「新規血友病治療薬の特徴」 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

「新規血友病治療薬の特徴」

大阪友の会・ケアーズ 2017年度総会 医療講演会開催報告

「新規血友病治療薬の特徴」

                           講師:兵庫医科大学病院血液内科 日笠 聡 医師

1. はじめに

 
 血友病の治療薬は、1972年に第IX因子複合体製剤、1978年に非加熱高度濃縮第VIII製剤が開発された後、数々の改良が重ねられてきました。これらの改良は、血液を媒介する感染症のリスクを限りなく減少させることを目的とした、ウイルスの除去・不活化の方法、遺伝子組み換えによる製造、添加する動物由来のタンパク質の除去・あるいは不使用などと、在宅自己注射における利便性の向上を目的とした製剤の純度(易溶解性)・濃縮度の向上と保存方法の改良(冷所保存→室温保存)などが主体でした。このため、これまでの濃縮凝固因子製剤(標準型製剤)は、基本的には生体内の凝固因子と構造・機能・薬物動態・効果は同じものであり、各製剤の違いは、血漿由来か遺伝子組み換えか、国産製剤か輸入製剤か、保存方法が冷所保存か室温保存か、1バイアル当たりの規格単位数や溶解液の量、溶解方法や自己注射キットなどでした。

 しかしながら、近年凝固因子に様々な修飾を行うことによって半減期を延長した様々な製剤が開発され、2014年に半減期延長型第IX因子製剤が、2015年には半減期延長型第VIII因子製剤の発売が開始されました。これにより、約40年ぶりに効果の違う製剤が使用される時代となりました。そこで本稿では、2014年以降に発売されたバイパス止血製剤を除く新規血友病治療薬について解説します。
 表1に現在販売中の凝固因子製剤の一覧を示します。

表1. インヒビター非保有血友病に使用される凝固因子製剤(太字は新規薬剤)

製剤区分

商品名・規格

(単位/V)

会社名

製造法

適応

 

 

 

第VIII因子

製剤

 

 

 

 

 

 

 

第VIII因子

製剤

クロスエイトMC

(250,500,1000,2000)

日本血液

製剤機構

血漿由来

(国内献血)

 

 

 

 

血友病A

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血友病A

コージネイトFS

バイオセット

(250,500,1000,2000)

バイエル薬品

遺伝子

組み換え

コバールトリイ

(250,500,1000,

2000,3000

アドベイト

(250,500,1000,

1500,2000)

バクスアルタ

ノボエイト

(250,500,1000,1500, 2000,3000)

ノボ 

ノルディスク

 ファーマ

半減期延長型

第VIII因子製剤

イロクテイト

250,500,750,1000,

1500,2000,3000

バイオジェン

FC領域融合

遺伝子

組み換え

アディノベイト

5001000,2000

バクスアルタ

PEG化

遺伝子

組み換え

VWF含有

第VIII因子

製剤

コンファクトF

(250,500,1000)

化学及

血清療法

研究所

血漿由来

(国内献血)

血友病A

 

VWD

コンコエイトHT

(500)

日本血液

製剤機構

第IX因子

製剤

ノバクトM

(400,800,1600)

化学及

血清療法

研究所

血漿由来

(国内献血)

 

 

 

 

 

血友病B

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスマシンM

(400,1000)

日本血液

製剤機構

ベネフィクス

(500,1000,2000,3000)

ファイザー

遺伝子

組み替え

リクスビス

500,1000,2000,3000

バクスアルタ

 

半減期延長型

第IX因子製剤

 

オルプロリクス

500,1000,2000,3000

バイオジェン

FC領域融合

遺伝子

組み換え

イデルビオン

250,500,1000,2000

CSL

ベーリング

アルブミン

融合遺伝子

組み換え

 

2. 標準型第VIII因子製剤

 
 半減期延長型製剤が開発された後も、これまでと同様、標準型製剤の開発も続けられており、2014年5月12日にノボエイト®、2016年5月9日にリクスビス®、2016年6月29日にコバールトリイ®の販売が開始されています。

①ノボエイト®

                      図1. ノボエイト®

 ノボエイト®は、ノボ ノルディスクファーマが製造・販売する遺伝子組み換えB-ドメイン除去第VIII因子製剤で、250・500・1000・1500・2000・3000単位の6規格が販売されています。溶解液量は6規格ともすべて4mlです。
 第VIII因子の蛋白は、A、B、Cの大きなパーツ(ドメイン)が合わさって構成されていますが、その中のB-ドメインは止血機能には特に役割を果たさないため、B-ドメインを除去しても、B-ドメインを含有する通常の(全長型)第VIII因子と同様の効果を発揮します。

図2. 全長型第VIII因子とノボエイト

 薬剤の効果は、製剤の輸注試験を行い、その回収率や半減期を測定することで評価・比較が可能となります(図3)。因子活性が最も低い時期の値をトラフ値、輸注直後で最も因子活性が高くなったときの値をピーク値と言い、ピーク値から半分の活性に低下するまでの時間を半減期と言います。

図3. 凝固因子製剤の性能の目安
 薬物動態検査(輸注試験)

 ノボエイト®は回収率・半減期ともに全長型遺伝子組み換え第VIII因子製剤と同等であることが確認されています。 ノボエイトの用法・用量は通常、1回体重1kg当たり10~30単位を投与しますが、症状に応じて適宜増減し、定期的に投与する場合は、通常、体重1kg当たり20~40単位を隔日投与、又は20~50単位を週3回投与し、12歳未満の小児に対しては体重1kg当たり25~50単位を隔日投与、又は25~60単位を週3回投与する、とされています。

②コバールトリイ®

図4. コバールトリイ®

 コバールトリイ®はバイエル薬品が製造・販売する遺伝子組み換え全長型第VIII因子製剤で、コージネイトFS®の改良版という位置づけの薬剤になります。規格は250・500・1000・2000・3000単位の5規格で、溶解液量は250・500・1000単位は2.5ml、2000・3000単位は5mlになります。
 コージネイトFSからの改良点は、製造工程の改良により、培養工程以降におけるヒトおよび動物由来のタンパク質の添加を完全になくしたこと、製造する細胞の改良により生産効率を上昇させたこと、ナノフィルトレーション(20 nm)を導入し、ウイルス混入に関する安全性をより高くしたことなどが主です。
 コバールトリイは基本的にはコージネイトFS®と同じですが、その効果は半減期が1.15倍程度に若干延長しています。その理由ははっきりとはわかりませんが、これまでコージネイトFS®をお使いの患者さんにとっては、少し効き目が長持ちするかも?知れません。
 コバールトリイ®の用法・用量は、通常、1回体重1kg 当たり10~30単位を投与しますが、状態に応じて適宜増減し、定期的に投与する場合は、通常、体重1kg当たり20~40単位を週2回又は週3回投与し、12歳以下の小児に対しては、体重1kg当たり25~50単位を週2回、週3回又は隔日投与する、となっています。
 本製剤は半減期延長型製剤ではなく標準型製剤ですが、定期補充療法においては、週2回の投与でも良好な出血防止効果が得られる場合があることが証明されています。
 コージネイトFSからコバールトリイへの切り替えが進めば、やがてコージネイトFSは販売中止となり、コバールトリイのみの販売となる予定です。

3. 標準型第IX因子製剤

①リクスビス®

                  図5. リクスビス®

 リクスビス®はバクスアルタ株式会社が製造・販売する遺伝子組み換え第IX因子製剤で、500・1000・2000・3000単位の4規格があり、溶解液量は4規格ともすべて5mlです。効果は従来の第IX因子製剤(ノバクトM®やベネフィクス®)と基本的には同じです。
 ただし、第IX因子製剤は同じ単位数投与しても、どのくらい因子活性が上昇するかが製剤によって若干異なり、ノバクトM®を1とすると、ベネフィクス®は約0.7倍、リクスビス®は12歳以上で0.9倍、12歳未満は0.7倍までしか因子活性が上昇しない性質があります。従って、ベネフィクス®、およびリクスビス®(12歳未満の場合)はノバクトM®より若干多めの投与量が必要な場合があります。製剤を投与したときにどのくらいまで因子活性が上昇するかは個人差も大きいため、一度輸注試験を行い、どのくらいの量を投与すればどこまで因子活性が上昇するのかを確かめた上で、投与量を決定する必要があります。
 リクスビス®の用法・用量は、通常、1回体重1kg当たり50単位を投与しますが、状態に応じて適宜増減し、定期的に投与する場合は、通常、体重1kg当たり40~75IU を週2回投与し、12 歳未満の小児に対しては体重1kg当たり40~80IUを週2回投与する、となっています。

4. 半減期延長型第VIII因子製剤

 半減期延長型第VIII因子製剤は、後述する半減期延長型第IX因子製剤に引き続き、2015年3月9日にイロクテイト®、2016年6月1日にアディノベイト®が販売開始になりました。1978年に初めて高度濃縮第VIII因子製剤が発売されてから37年ぶりに、これまでと効果が違う第VIII因子製剤が発売されたことになります。

①イロクテイト®

図6. イロクテイト

 イロクテイト®はバイオベラティブ・ジャパン株式会社が製造・販売する半減期延長型第VIII因子製剤で、250・500・750・1000・1500・2000・3000単位の7規格があり、溶解液量は7規格ともすべて3mlです。第VIII因子に免疫グロブリンというタンパク質の一部(Fc)を結合させて半減期を延長させた製剤で、標準型第VIII因子製剤よりも半減期が長くなっています。免疫グロブリンというタンパク質は血液の中を非常に長時間(半減期20~24日間)流れる性質があり、このタンパク質の一部を第VIII因子に結合させることで、免疫グロブリンと同じメカニズムで、半減期が標準型第VIII因子製剤の約1.5倍に延長します。
 イロクテイト®の用法・用量は、通常、 1回体重1kg当たり10~30単位を投与しますが、状態に応じて適宜増減し、定期的に投与する場合は、通常、1日目に体重1kg当たり25単位、4日目に体重1kg当たり50単位から開始し、以降は状態に応じて、投与量は1回体重1kg当たり25~65単位、投与間隔は3~5日の範囲で適宜調節する、となっています。さらに、週1回投与する場合は、体重1kg当たり65単位を投与する、となっています。
 定期補充におけるイロクテイト®の投与方法は非常に幅広く設定されているため、週に2回投与する場合は、投与間隔を3日と4日に設定しても良いし、どちらかを朝に、どちらかを夕に投与して、投与間隔をちょうど3.5日に設定してもかまいません。

②アディノベイト®

図7. アディノベイト®

 アディノベイト®は、バクスアルタ株式会社が製造・販売する減期延長型第VIII因子製剤で、500・1000・2000単位の3規格があり、溶解液量は3規格ともすべて5mlです。第VIII因子にポリエチレングリコール(PEG)という化学物質を結合させ、半減期を延長させた製剤で、従来の第VIII因子製剤の よりも半減期が長くなっています。
 PEGは、主に分子量の小さい薬剤の半減期を延長させるために、これまで数多くの医薬品に使用されてきた物質で、イロクテイト®と同じく、アディノベイト®は半減期が従来の第VIII因子製剤の約1.5倍に延長しています。
 アディノベイト®の用法・用量は、通常、成人及び12 歳以上の小児には、1 回体重1 kg当たり10~30単位を投与しますが、状態に応じて適宜増減し、定期的に投与する場合は、通常、成人及び12 歳以上の小児には、1回体重1kg当たり40~50単位を週2回投与し、状態に応じて1 回体重1kg当たり60単位に増量できる、とされています。


 半減期延長型第VIII因子製剤の選択

 
イロクテイト®、アディノベイト®、あるいは今後発売が開始される新規半減期延長型第VIII因子製剤は、いずれも半減期がほぼ同じであり、実質的な効果の差はほとんどありません。安全性については、いずれの薬剤も臨床試験開始から現在までのデータでは、特に目立った副作用などは報告されていませんが、各薬剤の安全性に差があるかどうかは、今後長期に使用してみなければわかりません。従って、半減期延長第VIII因子製剤に関して、現状ではどれを選んでも基本的に同じと考えられます。イロクテイト®は規格単位が250・500・750・1000・1500・2000・3000単位の7規格があること、アディノベイト®はこれまで使われてきたアドベイト®と同じ会社の製品であり、溶解操作も同じなので戸惑わないこと、などが標準型製剤から変更するにあたって差が出る部分かも知れません。

5. 半減期延長型第IX因子製剤

 半減期延長型第IX因子製剤は半減期延長型第VIII因子製剤よりも早く、2014年9月9日にオルプロリクス®、2016年11月29日にイデルビオン®が発売開始になりました。1972年に第IX因子複合体製剤が発売されてから42年ぶりに効果の違う第IX因子製剤が発売されたことになります。

①オルプロリクス®

図8. オルプロリクス®

 オルプロリクス®はバイオベラティブ・ジャパン株式会社が製造・販売する半減期延長型第IX因子製剤で、250・500・1000・2000・3000単位の5規格があり、溶解液量は5規格ともすべて5mlです。
 半減期延長型第VIII因子製剤のイロクテイト®と同じく、第IX因子に免疫グロブリンの一部(Fc)を結合させ半減期を延長させた製剤です。半減期延長型第VIII因子製剤(イロクテイト®あるいはアディノベイト®)とは違い、オルプロリクス®は従来の第IX因子製剤の約2.43倍に半減期が延長しており、週に一度あるいは10日に一度の定期補充療法が可能です。
 オルプロリクス®の用法・用量は、通常、1回体重1kg当たり50単位を投与しますが、状態に応じて適宜増減し、定期的に投与する場合は、通常、体重1kg当たり50単位を週1回投与、又は100単位を10日に1回投与から開始する、となっています。以降の投与量及び投与間隔は状態に応じて適宜調節できますが、1回の投与量は体重 1 kg当たり100単位を超えないこと、とされています。

②イデルビオン®

図9. イデルビオン®

 イデルビオン®は、CSLベーリングが製造・販売する半減期延長型第IX因子製剤で、250・500・1000・2000単位の4規格があり、溶解液量は250・500・1000単位の製剤は2.5ml、2000単位は5mlになります。
 イデルビオン®は、第IX因子にアルブミンというたんぱく質を結合させて、半減期を延長させた製剤で、その半減期はオルプロリクス®よりもさらに延長し、従来の第IX因子製剤の約5.3倍です。アルブミンというタンパク質は、免疫グロブリンと同様、血液の中を非常に長時間(半減期14~20日間)流れる性質があり、このタンパク質の一部を第VIII因子に結合させることで、半減期が延長します。さらに同じ単位数を投与しても、ベネフィクス®は標準型第IX因子の1.2倍から1.4倍以上に第IX因子活性が上昇するので、標準型第IX因子製剤よりも少ない単位数で同じ効果(第IX因子活性の上昇)が得られます。
 イデルビオン®の用法・用量は、通常、1回体重1kg当たり50単位を投与しますが、状態に応じて適宜増減し、定期的に投与する場合は、通常、体重1kg当たり35~50単位を7日に1回投与する、とされています。また、状態に応じて、体重1kg当たり75単位の14日に1回投与に変更することもできます。いずれの投与間隔においても投与量は適宜調節が必要ですが、1回体重1kg当たり75単位を超えて投与することはできません。


 半減期延長型第IX因子製剤の選択

 半減期延長型第IX因子製剤の半減期は、半減期延長が第VIII因子製剤とは違って、製剤ごとに異なります。(オルプロリクス®<イデルビオン®)一方、安全性については、半減期延長型第VIII因子製剤と同様、臨床試験開始から現在までのデータでは、特に目立った副作用などは報告されていませんが、今後長期に使用してみなければわかりません。オルプロリクス®の週一回投与により、多くの患者さんの出血はほとんどなくなりますが、それでも出血がある場合は、イデルビオン®に変更すれば、出血が減少する可能性があります。あるいは、イデルビオン®は14日に1回投与することも可能ですので、より輸注回数を減少させることも可能です。
 ただし、オルプロリクス®は3000単位の規格がありますが、イデルビオン®は2000単位までしか規格がありません。イデルビオン®は投与後の第IX因子活性の上昇率が高いため、2000単位でも十分な因子活性が得られる人も多いですが、体重の重い人は複数のバイアルを注射する手間が増える可能性があります。

6. 半減期延長型製剤への変更について

 これまで標準型製剤を使用してきた方が、半減期延長型製剤に変更した場合、血友病Aでこれまで週3回定期補充していた方は2回に投与回数が減少します。これまで週2回定期補充をしていた方は、同じ週2回の投与で出血防止効果がより確実になります。
 これまで週に1回しか定期補充療法をしてこなかった方は、数日後には製剤の効果が切れていたはずですが、半減期延長型製剤では効果が切れるまでの時間が長くなるので、その分少し出血回数が減少すると予想されます。血友病Bの方は、これまで週2回定期補充していた方も、週に1回、あるいは2週間に1回に投与回数が減少します。
 標準型製剤の定期補充療法の輸注回数に不満がある場合、定期補充療法をしていても月(年?)に何回か出血する場合、あるいは半減期延長型製剤の方が自分の生活にとって便利そうと思う場合は、使用してみても良いと思います。実際使用してみて、気に入らなければ元の製剤に戻すことも可能です。
 現在標準型製剤の定期補充療法で、何も問題を感じていない人については、特に半減期延長型製剤に変えなければならない理由はありませんので、そのままの製剤で定期補充療法を継続していただければ十分です。

7. 半減期延長型製剤の課題

 半減期延長型製剤は、まだ発売されて間もないため、様々な未解決の問題があります。
 例えば、短期的副作用(インヒビターの発生)、長期的副作用(修飾物質・未知の有害事象)、医療費、投与量・投与回数、処方量・処方日数、マーケットシェア・供給、定期補充療法中の出血時補充療法、定期補充療法中の予備的補充療法、周術期の補充療法、出血時補充療法などが考えられます。
 これらの課題についてどう対処するべきかは、まだ十分な検討がされていませんので、エビデンスが十分とは言えませんが、個人的には以下のように考えています。

①短期的副作用(インヒビターの発生)
 臨床試験では、これまで製剤を何度も使ってきた、(限られた人数の)患者を対象に、インヒビターの発生の有無を評価していますので、初めて凝固因子製剤の使用を開始する方のインヒビター発生率が多いのか少ないのかはわかりません。今後、初めて凝固因子製剤を使用する小児の試験の結果がでるまで、何とも言えませんが、結果が出るまでにはまだ5年ぐらいはかかりそうです。とりあえず、過去に何度も製剤を投与してきた方の場合のインヒビター発生はこれまでに1例も報告されていないようです。
 もし、インヒビターが発生した場合の対処法については、標準型製剤であれば免疫寛容療法になりますが、半減期延長型製剤でインヒビターが発生した場合にどうするかは、まだ標準的な方針がありません。考え方としては、使用した半減期延長型製剤でそのまま免疫寛容療法を行うことになると思いますが、それがどのくらい効果があるのかは、まだ全くわかりません。

②長期的副作用(修飾物質・未知の有害事象)
 
臨床試験では、限られた期間での副作用の有無を評価しています(長くても3~5年)。
 半減期を延長させるために改変した凝固因子・修飾物質を長期間投与しても安全かどうかは、今後の市販後調査結果を待たなければわかりません。ただし、少なくとも現在までには半減期を延長させた製剤に特有の副作用は出ていないようです。


③医療費
 新規薬剤は、以前から販売されている薬剤よりも基本的に高額なことが多く、半減期延長型製剤は同じ単位数の標準型製剤に比較して、価格がかなり高くなっている薬剤もあります(表1、表2)。


表1. 第VIII因子製剤の価格(1バイアルあたり 単位:円)

単位

250

500

750

1000

1500

2000

3000

コンファクトF®

18,951

34,303

 

64,042

     

クロスエイトMC®

18,951

34,303

 

64,042

 

118,475

 

コージネイトFS®

20,077

35,440

 

64,616

 

126,650

 

アドベイト®

21,996

40,970

 

75,977

109,039

140,897

 

ノボエイト®

22,089

43,018

 

797,76

114,491

147,942

212,319

コバールトリイ®

26,680

49,477

 

91,753

 

170,154

244,197

イロクテイト®

26,766

48,538

71,236

92,050

132,105

170,702

244,983

アディノベイト®

 

59,372

 

110,104

 

204,184

 

 

表2.  第IX因子製剤の価格(1バイアルあたり 単位:円)

単位

200

250

500

1000

2000

3000

PPSB-HT®

13,977

 

31,822

     

ノバクトM®

   

21,276

37,122

64,457

 

ベネフィクス®

   

54,690

107,135

212,026

316,085

リクスビス®

   

57,744

114,279

226,162

337,159

オルプロリクス®

 

53,613

106,104

209,985

415,572

619,531

イデルビオン®

 

87,532

173,231

342,833

678,486

 

 

 しかしながら、推奨される投与量、投与間隔で定期補充療法を行った場合、半減期延長型製剤では投与回数が少なくなるため、1週間あたりのコストは、製剤間の価格差が小さくなります(表3、表4)。

※第IX因子製剤のノバクトMは非常に安価


表3. 第VIII因子製剤定期補充療法の週間コスト

製剤

投与量

価格(円)

クロスエイトMC®

2000単位 週3回

355,425

コージネイトFS®

2000単位 週3回

379,950

アドベイト®

2000単位 週3回

422,691

ノボエイト®

2000単位 週3回

443,826

コバールトリイ®

2000単位 週3回

510,462

コバールトリイ®

2000単位 週2回

340,308

イロクテイト®

2000単位 週2

341,404

アディノベイト®

2000単位 週2

408,368

 

表4. 第IX因子製剤定期補充療法の週間コスト

製剤

投与量

価格

ノバクトM®

3000単位 週2回

203,158

ベネフィクス®

3000単位 週2回

632,170

リクスビス®

3000単位 週2回

674,318

オルプロリクス

3000単位 週1回

619,531

オルプロリクス®

6000単位 10日に1回

867,343

イデルビオン®

3000単位 週1回

1021,319

イデルビオン®

2000単位 週1回

678,486

イデルビオン®

4000単位 2週に1回

678,486

 

④投与量・投与回数
 
半減期延長型製剤は、投与間隔が長くなるため、標準型製剤を頻回に投与する場合と比較して、半減期が低い時間帯が長くなります(図10)。
 また、投与してからの時間帯によって、半減期延長型製剤の方が因子活性が高くなる時間帯もあれば、標準型製剤の方が因子活性が高くなる時間帯もあります。


図10. 定期補充療法時の因子活性


 いずれの製剤を使用しても、因子活性の低い時間帯には激しい運動や外傷などによる出血の可能性が高くなり、逆に因子活性の高い時間帯には、出血の可能性は低くなります。

 半減期延長型製剤には、標準型製剤を頻回に投与する場合に比較し、凝固因子活性の低い時間帯も長くなる弱点がありますので、凝固因子活性の低い時間帯に活動量が多くなると、どうしても出血を来すリスクが高くなってしまいます。クラブ活動などで、連日激しい運動をする場合には、標準型製剤で頻回にピークを作り、活性の低い時間帯を短くする方が良いと思われます。もちろん因子活性が低い時間帯でも、あまり活動しなければ出血のリスクは低くなりますので、活動性が低い生活をしている場合は半減期延長型製剤のメリットの方が大きくなると考えられます。
 半減期延長型製剤の投与量を少なめにする代わり、標準型製剤と同じぐらい頻回に投与すれば、ピークを上げすぎず、トラフを下げすぎず、かつコストを上げることなく、出血防止効果を改善することができそうですが、保険適応の用法ではありません。
 半減期延長型製剤の投与量・投与間隔は、とりあえず、保険適応に準じた標準的な投与量・間隔で開始し、出血が抑制され、トラフの因子活性が1%を超えていれば、そのまま継続して出血状況を観察すればよいと思われます。トラフの因子活性が1%未満でも、出血症状がない場合は、そのままの投与量・投与間隔で定期補充療法継続して、出血状況を観察してもかまいません。
 トラフの因子活性が1%未満で、出血症状がある場合は、投与前日・前々日の因子活性を測定してみて、どのくらい因子活性が残存しているか、因子活性が<1%となる期間がどのくらいあるかを推計し、投与量や投与間隔を調節する必要があります。
 一方、トラフが10%?近くあるようなら、投与間隔を延長したり、製剤の単位数を一段階少なくしてみたりすることが可能かも知れません。
 ただし、各製剤の規格単位数の種類には限りがあり、個々の患者の薬物動態にも限りない個人差が存在します。従ってトラフの因子活性を狙った値に微調整することはできません。出血のしやすさも、活動量、出血状況、関節症の状況などに大きく作用するため、トラフの因子活性値をどのくらいに設定すれば良いかは、人によって異なります。出血がなければトラフの因子活性は0%でもかまわないし、逆に出血が多いならトラフの因子活性が100%でも対策を講じる必要があります。
 多くの方は、外来受診のタイミングと製剤投与のタイミングが一致しないと思いますので、正確にトラフの因子活性を測定することは難しい場合が多いとは思いますが、製剤を投与してからどのくらいの時間に採血をし、その時の因子活性がどのくらい残存しているかがわかれば、トラフの因子活性をある程度推計することが可能ですので、製剤を変更した後は外来受診のたびに、残存する因子活性と、インヒビターの発生がないことを確認するために、採血検査をすることが望ましいと思われます。


⑤処方量・処方日数
 
新医薬品には、薬価基準収載の翌月の初日から1年間、1回14日処方とすることが法律で定められています。これは、実地医療の場で初めて使用される段階の新医薬品については、処方医による一定の診察頻度を確保し、患者の観察を十分 に行う必要がある、との観点から決められていることです。例外の薬剤も一部にはありますが、新規凝固因子製剤もこの法律が適応されるので、発売直後から新規凝固因子製剤を使用したい場合は、2週間ごとに外来を受診して、処方をしてもらう必要があります。
 数ヶ月に一度しか受診しない方は、数ヶ月に一度しか受診しなくても、現行治療に大きな問題がない方が多いと思いますので、急いで新規凝固因子製剤に変更する理由はあまりないのかも知れません。
 本稿で紹介している新規凝固因子製剤の中で、2017年10月現在、2週間の処方日数制限があるのは2016年11月29日に発売が開始されたイデルビオン®のみです。この処方制限も2017年11月末までですので、この号が発刊される頃には、解除されていると思われます。


⑥マーケットシェア・供給
 
これまで、各凝固因子製剤の性能には差がなかったのですが、今は半減期の長さが違う製剤が登場しています。少しでも長く効く薬を使いたい、と言う希望により、最も長く効く薬ばかり選択されると、標準型の製剤は売れなくなり、将来は販売中止になる可能性があります。幸い、現在数多くの製薬会社が製剤を製造しているので、製剤の種類が減少し、将来供給不安を導く可能性は少ないと思われますが、国内の製薬会社が製造する半減期延長型製剤はないため、半減期延長型製剤は全て輸入に頼ることになります。
 海外からの製剤供給が何らかの要因で減少した場合に備えて、国内の在庫を一定量確保してもらうことなど、供給確保のための対策を考えておく方がよいのかも知れません。


⑦定期補充療法中の出血時補充療法・予備的補充療法
 
半減期延長型製剤の輸注直後の因子活性上昇は標準型製剤と同じですので、出血に追加投与しても、標準型製剤と同じ効果があります。その上、半減期が長いため頻繁な追加(連続)輸注の必要性は減少するはずです。しかし、使い慣れた標準型製剤に比較して、どんな出血の時には、どのくらいの間隔で、どのくらいの量を輸注すれば良いかが、まだよくわからない(このくらい・・・という感覚がまだない)状況です。
 もちろん、多めに(あるいは標準型製剤と同じ間隔で)輸注すれば、今までと同等以上に因子活性が上昇しますが、この場合は無駄がないかを考えなければなりません。
 定期補充療法中に出血症状を認めた時、あるいは、強い身体活動に備えて予備的に製剤を投与したい時、次の定期補充のタイミングまで待つことはできません。この場合は、次の定期補充のタイミングまで一時的に因子活性を上昇させれば良いため、半減期が短い標準型製剤を使用する方が、コストが安くなるはずです。従って、半減期延長型製剤を定期補充に使用し、標準型製剤を出血時あるいは予備的補充に使用する、という考え方が成り立ちます。
 しかし、2種類の製剤を処方し分けるような診療医、2種類の製剤を使い分けるような方は、(最初はともかく)最終的にはあまり(ほとんど)いないように思われます。
 2種類の製剤を処方してもらった場合、もし出血がほとんどなければ、出血時用に使用する標準型製剤は、いつか期限切れになる可能性もあります。
 2種類の製剤を使い分けるかどうかは、製剤を標準型製剤から半減期延長型製剤に切り替える際に、標準型製剤を少量残しておいて、これが期限切れになるかを参考に判断するのがよいと思われます。
 ただし、定期補充療法を行っているのに出血が頻回にあるようなら、まず定期補充療法の投与量や投与間隔、あるいは使用する製剤を見直すべきであり、追加で補充する機会が滅多にないなら、半減期延長型製剤で対処してもかまわないと考えられます。


⑧周術期の補充療法
 
小手術以外の手術時や大出血時は、通常入院の上、凝固因子製剤の持続輸注が行われます。標準型製剤で持続輸注を行う場合、1時間あたりの輸注量、出血が増悪したときの輸注方法などはおおむね目安がありますが、半減期延長型凝固因子製剤にはこの目安がまだありません。
 しかし、大手術の場合は、「入院中」、「血管に留置針が挿入されている状況」であり、わざわざ半減期延長型製剤を使わなくても、標準型製剤で十分治療が可能です。
 一方、逆に短期入院や外来での小手術では、輸注回数が減少し、早期退院や外来通院回数の減少が可能となるかもしれませんので、特に自己注射を導入していない方には便利かも知れません。


⑨出血時補充療法
 
半減期延長型製剤は、定期補充療法における製剤投与回数を減少させることを、主な目的として開発されました。しかし、出血時のみに補充療法を行っている方に半減期延長型製剤を使用した場合も、初回投与に引き続いて行う追加(連続)輸注の回数を減らすことが可能になりますので、やはり利便性が向上する可能性があります。特に自己注射をしていない方は、病院を受診して製剤を投与してもらう回数が減少するので、大きく利便性が改善する可能性があります。

8. おわりに

 半減期延長型製剤の効果の強さは標準型製剤と同じで、効果出現の早さも標準型製剤と同じです。その上、効果持続時間は標準型製剤より長いわけですから、他の条件(安全性など)が標準型製剤と全く同じなら、全て半減期延長型凝固因子製剤に切り替えても、何ら不都合はないはずになります。しかし、半減期延長型製剤は効果持続時間が標準型製剤より長いだけ、とも言えます。従って、長時間の作用がそれほど必要なければ、標準型凝固因子製剤の使用を継続しても、何ら不都合はありません。
 標準型製剤から半減期延長型製剤への切り替えは、ボチボチ気が向いた人から考えれば十分です。すぐに判断しなければならない重大問題に直面した場合は、実績のある標準型製剤を使えば十分です。早く使わなければ大変なことになるわけでも、少しでも使い方を誤ると大変なことになるわけでもありませんので、主治医と相談の上、変更するかどうかをお考え下さい。