寄稿 血液製剤の安全確保は万全か? | ネットワーク医療と人権 (MERS)

Newsletter
ニュースレター

寄稿 血液製剤の安全確保は万全か?

血液製剤の安全確保は万全か?
~血液関連法施行一年目の真実~


≪筆者≫ 大阪HIV薬害訴訟原告団 代表  花井 十伍

 はじめに

 血液関連法案が施行されて丸一年が経過した。以前述べたように、我が国の血液関連法は、三つの法律によって整理される事となった。すなわち、「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律(1)」「薬事法」「独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(2)」がそれである。特に安全性の確保に関しては、薬事法において、「特定生物由来製品(3)」として血液製剤を位置づけ、これまで「生物学的製剤基準(4)」のみに拠っていた規制を明確に法的に位置づけた。また、厚生大臣の諮問機関である薬事食品衛生審議会、血液事業部会に運営委員会を設置し、審議会の機能強化も行った。本論においては、こうした、新しい規制の枠組みによって何が改善され、また今後の課題は何なのかを概括してみたい。


(1)「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」
 昭和31年(1956年)に施行された「採血及び供血あっせん業取締法」が名称とともに改正された法律。平成14年(2002年)に公布、平成15年(2003年)7月30日施行。改正により、目的、基本理念及び関係者の責務が明確化された。また、献血の推進と血液製剤の安定供給等を規定している。

(2)「独立行政法人医薬品医療機器総合機構法」
 特殊法人等整理合理化計画の一環として、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構を廃止した上で、国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センター等と統合し、2004年4月1日より設立された独立行政法人の準拠法。医薬品の救済給付業務、審査関連業務、安全対策業務、研究開発振興業務を行う。

(3)「特定生物由来製品」
 平成15年の薬事法改正により定められた生物由来の製品の法的な定義の一つ。人その他の生物(植物を除く)に由来するものを原材料として製造される医薬品・医療機器等のうち、保健衛生上特別の注意を要するものを「生物由来製品」。「生物由来製品」のうち市販後において当該製品による保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するための措置を講ずることが必要なものを「特定生物由来製品」。

(4)「生物学的製剤基準」
 平成15年の薬事法改正前の生物由来製品の基準。

  1. 細胞、組織等に由来する原材料を用いて製造される医薬品・医療機器。
  2. その原材料が生物組織等であることから、未知の感染性因子を含有している可能性が否定できない場合があること。
  3. 不特定多数のヒトや動物から採取した組織・血液等を用いて製品化するため、製品ごとに個々のドナー(提供者)の影響を受けやすいこと。
  4. 細胞・組織等として機能を維持するに当たって、感染因子の不活化処理等に限界がある場合があること。

 血液製剤の安全性への考え方

 私たち「薬害エイズ」の被害者は、血液製剤は一般の医薬品とは異なり、倫理性、安全性の観点から、献血者から患者まで一貫した監視体制の下に置くとともに、国内の献血によって全ての血液製剤を賄うべきであると主張してきた。

 国内自給の問題はここではこれ以上触れないが、これまでどおり血液製剤を医薬品として取り扱う法体系において安全監視の実質がどのように担保される事が予定され、それが十分機能しているか否かを問う上で、もう一度基本的問題を確認しておきたい。言うまでもない事だが、血液製剤はその原料としてヒト由来血液を使用している。

 薬事法は一般に医薬品として認可された物質の画一性を前提としている。したがって、ある医薬品の承認申請書に記載されていない物質が混入している医薬品は全て、欠陥品として回収の対象となりうるし、こうした物質が混入する可能性のある製造工程は容認していない。

 もともと、こうした一般原則に当てはまらない血液製剤は薬事法とは別の法体系で規制している国々もある。しかし、1990年代以降は血漿分画製剤については少なくとも医薬品と同等の法体系の下で規制される潮流が容認されるようになってきた。こうした潮流はアルブミンの安全性と血漿プールの拡大を背景に1970年代に始まったが、血漿分画製剤によるHIV感染禍の世界的広がりによって、世界は血漿分画製剤の安全性確保は血液供給システムの不備であるとの認識に再度立ち返る事を余儀なくされた。

 行政、企業の責任を問直す声も高まり、ドナースクリーニング(5)やウイルス不活化による最大限の安全性が求められる事となった。ドナースクリーニングに関連し血清学的検査以外にPCR法(6)による検査も当初はコストとのバランスが論じられたが、消費者側の安全性に関する強い要請はこうした議論すら許さないほど大きなものとなっていった。これら取り組みにより、1990年代半ば頃までには、既知のウイルスに関する限り全ての血漿分画製剤による感染リスクは理論値の水準まで下がっていった。しかし、製薬企業や一部の政府はウイルス不活化技術の導入により、原料血漿レベルでの更なる高感度検査導入や各ドナーへの遡及体制の必要性に疑問を投げ掛け、ウィルス・プロセスヴァリデーション(7)の信頼性に重きを置くことで足ることを主張するようになった。

 こうして、1990年代半ばには、再び血漿分画製剤の画一的安全性を信頼し、ドナーの質を問わない規制体制で安全が確保可能であるかのような主張が復活してくることになる。しかし、こうした流れは、vCJD問題によって三度くじかれる事になってゆく。結局既知のウイルスに万全の対策を施そうとも、未知の病原体に対する備えは常に必要である事は、血液製剤のみならず、全ての生物由来の製品に要請される課題として認識されるに至った訳である。


(5)「ドナースクリーニング」
 ドナー又はドナー動物が細胞・組織利用医薬品等の原材料となる細胞・組織を提供するための適格性を満たしているかどうかを決定するための診断及び検査を行い、適格性を判断することをいう。

(6)「PCR法」
 ポリメラーゼ・チェイン・リアクション法(polymerase chain reaction)の略語。ウィルスの遺伝子の一部を増幅させる手法により、抗体検査に比べて遙かに感度に優れたHIV感染の有無を判定する検査法。

(7)「ウィルス・プロセスバリデーション」
 ウイルス除去及び不活化技術が、期待された効果をもたらしているか否かを実験的に検証すること。ウイルスの大きさ、形状、脂質膜の有無、核酸の種類(DNA型、RNA型)、耐熱性などの特性を踏まえて適切なモデルウイルスを選択し、実験室規模での添加試験(スパイク試験)を実施することにより、既知のウイルスのみならず未知のウイルスに対する除去及び不活化能力を検討、評価すること。

 遡及調査の意義

 新しい薬事法は、生物由来製品安全確保の加重規定(8)を多く持つが、その内容は主に常に原材料のリスクを監視するという考え方に基づいている。血液製剤はこうした製品群の中でも最もリスクの高い特定生物由来製品として位置づけられ、感染症の定期的な報告など、原料の非画一性を前提とした規定や医療現場における患者への説明や、医薬品使用による感染症の発生疑いがある場合の医療関係者の報告義務などが規定された。

 血液製剤の安全性を確保するうえで、もっとも重要なものに遡及調査がある。遡及調査とは、供血の時点で、抗体陽性あるいは抗原陽性が判明した場合、ウインドウ期(9)の可能性のある過去の供血も含めて、このドナーの血液由来の血液製剤を使用した患者の検査を行い情報提供するとともに、使用前の製剤を回収する「ルックバック」と血液製剤の使用により患者が感染症等に罹患した場合、当該血液製剤に使用された血液のドナーまでさかのぼり同じドナー由来の血液を排除する「トレースバック」の手続きの総称である。

 本来こうした遡及調査手続きが明確に法律で規定されるべきであったが、新薬事法においては、副作用報告、記録保管の責務規定やガイドラインを組み合わせて規定されている。しかしながら、抗体陽性ドナーの保管検体の検査やウインドウ期への遡及のガイドラインが定まっていなかった事から、日本赤十字社が遡及調査を行っていなかった事が発覚し、厚生労働大臣が報告命令を出すなど後手に回った対応となってしまった。

 現在やっと日本赤十字社のガイドラインがまとまり、薬事食品衛生審議会において承認されつつあるが、やはり法律に基づいたガイドラインを国が定めるべきであろう。


(8)「生物由来製品安全確保の加重規定」
 一定の「生物由来製品」については、一般の医薬品の製造にかかる安全基準(GMP(10)等)に付加的な基準(採取方法・原材料の記録等)を課していること。

(9)「ウィンドウ期」
 感染初期に細菌、真菌、ウイルス等又は細菌、真菌、ウイルス等に対する抗体が検出できない期間をいう。仮に感染者がこの期間に献血した場合、非感染と見なされ輸血用血液製剤にウィルスが混入する可能性がある。

(10)「GMP」
 製品を恒常的に一定の品質で製造するための手順・管理体制を定めるもの。「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理規則」等。

 医薬品医療機器総合機構に求められるもの

 本年4月には「独立行政法人医薬品医療機器総合機構」が発足した。同機構は、スモン和解を契機に発足した「医薬品副作用被害救済基金」を母体とし医薬品副作用、生物由来製品感染被害救済部門と審査・安全監視部門、研究開発振興部門からなる厚生労働省医薬食品局の実質的な執行機関である。

 血液製剤に関しても、血液製剤による感染被害救済をはじめ、感染症罹患報告や定期報告はすべて当機構が最初に受けるとともに海外のGMP査察も行うことになる。

 当独法は主に医薬品審査期間短縮を最大の課題としており、ある程度の増員は図られたものの欧米の審査体制と比較するとまだまだ人員不足であり、生物由来製剤の新たな安全監視業務を行う人員も不足している。安全監視体制の実質を担う執行機関としてさらなる充実が求められる。

 血液事業部会の役割

 薬事・食品衛生審議会血液事業部会は、内部に運営委員会を設置しより機動的対応が可能となったが、比較的短期的課題については審議会の実質を確保しつつあるものの中長期的課題を各専門部会と連携して推進するためにはさらなる精進が必要である。

 特に血液代替製剤の安全監視は生物由来技術部会やプリオン調査会とのさらなる連携体制が求められる。実情としてはまだ、担当課レベルの壁を十分越える事ができていない。

 また、情報の公開については、資料、議事録の公開は以前よりかなり迅速になったものの、血液事業部会以外の部会では発言者を匿名にしたままの議事録も散見される。透明性確保の徹底や各委員の利益相反の公開などが今後の課題である。

 血液法における医療者の役割

 一方、医療現場に関する規定については、感染症罹患報告の為の輸血前検査や検体の保管やインフォームドコンセントのあり方などまだ現場環境の整備が十分ではない。

 特に薬事法において血液製剤の添付書類やラベルに感染症のリスクや製造工程における血液由来、動物由来物質の詳細が記載されるとともに、献血、非献血の別(11)、採血地(国)などが明記されたが、こうした情報をどのように患者に伝えてゆくかは医師の裁量に任されている。

 適正使用に関しては今回の規制以前に薬価差の圧縮や医療機関単位の医薬品購入枠など経営的事由によりかなり進んだ面があるが、確たる根拠のない血液製剤の使用が完全に是正されたわけではない。経営的理由による使用抑制と適正使用は似て異なるものである。


(11)献血・非献血の定義
 献血とは、「自発的な無償供血」をいう。また、非献血とは、献血以外の方法による供血をいう。「自発的な無償供血」とは、1991年国際赤十字・赤新月社連盟第8 回総会決議第34号におけるvoluntary non-remunerated blood donation(「自発的な無償献血」)の定義を踏まえ、「供血者が血液、血漿、その他の血液成分を自らの意思で提供し、かつそれに対して、金銭または金銭の代替と見なされる物の支払いを受けないことをいう。この支払いには供血及び移動のために合理的に必要とされる以上の休暇が含まれる。少額の物品、軽い飲食物や交通に要した実費の支払いは、自発的な無償供血と矛盾しない。」とする。

 各採血事業者で行われている採血が、当該国政府により定義された「自発的な無償供血」に合致しており、かつその定義が、上記「自発的な無償供血」の趣旨と著しく乖離していない場合、「献血」と表示することとする。ただし、当該国政府が自発的な無償献血の明確な定義を有しない場合は、「非献血」と表示する。

 最後に

 このように、血液製剤の安全監視を単独立法で行わない制度的空隙は機能拡張した薬事法で、ある程度解消しつつある。しかし、その実質は十分な安全監視の為の人員の確保と医療制度全体の中での具体的実効性が確保されてはじめて担保される。そうした体制整備を行うにあたって、縦割り行政の問題点が大きな足かせとなっている事は相変わらずである。血液製剤の安全性確保は、未知なるリスクへの日々の備えによって完結するという現実は永遠に無くならないだろう。こうした危機管理はシステムの構築の推進だけでは決して実現する事は無く、最終的には関係者の日常的緊張感に依存する。依然として、なによりも肝に命じておかねばならない事柄である。