寄稿 薬害肝炎訴訟について | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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寄稿 薬害肝炎訴訟について

薬害肝炎訴訟について


≪筆者≫ 薬害肝炎訴訟大阪弁護団  西念 京祐

 訴訟の現状

     薬害肝炎訴訟原告の桑田智子氏

 東京・大阪を始め、全国5つの地裁で係争中の薬害肝炎訴訟は異例のスピードで審理が進行しており、この(2005年)6月からは、いよいよ大阪でも原告本人尋問が始まっています。大阪訴訟第1次結審対象である13人の原告本人尋問が終了するころ、年末から年始にかけて、福岡地裁および大阪地裁で結審を迎え、全体解決へ向けた重要な局面がもう間近に迫っています。

 フィブリノゲン製剤は1964年から使用され、原告の多くは1980年代後半の出産時に止血目的で同製剤を投与された母親達です。そのとき生まれた子供達が、もう成人しようとするこの長い長い時間を、お母さん達は、C型肝炎を抱え、体調管理や治療による副作用と闘い、また就職の場面等での偏見に耐えながら生活してきました。

 どうして、自分がこのような苦しみを背負わなければならなかったのか?この苦しみを防ぐことはできなかったのか?今後の治療態勢はどうなるのか?

 様々な思いを抱えた原告さん達の、長い長い苦しみの理由について問う裁判が、いよいよ終盤に差し掛かってきていることの重みを感じながら、私たち弁護団もこの熱い夏に取り組んでいます。これから、ますます、原告・弁護団・支援者が一体となって、被害救済のため、また、このような薬害を二度と許さないという強い気持ちを世間に対して伝えていかなければなりません。今後とも、ご支援を頂き、また、この問題に関する様々なご意見をお寄せ頂きたいと思っています。

 薬害肝炎訴訟の争点

 薬害肝炎訴訟では、主として、危険性、重篤性、有効性、有用性、因果関係、損害の各点が争点として争われています。

 「危険性」とは、フィブリノゲン製剤投与によるHCV感染の危険性の問題です。この点、非加熱凝固因子製剤と同様に、売血を含む多数のドナーから集められた血液をプールして製造されるフィブリノゲン製剤のウィルス混入の危険性が極めて高かったことは明白です。2000人から2万人もの血液をプールすれば、ウィルスが混入することは避けられません。乾燥加熱処理等の不活化処理工程があったことを被告は主張していますが、時期に応じて数種類ある各不活化処理工程を施したいずれの群の製剤によっても、製剤によって感染したとしか考えられない患者が出ていることが報告されており、不活化処理工程によっても十分な不活化がなされていなかったことを示しています。

 「重篤性」とは、肝炎の病態について、それが進展して肝硬変から肝癌に至る致死性の重篤な感染症であることについての認識を問題としています。この点、現在知見においてC型肝炎がそのような重篤な感染症であることは明らかですが、この重篤性に関する知見がいつ頃から知られていたのか、ということが問題となっています。被告は、ウィルスが1989年に発見されてC型肝炎に関する病態が明らかとなっていって初めて重篤性が認識されたと主張していますが、日本肝臓病学会による厚生労働省に対する報告書には、非A非B型肝炎と呼ばれていた頃から、このような肝炎の重篤性について40年前には警告されており20年前にはそれが実証されていたと記載されており、以前、MERSイベントでもご講演頂いた肝臓病専門医の第一人者である飯野四郎医師が、大阪地裁でも同内容のより詳細な証言をされました。

 「有効性」とは、そもそもフィブリノゲン製剤に薬としての効き目があったのか?ということです。もちろん、先天的にフィブリノゲンが欠乏している患者の方にとって、このフィブリノゲン製剤が極めて重要な有効性ある製剤であることは大変重要な事実です。薬害肝炎を理解するにあたって、この点はきちんと押さえておかなければなりません。本訴訟では争点になっていませんが、希少薬の供給維持と適応拡大の問題は薬のあり方を巡る重要なテーマであるからです。しかし、ここでは、被告側がフィブリノゲン製剤が有効だったと主張する後天性低フィブリノゲン血症なる症状の存在そのもの、作用メカニズム、有効だったという事実の実証の有無、が問題となります。この点、被告らは、内科のDICと産科のDICは別物であると主張し、この争点に関する産科医証人を全国で3人も立てて強く争ってきています。大阪で尋問のあった小林証人は、主尋問では産科出血においてフィブリノゲン製剤が不可欠であったかのように主張しましたが、反対尋問を通じて、自らは大出血の場面に直面してもフィブリノゲン製剤を使うことなく治療してきたことを認めざるを得ませんでした。

 「有用性」は、この重篤な肝炎感染症を引き起こす危険性と有効性との総合評価が問題となります。 

 「因果関係」は、各原告さんのC型肝炎感染症を引き起こしたHCVがフィブリノゲン製剤に由来するものといえるか、という問題です。産科出血時の治療として、フィブリノゲン製剤の投与と併用して輸血や濃厚赤血球製剤等の使用を受けている原告さんの場合、HCVが輸血等に由来していた可能性があるのではないか、という点が争われています。

 危険性に際しても述べたように、血液を介してしかおよそ感染しないHCVにおいては、感染者の血液が混入するかどうかが決定的に重要ですが、売血で、かつプール血漿に由来するフィブリノゲン製剤にはほぼ100パーセントウィルスが混入するのに対し、単ドナーの輸血等にウィルスが混入している可能性は1パーセント程度に過ぎません。輸血が併用されているというだけでは原告さんの感染がフィブリノゲン製剤に由来していることの高度の蓋然性は揺るがないというのが原告側の主張です。

 「損害」について、現在、大阪地裁で行われている原告本人尋問こそが損害立証の中核をなしています。一人一人の原告さんの抱える大変な苦悩の一つ一つが、裁判官や傍聴席に届くこと、とても許すことのできない薬害であることをしっかりと世の中に訴えていく必要があります。

 各争点を立証するための専門家証人の尋問は、各地裁で立証分担した上で、着実に進行してきました。

 今後の予定と原告拡大に向けた取り組み

 今後、大阪地裁における期日は8月29日、9月21日、10月24日の原告本人尋問の後、12月19日にはこれまでの手続の総決算となる主張を行う予定となっています。

 また、昨年末のフィブリノゲン納入医療機関リストの公表により新たに問い合わせのあった方々を含め、原告拡大に向けた取り組みも引き続き行われています。時間の壁のため、カルテが存在しない等の事情で提訴に至っていない患者さんが数多くいらっしゃいます。時間との闘いであることを強く意識した原告拡大の取り組み、そして、原告数の拡大こそが日本の肝炎治療の改善を取り込む解決のために、極めて重要であると認識しています。

 ぜひ、今後とも、皆さまの熱いご支援をお願い致します。