、そこである程度損傷が起こるので、1日かけて安静にしてその炎症を取ってあげて、2日目、3日目で筋肉に再生をさせます。3日目の再生では筋肉は元に戻るぐらいなのですが、身体の方は自分を守ろうとして、もう少し余計に再生するのです。そうやって筋肉のボリュームを上げて、またいじめてやる。これを4日に1回ぐらいのペースでやれば、傷めたところが良くなって、より大きくなって、次また傷めて、また大きくなるということを繰り返して、どんどん大きくなっていきます。でも筋トレを毎日やってしまうと、再生する時間がないので、どんどん悪くなってしまいます。ですので、筋肉に負荷をかけるのは、4日ごとにやるのが良いと言われています。例えば、今日上半身を鍛えたら、明日は上半身を休めて右足を鍛え、その次の日は腰を鍛えるというふうにローテーションしてあげると良いです。
 
これは一般の人の場合ですが、おそらく血友病の患者さんの場合は、運動をする前にまず製剤を打って、第Ⅷ因子にしても第Ⅸ因子にしても100%ぐらいまで活性を上げるのが先決だと思います。そうしないと、修復機転がスタートしません。怪我をした時も、やはり第Ⅷ因子や第Ⅸ因子といった血友病の患者さんにとって不足しているものをまず補ってあげて、出血を止めた上でアイシングをするべきだと思います。血友病の患者さんは出血を繰り返して関節が固くなってくることが多いと思うので、動かせる状態に持っていけるのには最低1週間はかかると思います。ただし、1週間を過ぎて動かしてもまだ痛いようなら、それは重度の捻挫や肉離れということになります。その時には2週間は安静です。おそらく4、5日のところで一度患部を確かめる必要はあると思います。

 

Q:
 
出血のサイクルを打ち切るためには、やはり凝固因子のレベルを高くしておくことが大事だということですね。ただ、普通の生活の中でこけたりして、今までにない出血があった時には、どの程度まで注意すべきなのでしょうか?

A:
 
怪我をしてから1週間以内に再受傷、あるいは再出血しなければ、通常の治癒機転は働いているはずなので、その辺りで少し負荷を試してみるといいと思います。2、3日ではやはり早いと思います。2、3日では症状が取れているだけで、それは決して治ってはいません。私たちが怪我をして切り傷を負ったら糸で縫います。縫ってピッタリ合わせれば、1週間で必ず抜糸できます。それは治っているからです。縫った次の日には痛みは取れていますが、それは痛みが取れただけで、2、3日目でもまだ傷口は付いていません。5、6日目になってくると、線維芽細胞という新しい細胞ができて傷を治してくれます。とりあえずそれで治癒はしていますので、通常の怪我であれば1週間です。もちろん骨折など、骨になればもう少し時間はかかります。骨だったら4週間は考えてもらわなければいけません。それから靭帯になると2~3週間です。通常の軽い捻挫ぐらいだったら4、5日から1週間で治癒は起こっているはずなので、その辺りから少しずつ負荷をかけ始めることができます。ただし、これは実際にやってみないと分からないところがあると思います。1週間の時点でゆっくり負荷をかけていった時に、また熱を持ったり腫れてくるようだったら即止めて、その時は2~3週間かかる怪我として対応すればいいと思います。

 

Q:
 
我々は痛くなくなると、つい、すぐに動いてしまうものなのですが、それでもやはり一旦通常ではない出血が起こったら、2週間はかかるということを念頭に置いて対応しなければいけないということですね。

A:
 
ただし、あまり怖がってしまって何もしないのも問題です。我々は野球肘の子たちには「これは野球肘だから、野球はしばらく休みなさい」と言うのですが、そうすると二度と私たちのところには来なくなって、みんな接骨医さんのところに行くのです。接骨医さんはマッサージをして一応は治すわけなのですが、野球肘は1日か2日すれば何もしなくても痛みは取れるので、彼らはまた野球をやるわけです。でも実際には治ったわけではないので、どんどん野球肘は悪くなっていきます。そうするとどうなるかというと、先ほどお見せしたスライドの野球肘の画像のように骨がえぐれたような状態になります。電気を当ててもらって、2~3週間だけ休めて「もう大丈夫だから野球をやってきなさい」という繰り返しで、ああいったかわいそうなことになるのです。
 
野球肘をレントゲンやMRIで撮ると、どうしても治るのには1ヶ月はかかります。だから、その1ヶ月の過ごし方をいろいろ教えてあげることが必要です。肘を痛めたということは、肘が悪いのではなくて、他のところの使い方が悪いからだということを伝えて、その鍛え方を教えてあげると、きちんと1ヶ月休んでくれます。そうしなければ、痛みがなくなると、すぐにまた野球をやってしまいます。そうすると、治りきっていない場合には、必ず悪くなります。もし短期間に繰り返している場合には、そういうことが起こっているということです。
 
安静にする期間については、1週間、3週間、6週間ぐらいの3段階で考えてもらえばいいと思います。本当に軽い傷、皮下を傷めたとか軽い捻挫ぐらいだったら1週間以内に治ります。4、5日でも十分だと思います。不安な方は、1週間は用心しておけばいいと思います。骨に異常のない、靭帯損傷や肉離れだけなら3週間で必ず治ります。少し酷く傷めてしまった場合は、3週間は用心しておく必要があります。3週間経ってもおかしければ、レントゲンを撮りに来てもらった方がいいです。

 

司会:
 
今日は血液凝固の専門である朴先生が来られているので、少しお話を伺いたいと思います。

朴:
 
上本町で開業しております医師です。本当に島田先生にはお世話になっております。実は私も長年勤務医で、大阪市内でも大きな病院に勤めていました。そこでいつも経験していたのは、血友病の患者さんを整形外科の先生に紹介しても、なかなか親身になって診てもらえないというか、興味を示してくれないということでした。紹介をしても、だいたい患者さんが嫌な思いをしていることが多かったので、島田先生に巡り会えて、今日来られているたくさんの患者さん共々、本当に感謝しています。
 
私は小児科医なので、子どもたちに小さな頃から定期補充をさせて、関節症ゼロを目指して、「とにかく関節をなんとか一緒に守っていきましょう」という話をしているのですが、最近「症状がなくても、実は関節内出血を起こしている人がいる」ということが言われています。そこで先生にぜひお伺いしたいのが、患者さんに先生のところに行ってもらうタイミングとインターバルです。例えば、関節内出血を明らかに起こしていて、製剤の補充を3、4日続けてしなければいけないような人や、あるいは少し痛みがあるようだけど定期補充で治ってしまってそれ以上の追加補充をしていない人、または全く痛みも何も感じずに定期補充をしている人、これらの3パターンの人たちは、どれぐらいのタイミングで先生のところに行っていただいたらいいのかと常々思っているところです。

A:
 
最後の全く出血していない方については、うちに来てもらったら、健康保険的にまずいのではないかと思います。
 
ただ、我々もいろいろな患者さんを診てみないとその病状が分かりませんので、医学的には年に1回来てもらったらいいと思います。1年に1回来てもらって、関節の状態などを診させてもらってレントゲンなども撮らせてもらうと、我々も非常に勉強になります。だいたい整形外科の病気は良くなったら患者さんは来てくれなくなりますが、本当は良くなっている人も含めて、年に1回は診させてもらうと医科学的には非常に勉強になります。ですので、年に1回は来てもらいたいと思っています。
 
それから、最初の明らかに関節障害を起こしてしまっている人ですが、とりあえず製剤を打ってあげれば血が止まって楽になると思うので、まずはそちらの治療を最優先してもらえばいいと思います。そして、もし関節穿刺ができるのであれば、実施してあげてほしいと思います。そうやって落ち着いたところでご紹介いただいても十分間に合うと思いますし、そこから話を聞いて治療の適応を考えていけばいいと思います。
 
真ん中のケースについては、やはりご本人のライフスタイルにかなり影響を受けますが、先ほど申し上げた通り、若い人などは進行を止めなければいけないので、できれば早めに来てほしいと思います。ある程度年配で、自分の人生が確立されているような人は、そちらを優先していただいて全く構わないです。私たちは何も関節症を治しさえすればいいわけではなくて、その患者さんのQOLをいちばん良いところに持っていけばいいわけですから、その患者さん自身にある程度「治療に入りたい」という気持ちを持ってもらってから来てほしいのが正直なところです。こちらからいろいろ言っても、患者さん自身にリハビリをする意欲がなければ絶対無駄になります。

 

司会:
 
ありがとうございました。先ほどの出血を繰り返すということについては、朴先生から何かアドバイスや「こういうふうに考えたらどうだろう」ということはありますか?

朴:
 
出血を繰り返してしまっている人は、やはり早いうちに島田先生のところに行き、整形外科的な診断を仰ぐべきだと思います。出血のために滑膜が増生していて、それが元凶になっていると思うので、何らかの整形外科的な処置を取ってあげないと、同じことを繰り返していくだけだと思います。

 

司会:
 
定期補充をしていても、そういう状態は起こり得るということですか?

朴:
 
起こり得ます。定期補充を小さな頃からしている人はいいのですが、ある程度ターゲット・ジョイントができてしまっている方の関節には滑膜が増生してしまっているので、やはり定期補充を途中からしても関節症のリスクがあります。

 

Q:
 
出血を繰り返すようなことが起こる、あるいは大きな出血が起こるというような場合は、やはり整形外科的なアプローチを念頭に置いて治療を考えなければいけないということですか?

朴:
 
私が今、島田先生にお伺いした3つのパターンのうちの1つ目のパターン、つまり確実に関節内出血を起こしていて歩行障害がある、あるいは関節が曲がらない、伸びないという場合には、手術が必要になってくると思いますが、どうでしょうか。

A:
 
そういうケースが全て手術というわけではありません。私もあまり経験がないので大したお話はできないかもしれませんが、ステロイドホルモンの関節注射などで炎症を下げることによって、もしかしたらある程度の患者さんは救えるのかもしれません。海外では放射性同位元素を注射するなどという治療も行われているようですので、滑膜切除手術のような機械的な関節内の掃除だけではなくて、科学的な滑膜炎の治療もあります。ただ、放射性同位元素はどうしても発がん性の問題などがいろいろあって、日本ではなかなか現実的な治療ではないのですが、それ以外にも何か薬が効くかもしれないこともありますので、手術の前に、何かもう一つそういったアプローチができればとは思っています。それは私たちも勉強しなければいけません。

 

Q:
 
現実的なお話しなのですが、島田先生のところでは血友病の方は入院できるということで、先ほどの滑膜除去手術や人工関節をするには、だいたい期間としてどれくらいをメドに考えればいいのでしょうか?

A:
 
うちには血友病の専門家がいないので、インヒビターをお持ちの患者さんの対応はリスクが高すぎてできません。インヒビターがない通常の血友病AやBの患者さんであれば、滑膜切除手術も人工関節も期間としてはだいたい同じぐらいで3~4週間です。最初は点滴でずっと製剤を入れながら100%近くまで凝固因子活性を上げて、そこからだんだん濃度を落としていって1日1回の輸注でいいようにします。そこから2日に1回、通常の定期補充と輸注の頻度を落としながらリハビリをして、それで出血しないということを確認してから退院してもらいます。順調にいけば、リハビリも含めて3~4週間ぐらいかかります。ただし、途中で出血したりして、少しリハビリが増えたケースもありますので、その場合は1ヶ月を少し超えたりすることもあります。だから「3週間限定で」と言われると少し困るのですが、ある程度の期間は余裕を持っていただいて、上手くいけば3週間で済むということになります。

 

Q:
 
18歳になる男子の母です。4歳ぐらいの頃に右肘を痛めて、軟骨がギザギザになっていてすごく痛いので、装具を作ってもらいました。小学1年生ぐらいまでは、良い時もあれば悪い時もあって、装具を付けたり外したりしていました。痛めた時に主治医に「軟骨はなかなか再生しないです」とは言われたのですが、18歳になった今は本人も何も言わないので、勝手に「もういいのかな」と思っています。でも、今日のお話を聞いていたら、なかなかそんなに完全に再生するものではないと理解しました。ですので定期的に年1回ぐらいは整形外科でレントゲンなどを撮った方がいいのでしょうか?本人は全く何も言わないのですが、そう促した方がいいのでしょうか?

A:
 
そうですね。おそらくご本人が自分の中でそれをどの程度コントロールすればいいのかを覚え、自分自身で無意識のうちにリミットを設けて生活しているのかもしれません。それで全く今の生活に満足しているのであれば、あえて病院へ行かなくてもいいとは思いますが、装具を付けて生活していたような時期があったということは、必ず関節障害が少しはあります。ただ、結局人間の人生なんてたかだか90年、100年なわけです。その間、例えば50年、60年健康な関節を持っていれば、あとは健常人でも70歳、80歳になってくると足を引きずったり車椅子に乗ったりするわけです。現状を知りたい、あるいは今後気を付けるためにお父さんやお母さん自身が知っておきたいという気持ちがあるのであれば、きちんとレントゲンを撮って現状を把握しておくことに意味はあると思います。ただ、周りから見ても全く普通に幸せに生活しているのであれば、何も慌てて病院へ行かせることはないと思いますが、昔にそういう出血のエピソードがあったということは覚えておいていただいて、何かあった時には早めに病院へ行かせた方がいいと思います。

 

Q:
 
健常者のリハビリの仕方と血友病患者のリハビリの仕方には相違点があるのでしょうか?

A:
 
それは私にはよく分からないです。ただ、リハビリの過程で出血させてしまうと非常にリハビリの進行が遅れますので、その点はかなり気を付けていかなければいけません。私たちのところでは、リハビリのスタート時やリハビリのレベルを上げる時なども含めて、その時点の凝固因子活性やAPTTなどは必ずモニターして出血しやすいかどうか確認します。その時に凝固因子活性が100%に近い値であれば、健常人と全く同じと考えます。実際に手術後のリハビリのコースも、特に健常人と差は付けていません。

 

Q:
 
凝固因子活性はどれくらいのレベルまで上げるのですか?やはり100%でしょうか?

A:
 
100%です。100%を目指して、だいたい80~100%ぐらいのところに上手くキープできていると何の問題もありません。ところが、いろいろと試行錯誤しなければいけないケースもあります。計算上は100%近くまで凝固因子活性が上がるはずの量を入れていたのですが、たまたま点滴の血管に近いところから入るのではなくて、途中のルートが長かったりすると、そのチューブの壁に凝固因子が残ったりすることがあります。そうなると、計算していたほど凝固因子活性が上がらないことになります。5000単位を入れたのに凝固因子活性が50%ぐらいにしか上がらなくて「どうしてかな」と思っていたら、点滴のチューブが長すぎたのが原因だと分かりました。だからできるだけ細いチューブで、血管に近いところから入れると、計算通りに凝固因子活性が上がりやすくなります。この時は患者さん本人が「これでは全然足りない」と言っていました。「腫れる。痛い」と言って自分から凝固因子を追加してほしいと言ってきて、実際に凝固因子活性を測ってみると、やはり低いのです。
 
凝固因子活性は80~100%で維持できていると、何の問題もなくリハビリができます。凝固因子活性はだんだん下がっていきますが、術後早期の時点ではトラフ値と呼ばれる最低限の値を50%ぐらいにはなるようにしています。点滴で輸注している時は、80~90%ぐらいの値をずっとキープするようにしています。私たちはこのように設定していて、これをキープできれば健常人と同じ状態でリハビリができます。
 
入院時の輸注の詳しい流れを申し上げると、手術時から3日目ぐらいまでは持続点滴です。初めは80~90%ぐらいの値をキープして、その後50%ぐらいまで下げていきます。それからは1日1回投与に移行していき、だんだん2日に1回(血友病Bなら3日に1回)にして、それでもリハビリ中に問題が起こらないようになる目安が3週間です。

 

Q:
 
リハビリ中のトラフ値はどれぐらいなのですか?

A:
 
2〜3日に1回しか打っていないわけですから、最後にはトラフ値は10%や5%になっています。

 

Q:
 
その状態で、ほぼ健康な人と同じような運動をするということですか?

A:
 
そういうことです。反対に、そういう状態でリハビリをしただけで出血するようでは家には帰せません。普段の生活の中で3日に1回定期補充をしている人だったら、リハビリの中でもそれと同じ量にする必要があります。リハビリといってもそんなに無茶苦茶な運動をするわけではなく、可動域を良くするぐらいの運動で、それを家に帰ってもしてもらうわけですから、それに問題のない状態にして家に帰ってもらいます。もちろんその時には、足の手術をした場合には松葉づえをついて帰ってもらったり、患肢の保護はします。
 
あくまで持続点滴を行うのは、手術後3、4日ぐらいです。3、4日で通常関節内の出血は止まります。健常人でも関節の手術をすると、2日間ぐらいはドレーンという管を入れて中の出血を抜いてあげないと、その人は関節症になってしまいます。それを抜くのは、だいたい24~48時間後です。血友病の患者さんでも凝固因子活性を100%に保っていれば、同じように1日か2日でその管は抜けます。そして抜いても関節は腫れてきません。そこから凝固因子活性を少しずつ下げていきます。

 

Q:
 
肘を人工関節にすると重たいものは持てないと昔聞いたことがあるのですが、今はどうなのですか?

A:
 
今でも重たいものは持てないです。

 

Q:
 
重たいというのはどれぐらいですか?5キロぐらいはどうでしょうか?

A:
 
5キロはあまりお勧めしないです。2キロぐらいなら大丈夫です。例えば、人工関節の手でボーリングはさせません。ボーリングの玉は子ども用でも10ポンドぐらい、すなわち5キロぐらいですから、それを人工関節にした手に持たせようとは思わないです。

 

Q:
 
車椅子をこぐのはどうですか?

A:
 
例えば坂道などでは少し問題かもしれないです。

 

Q:
 
病院などではスロープがありますが、あれぐらいであれば大丈夫ですか?

A:
 
問題ありません。結局なぜ肘の人工関節があまりお勧めできないのかというと、一つは肘の皮膚が薄いからです。特によく曲げるところなので、皮膚が破たんすると、すぐに感染を起こします。肘は、感染率が膝などの5~10倍と言われています。膝や股関節の人工関節だと、感染を起こすのはだいたい1000人中10人ぐらいで、施設にもよりますが、0.5~3%です。ところが、肘の人工関節になるとスケールが一段上がります。また、大腿骨などはものすごく骨密度が高くて強いのですが、それに比べると腕の骨は骨質が薄いので、緩みが早く起こります。骨の土台のわりに腕は動きの強いところで、痛くなければガンガン動かしてしまうので、それで人工関節の緩みの比率が高くなります。ただ、最近は人工関節も非常に良くなりました。リウマチの患者さんなどはすごく喜んでいるのですが、その中でも先ほどスライドでお示ししたように感染の症例が出たりしているので、人工関節にしたのならば、そこはかなり気を付けて使っていってもらわないといけません。手術はその覚悟で受けてもらう必要があります。