MERSイベント「ご存じですか? サリドマイドのこと」:第2部 対談 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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MERSイベント「ご存じですか? サリドマイドのこと」:第2部 対談

MERSイベント「ご存じですか? サリドマイドのこと」
第2部 対談『サリドマイド復活が問う現代医療のゆくえ』

 

       浜 六郎 氏

【司会進行役】
 花井十伍氏(大阪HIV訴訟原告団 代表)

【シンポジスト】
 増山ゆかり氏(財団法人いしずえ 常務理事)
 浜六郎氏(特定非営利活動法人 医薬ビジランスセンター 理事長)


太田裕治(特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 事務局長):
 それでは後半を始めたいと思います。増山さんはサリドマイドの被害者として薬害の再発防止に力を入れて活動されております。今日は浜先生に参加して頂いて、サリドマイドの復活について今日的な問題を教示して頂きたいと思います。進行役として大阪HIV薬害訴訟原告団代表の花井さんにバトンを渡したいと思いますので、よろしくお願いします。

花井:
 「サリドマイド復活が問う現代医療のゆくえ」という対談でございますけれども、浜六郎さんについて、簡単にご紹介いたします。医薬ビジランスセンターという特定非営利活動法人の代表をされております。大阪大学医学部を卒業後、1977年から1997年まで阪南中央病院の内科で勤務されていまして、その後は薬害根絶をライフワークとされており、民間の立場から医薬品の危険性を訴えたり、もしくは評価して情報を流すという活動をされております。もちろん現在でも臨床の現場にも携わっておられます。それから増山ゆかりさんは、さきほどの第1部で話してもらいましたが、サリドマイド薬害の被害者で、現在(2003年)は財団法人いしずえの常務理事をされております。全国薬害被害者団体連絡協議会でも積極的に活動され、障害者問題、薬害防止について極めて重要な活動をされております。

 前半で薬害が生み出す悲劇といいますか、そのようなことを話されたのですが、では「薬をもう飲まなきゃいいじゃん」、「薬をなくそう」ということになれば、薬害は完全に無くなるわけですが、そうはいきません。特にサリドマイド薬害を起こしたサリドマイドが今復活しようとしています。こういうことがなぜ起こりうるのか、もしくはサリドマイドは必要な人には必要なのだろうかということを含めて、薬害と今後の医療について対談していきたいと思います。まず話の枕として、浜六郎さんの方から問題の所在を簡単にお話し頂いて、それから対談に移っていきたいと思います。では浜さんよろしくお願いします。

          スライド1

浜:
 医薬ビジランスセンターの浜です。紹介して頂きましたように内科医を20年ほどしていました。その間に薬の情報誌であるTIP(The Informed Prescriber)誌の活動をしていまして、それで薬の評価をしていました。ところが、どうも日本の薬というのは、古い良い薬が安く、新しくてまだ評価の定まっていない薬がかえって高く売られる、またはよく使われているというおかしな現象があるということに気が付きました。6年余り前になりますが、『薬害はなぜなくならないか』という本を出しまして、それがきっかけになって病院を辞めて、現在は、薬を評価する仕事をしております。こういう格好をしておりますので、「あいつ、いい加減な奴や」と思う人もいますし、テレビに出ますとこの格好だけが印象に残って、肝心の話の内容は覚えていないという人がいたりします。

 何かする時には徹底的に調べることを信条にしていまして、非常にこだわってしますので、一回食らいついたらなかなかのものです。その犠牲になるメーカーというのはいくつか出ています。たとえば、アトピー性皮膚炎に使われるプロトピック軟膏です。最近、現実に被害者が判明していますが、これは大変な発ガン性のある物質でして、徹底的に調べました。それが今朝の読売新聞にも載りました。

 前置きはそれぐらいにしまして、いい薬なのになかなか使われない、かえっていい加減なものが日常的に承認されて使われている。さらに承認されていない適応症に使われて、さも承認されていて、普通に薬として使えるものだというイメージを医師も持って実際に使って、それで被害に遭われることが結構多いということに気付きます。

左:スライド2 右:スライド3

 スライド2はアメリカでのことです。不整脈が起こると、場合によっては死ぬかもしれない心室性不整脈というのがあります。すぐにでも死ぬかも知れない不整脈には、よく効くということで発売された抗不整脈剤があります。その薬を軽い不整脈にも使っていた方の寿命が長くなるという論文が出まして、それで現場でも軽い不整脈にたくさん使われるようになりました。使われ方があまりにもひどくなり、心配してFDA(米国食品医薬局)がNIH(米国国立衛生研究所)で臨床試験をしました。そうすると、この抗不整脈剤を使った方の死亡率が倍になったので、これ以上続けると倫理的に問題があるので臨床試験を中断したといいます。もし製薬企業の主張通りに、きちんとした臨床試験もなしにずっと継続されていたら、年間何千人もの死者が出ただろうと推測されます。

 アメリカだけではなく、医療過誤の相談を私が受けた中にも、日本で未確立の適応症以外で薬剤が使われ、死亡したという例がいくつもあります(スライド3)。例えば、ステロイドパルス療法です。普通1日に60mgというのがプレドニゾロンというステロイドホルモンで最大の使用量なのですが、それが1日1000mgとか、それを何日間か使うという超大量療法が行われます。場合によっては1日何千mgという、mg数で言えば100倍以上の使用量になるということもあり、そのような治療は治療と言えるようなものではありません。試験的方法と呼ぶべきものです。それをぜんそくに使って亡くなった方が2人おられます。急性喉頭蓋炎という、ステロイドホルモンが本来適応症ではない疾患にも使われて、それで死亡した方が1人、潰瘍性大腸炎でステロイドパルス療法を受けて死亡された方が1人、重症のネフローゼで死亡された方が1人、合計で5人ということになります。死亡してはいませんが、20歳代の方でウィルス性の感染症とか、B型肝炎が長引いた例にステロイドホルモンが大量に使われて、それで大腿骨骨頭壊死(骨頭が壊死する)で人工骨頭をつけなければならなくなった方がそれぞれ1人います。放射線科の処置で、やはり適応外なんですが、試験的な方法をされて亡くなられた方が1人います。こういうふうに非常にたくさんの方々が試験的な方法で亡くなられて、訴訟になってるという方の相談が多いです。

左:スライド4 右:スライド5

 なぜ適応外の使用が危険になるか、適応外の使用というものを考える場合になぜ慎重に扱わないといけないか、出回っている情報をどうして慎重に考えないといけないかという例です。公表された情報というのは、メーカーの情報にしろ、研究者の情報にしろ、根拠があって良い結果が出たら公表され、悪い結果が出たらほとんど公表されないということがあります。だから、出版されているデータは、その試験的な物質が良かったという情報だけに偏っているということがあります。

 出版されているのが偏った情報、必然的にバイアスのかかった情報(出版バイアス)だと私が言うものには根拠があります。ある薬剤に関して肯定的な情報が出版・公表されているときに、たとえFDAが否定的な情報を持っていても(メーカーから当然否定的な情報も一応国の方には報告されることもある)、新しい適応症が正式に承認されるまではこれを公表することができないのです。これは通商秘密法というものによって法律で禁止されています。たとえ国であっても、その情報を開示できない、つまり否定的な情報の公開が法律によって禁止されているということがあります。日本ではこの辺の事情がはっきりしませんが、特に法的にどうなっているかという問題以前に、まず否定的な情報は公表されない、開示を求めても公表されないということがあります。アメリカ以上に日本では否定的な情報が公表されません。(スライド4)

 医師は効くという情報がある限り「是非一つ使ってみたいと思う」ということがよく言われます。そのことが必然的に危険性に甘い評価になる。その根拠として、FDAのBurkeさんという方がいくつか根拠を示しています。医師の適応外使用要望には、未承認の高齢者だとか小児など、年齢層に広く使用が可能だと主張することが多いです。それから、用法や用量を超えて推奨することが多い。試験のエンドポイントは症状のコントロールだけなのに、病気の進行とか、あるいは死亡率も下げると患者には言う。例えば腫瘍が単に縮小するだけ、ガンを治すと言い換えて患者に話すということが結構多いと思います。あるいは、特別な例になりますが、試験デザインであまり根拠がないのに根拠があるように見せかけた情報を流したりするなどいくつかあります。(スライド5)

左:スライド6 右:スライド7

 スライド6はオーストラリアの治療ガイドラインです。オーストラリアで標準的な治療であっても、日本ではまだ未承認適応外の薬剤があります。本当は必要な適応症ですが、日本では適応になっていなくて、なかなか認められていないというものもたくさんあります。それは厳然たる事実です。

 用量の問題でも、アセトアミノフェンはいちばん安全といわれる解熱鎮痛剤ですが、日本ではごく少量しか使えない。外国では、あるいは根拠のある情報としては、日本の適応症の倍ぐらいの容量の範囲内で使えますが、残念ながら日本では少量しか認められていません。(スライド7)

左:スライド8 右:スライド9

 ガン学会、ガンの学者を中心に構成したJCOGというものがあります。日本で使えないけれども、外国では根拠のある治療方法を用いる場合にどうしたらいいのかということの取り扱いの規定を提案しています。いちばん初めにそういう適応外の使用をする場合に考えなければいけないこととして、「施設に不必要な損害を与えてはならない」を提案しています。それ以外には事故の責任の所在をはっきりさせるとか、厚生労働省のガン関係の助成金支援を受けてやるべきだとか、あるいは治験にメーカーをきちんと巻き込んでしないといけないなどの規定です。患者の権利はどこにいったのだろうなと感じます。IRB(治験審査委員会)の承認が必要というところには入っていますが、具体的にその辺のことは規定がありません。(スライド8)

 しかし、本来患者に不必要な損害を与えてはならないというのが大原則であるべきだと思います。けれども、「不必要な臨床研究の対象にしてはならない」とか、あるいは事前にどれぐらいのことまで研究されているのか、きちんとレビューして、本当にそれが必要な臨床試験であるかということを検証してから取りかからないといけません。私が考える「治療試法」の取り扱いの原則をまとめたものをスライド9でお示しします。

左:スライド10 右:スライド11

 今はEvidence-Based Medicine(EBM)という言葉がよく使われています。少し整理して考えてみますと、Sackett(サケット)さんという方(EBMの大御所のような方です)の定義に私自身が少し修飾した形でEBMの定義を作りました。要するに、最良の科学的な根拠に基づいて、患者にとってもっとも価値のある結果が得られるように、誠実に思慮深く的確に実践する医療ということだと思います。(スライド10)

 患者の健康、価値観、意味のあるものというので、これがいろんなところで議論になることかと思います。私自身は慢性の病気に薬剤を使う場合には、最終的には死亡率が減少することがやはりいちばん大事になってくるのではないかと思います。そうではなくて、症状さえ取ってくれればいいという方もおられると思います。けれども、全体として承認するということになれば、この辺がやはりいちばんポイントになるのではないか思います。出来るだけ確からしい情報を徹底して探すというところが、やはり大事ではないかと思います。

 根拠があるということを判断するためには、RCT-Randomized Controlled Trial―、くじ引きで公平に分けて、目隠しをして結果を見るという公平な比較試験がいちばん大事であります。それを大規模で、または公平で大規模な科学的な臨床試験をいくつも併せて評価したシステマティックレビューというものがいちばん根拠のあるものと判断しないといけない。専門家の意見であるとか、臨床経験であるとか、症例報告などは、根拠としては小さいということです。一般的にはRCTというのはこういうところで言われています。(スライド11)

左:スライド12 右:スライド13

 本来ガンの研究などでは、エンドポイント、何を大事な結果とするのかということをよく考えておかなければいけない。特にガンの研究においては、総死亡率というのが結果の評価になります。効いたか効かないか、その評価をする最終的な判断の根拠にすべきは総死亡率なのです。特定の死因別の死亡率、例えばガン細胞がなくなる、ガンによって死亡するということをいちばん大きな根拠にすれば、抗ガン剤を大量に使えば使うほどこれはいいわけです。なぜかというと、大量に使えばガン細胞は確実に死にますが、人も死にます。だから、その辺のバランスを考えるために総死亡率というのが大事であって、最終的にそのガンが縮小したということ、あるいはガンによる死亡が減ったということだけを根拠にしていてはいけません。www.Cancer.govという公式のウェブサイト(アメリカの国立がんセンター(National Cancer Institute)のHP)でこのことが述べられています。今回のサリドマイドの問題を考える場合にも総死亡率がどれだけ確かめられたのかをきちんと見ないといけないということです。(スライド12)

 科学的な根拠のある情報を集めて、世界に発信しているコクラン共同計画というのがあります。その共同計画の名前の由来になった方はアーチー・L・コクランという医師であり、公衆衛生学者であり、疫学者ですが、「効果が確認されていないものは無効と考える」べきだと言っています。科学的な根拠を持って、「効果が確認されていないものはまだ無効であると考えて、効き目のあるものは公的に使えるようにするべきであるが、そうでないものは皆が使うようにするべきではない」と言われた方です。そういうことを考慮に入れて、サリドマイドの問題、あるいは適応外使用の問題を考えていかないといけないと思います。(スライド13)

花井:
 ありがとうございます。それでは、現在サリドマイドの復活ということが言われております。増山さん、これはサリドマイドを使いたいという人がかなり多数いるということなのでしょうか。

増山:
 そうですね。平成15年9月18日に厚生労働省が発表した数字によれば、平成14年度は大体44万錠が薬監証明によって、サリドマイドは日本国内に輸入されています。ただいま、浜先生は薬の適応外使用の説明から入ったのですが、なぜその話になったかというと、サリドマイドが現在、医薬品として承認されているのはアメリカだけで、それはハンセン病の治療薬としての承認です。今サリドマイドが注目を浴びているのは、ガンの治療薬として有効ではないかということで注目されています。ほとんどが、適応外処方で使われているという実態があるからです。日本ではサリドマイドが過去に薬害事件を起こした経緯がありますから、実際、企業側が手を挙げにくいという雰囲気はあります。さらに、アメリカでサリドマイドの製造認可を受けた製薬会社が製造権と治療目的特許権を持っているため、高額な特許料を支払わなければ作ったり売ったりすることができない事情もあります。そこで、実際にほとんどが個人輸入という形で、個人が申請して未承認薬がどんどん日本国内に入っている状況が問題になっています。このことがサリドマイド復活問題だと思うのですが、サリドマイドに副作用があるという問題だけではなく、未承認薬問題、適応外使用問題なども絡み、日本の現代医療制度の未整備なところにはまって、さらにサリドマイドを取り巻く問題は複雑です。

 厚生労働省が薬を認可しなければ医薬品として治療に使われるはずがないと多くの人は考え、国の医療制度を信頼していると思います。薬というのはきちんとした審査のもとに適正に適切に使われるべきですが、薬害がこれだけ繰り返されているということは、そのカリキュラムに何かしら致命的な問題を抱えていると考えるべきです。

 個人輸入で日本国内では承認を受けていない薬も、現実としては、お金を負担すれば、日本何処ででも治療に使えてしまう実態がずっと放置されて、素人の私には一体誰のための何のための医薬品承認制度なのかなと思ってしまいます。特に最近いくつか医療事故が新聞にも出ていましたけど、例えば大きなところで、去年はイレッサの問題があったと思います。議論されて吟味されて書類もきちんと審査された承認薬でさえ、こうしてたびたび重篤な副作用を起こして、迅速に対応できず被害を拡大させてしまいますから、問題はかなり深いのでしょう。

 考えてみれば、海外で開発されたこの薬を日本国内で販売しようとすれば、治験をふたたび行うわけですが、それには膨大な費用と手間がかかります。企業側からすると、承認に拘らなければ無制限に使えるわけだから、すごいお金をかけて承認を受けることが、場合によって切実ではないのかもしれません。

花井:
 認可された薬でもリスクが高くていい加減なことやっているのに、ましてや個人輸入で使われるっていうのは非常に危険なことだと思うんですけれども、これはしかし、患者からすれば、自分のガンに効くとなれば個人輸入してでも飲み、使いたいと思うのが人情なのです。この辺は浜さんどうなんでしょう。

浜:
 薬が効くという情報や患者さんが接している情報もどういう情報であるのかをよく考えてみないといけないわけです。「効く効く」という情報は医師が流している情報かも知れないし、民間のいわゆる健康食品などでも、なんかたまたま効いた人の情報がわっと広まるということがあります。それがネットに流されて、一人歩きすることが非常に多いのではと思います。医師が接する情報も出版バイアスといいますか、効くという偏った情報が多いのです。また、患者さん自身が接する情報にもやはり偏った情報が非常に多い。そして、効果にだけ偏った情報で判断することは危険だと思います。本当に効くという事が証明されて、そういう情報に基づいて患者さんも使いたいと言うのがよいのです。けれども、たまたま一人だけに効いたと、たまたま珍しくある人に効いたという情報だけで判断されると危険ですよと言いたい。あなたご自身の命ですから、それは他の人がとやかく言う筋合いはないのですが、偏った情報で判断してると危険でしょうねということを言いたいと思っています。

花井:
 増山さんはどうですか。サリドマイドを使いたい人、個人輸入なら自己責任なので使いたい人は使うというのは勝手といえば勝手ですが、浜先生の本当に効くというエビデンスは無いのではないかという、非常に曖昧な情報に踊らされているのではということをおっしゃったと思います。増山さんはサリドマイドを個人輸入して使われている実態については反対なのですか、それとも賛成なのですか。

増山:
 最初にサリドマイドが治療薬として復活しているという話を聞いたとき、私にとっては、やはり多くの人が犠牲になった薬であるということが強烈にあるわけです。だから、この薬が誰かを救うということが想像できなかったことが正直あります。私はあまり医学的な知識がないので、医薬品としての有効性がどうなっているのかわかりませんが、きちんと治験などの手続きを踏んだ中で、問題がないということであれば使ってもいいと思うのです。今年に入って、サリドマイドの問題について議論することでシンポジウムが開かれました。そこですごく感じたのは、例えばガンや命に関わるような病気の場合は、薬の開発が患者さんの生命に直結してくるわけです。それが残念なことに、対象の患者さんがすごく少ない場合、なかなか開発が進まないという実態もあります。だから、例えばガンに使われると聞くと、命に関わる病気なので、どうしても新しい薬が開発されたと聞けば、すぐ飛びついてしまいたくなるというのは理解できます。

 例えばサリドマイドでどう絡んでくるかと言いますと、骨髄腫の治療薬などにもすごく有効だと言われています。海外においては、サリドマイドはオーファンドラックに指定されているという現状があります。オーファンドラッグというのは、「重篤ないし生命を脅かす疾患の治療やこれまでにない医学的ニーズに応える可能性のある化学物質の開発と審査を早めるための制度」ということで、通常すごく審査に時間がかかるところを、書類を全部出さなくても、段階を踏んで書類を提出し、審査を受けることが出来るというメリットがあるのですね。ところが実際、このようないろんな制度があるにもかかわらず、対象者数がすごく少ないと、企業が開発しても採算がとれないということもあり、薬の開発には実はムラができてしまいます。そうすると何で埋めあわせをするかというと、結局は適応外使用とか未承認のままどんどん個人輸入という形で治療に用いているというのが現状です。「患者のための医療をしなければいけない」と医療現場で言われて久しいです。けれども、実際には個人輸入の形あるいは適応外使用という形で薬が治療に使われ、そのしわ寄せを患者さんが被っているのが現状で、やはりこういう問題はきちんと医療行政の中で解決していかなければと思っています。

浜:
 例えば、抗HIV薬の場合は、確かに使った人と使わなかった人を公平に比較して寿命がどうなったかということをしませんでした。しかし、これまでの寿命と使わなかったときの寿命を比べると明らかに寿命が延長して、それは確実だということが比較試験をしなくても分かりましたからいいのですが、サリドマイドのような抗ガン剤は良い方向と悪い方向がほとんど同列にある。それを比較しないと最終的に本当に良いのかどうかは分からないものですから、慎重にしないといけないということです。

 サリドマイドの効き方を説明します(右図参照)。血管の中に一層、内皮細胞という細胞があります。これが血管の血液が流れているところに接している一つの細胞の層なのです。その内皮細胞というのが壊されますと、必ずそれを再生しないといけないわけですね。角膜なんかでも損傷する、壊れるとそれを修復するというそういうことを繰り返していって、新陳代謝を行っているわけです。

 サリドマイドは一回壊れた細胞が再生してくるところの過程を障害しますので、だから再生してこないで傷がそのまま残ってしまうことになります。皮膚が傷ついたときに血液がでて、血が固まってきます。固まることによって傷を塞いでいるわけです。サリドマイドの場合は再生してこないから、傷のままのところに血液が固まってくる、血のかたまりが出来てくる、段々それが大きくなってくると血管が詰まってしまいます。こういう事が起こって血栓というのをよく作る。一番典型的なのが肺の血栓塞栓症、突然死するいわゆるエコノミー症候群という呼び名で知られるようになった病気ですけれども、それが起こって突然死する人が出てくる。骨髄腫の痛みというのは耐えられない痛みだから、突然死しても痛みさえ治まれば良いというふうに考える方も中にはおられるかもしれません。もしそういう方がおられたとしても、その辺のバランスの問題で、後はその方がどう考えるかという事ですね。

 それでサリドマイドはどうして腫瘍に効くかというと、新しいガンや新しい組織というのは血管を作りながら、大きくなっていくわけです。戦争でも補給線というのが断たれてしまったら、前線の基地は駄目になってしまうのと同じように、血液、血管を補給しながらガンも育っていくのですが、サリドマイドはこの補給を防げますから、腫瘍も大きくなってくれないということです。これはサリドマイドで増山さんの手が成長しなかったことも、お母さんのお腹の中で成長して新しく手が伸びているときに、新しく血管が出来ないといけないのに、それが出来なくなったから手も伸びなくなったということです。こういうことで、サリドマイドの障害が起こったこととガン細胞、ガンを縮小させる、あるいはガンが大きくならないようにする作用は基本的には同じ作用であり、また同じ作用によって血栓症という有害な作用も出てくるということです。これは作用と害とが切っても切り離せない。だから、腫瘍を小さくしようと思ったら、血栓症が起こることは覚悟しないといけないものであります。イレッサもそうです。そういう性質のものだということを基本に置いて、考えないといけないということです。

花井:
 結構、作用的に乱暴な物だと素人的には思うのですが、例えば痛みを止めることに比べて、死ななくても済むんだということが一番有効性としては大事であるけれども、痛みを取るという有効性もわからないではない。そうなると、ベネフィットとリスクということの判断がより厳しくなるということだと思うのです。けれども、サリドマイドは他の薬と置き換えられないことは無いように思えるのですが、どうしてサリドマイドだけがこれだけ取りざたされて、サリドマイドが人気を博しているのか、他にサリドマイド以外にはこういう薬がないからなのですかね。それとも社会的事情があるからなのでしょうか。

浜:
 社会的事情はよく分かりませんが、同じような血管の内皮を傷害することによって抗腫瘍効果を発揮しようという物質は山ほど出来ています。いろいろと試されているのですが、今にもサリドマイドの代わりになるもっといい物質が出そうだと近年はずっと言われていましたけれども、出てこないというのが不思議なところです。イレッサもそういう作用機序では確かにすばらしい、もし効けば本当にすばらしいということですが、副作用の方も確実に起こるだろうなと考えておかないといけないです。僕は「あまり有望ではないのではないかな」と思います。こういう生命の基本的なもの、要するに新陳代謝をする、傷が出来たらそれを治すという構造そのものに何か作用するというのは、人の治る力を阻害するという事ですから、多分成功しないのではないかなと僕は思っています。非常に限られた何か有効な適応症を考えられればいいかも知れませんが、基本的には多分駄目なのではないかなと思っています。

花井:
 先ほど適応外使用の話をして頂きました。適応外使用をした方がいいと判断する専門家であるお医者さんが、非常にバイアスのかかった情報で判断しているということをおっしゃっていました。そうなると、私たち患者は、例えばどこからも見放されて、「噂では海外にはこういう薬があるかもしれない」という話を聞いて、主治医に相談したら「いやぁ、実は非常にいい薬なんだけどね、なかなか認可してくれないんだよね」という話をされるのですが、これをそのまま信用することは危険だと考えていいんですか。

浜:
 極めて危険ですね。もう信頼できるのは、われわれの情報しかないと思います。私たちは世界中の仲間と提携していますが、そういう情報はしっかりしています。ただそれでも、プレスクリイルというフランスの提携誌は「thalidomaide possibly useful」、ひょっとしたら役立つかも知れないというぐらいの評価をしています。僕はそれより厳しい意見ですね。情報誌の中でも我々が一番厳しい意見かなと思っていますが。

花井:
 増山さんは実際に骨髄腫の患者さんと会って話をされたと聞いたのですが、患者さんはどのように薬のことを言っていたのですかね。また今、浜さんが指摘されたように、お医者さんが「実はサリドマイドはこんなに効くのに」と、そのような言葉で患者に対して話したので患者も信じ込んでいるか、また、患者が自分で判断してサリドマイドしかないと考えているのか、印象としてはどちらのように思われますか。

増山:
 まず、私が患者さんに話を是非聞きたいと思ったのは、シンポジウムなどで、私たちは「今使われているサリドマイドも1960年代に使われたサリドマイドも、成分は全く一緒で、副作用も一緒なんですよ」ということをあまりよく理解されていないのかなと思っていたので、最初はその被害がどんなに悲惨なものだったかという事を知っていただくことにつとめました。実際に厚生労働省が先日まとめた未承認薬報告の中では、サリドマイドは現在約44万錠が日本国内に入り、アンケートに回答したサリドマイドを治療に使用している医師の83%が骨髄腫の治療薬に使っているという報告しています。シンポジウムに参加した時点で、骨髄腫の治療薬で80%以上も占めていることは知らなかったのですが、これだけ未承認のまま服用するのは危険だというメッセージを送っているのに、なぜ骨髄腫の患者さんはそれほどまでに使いたいのかなと素朴に感じたわけです。

 シンポジウムなどのやりとりだけで理解はできなかったので、患者さん達に、「もし良ければ詳しい話を聞かせて欲しい」と無理を言って個人的にお話を聞かせて頂きました。その中で患者さん達は「骨髄腫という治療自体がかなり難しい」とおっしゃっており、もちろん標準治療というのは確立されつつあるかも知れないのですが、実際にはすごく希少疾病に入るわけで、きちんと診断ができて治療が出来るというお医者さんがすごく少なかったりするのですね。そのような疾病だと、患者さん主体というより、医師や製薬会社からの情報といったものがすごく影響するのではないかと話を聞いていて感じました。ただ、現実として「こんなリスクがあるんだよ」とか「こんな有効性があるんだよ」とか、きちんと説明を受けて使っているということであれば、私自身は騒ぎ立てようとは思いません。

 また、使っているという現実がどうなのかということもすごく知りたかったうちの一つで、実際に骨髄腫の場合は、患者会がすごくサリドマイド剤に関しては、ガイドラインみたいなものを会の中で設けていて、私たちが初めに懸念していた無茶なやり方はやっていなくて、この辺まで症状が重くなってきた人にしか適用しないとか、一応内部できちんとその辺のコントロールはなされていました。ただ、未承認薬で個人輸入という形をとっているので、極端なことを言いますと、輸入された薬剤が、本当にサリドマイドなのかどうかということも誰も確認していないということなのです。私はやはり患者さんがそこまでリスクを負って治療するということが、サリドマイド剤に限らず患者のためになっているのかなというのを感じています。

 例えば承認薬、未承認薬に関係なく、現在治療現場でインフォームドコンセント「説明と同意」ということが言われますが、現実としては「説得と納得」になっているのではないかと思うわけです。果たして本当にそれがバランスのとれた中で「こういう状況の薬なんだよ」ということを知らされた上で使っているのかどうか、また患者さんはどうしても自分が良くなりたいと思うので、現実として自分にとってためになることが印象に残ってしまうことがあると思います。特に命に関わる病気というのは、日本の文化的なものもあると思うのですが、患者さんがやはり医者に対して遠慮があって、本当に聞きたいことを聞けているのかなとか、実際に聞けていないということがあると思います。私自身も面倒くさいので「はいはい」と、風邪ぐらいでは薬をもらって帰って来ちゃうというのがあります。そういう医療現場の中で、このような未承認薬が野放しになって、管理をされない状況で使われているというのは、やはり患者のためにはならないのではと思っています。ただ、患者自身が、どのように自分がその病気と向き合いたいかという話にも連動すると思うのですが、やはり最終的に患者が選択肢を持っているのではないかと思っています。

花井:
 ありがとうございます。しかし、私が今一つ分からないのですが、浜さんの話も増山さんの話も客観的に話を聞いていると、見えてる範囲ではそれでいいのですが、たとえば、「標準治療に必要な医薬品だけど、日本で使えないから個人輸入あるいは研究班で購入」みたいな話をしている場合と、バイアスのかかった怪しい論文で、いわば専門家村の村社会だけで「なんかこれがいい」ということが共有されて、「これは患者さんのために使わなければいけないのに国が承認しない。けしからん話だ」と言っている話をどうやって我々は見分けたらよいのでしょう。もしくは、そのようなことが患者の不利益にならないようにするためには、今の医療はどこがおかしいのでしょう。

浜:
 なかなか難しい質問ですが、それをリードしている専門家というのがいると思います。大学とか大病院の専門家と称する方々の見識の問題も一つかなと思います。そういう方はメーカーからいろいろ援助を受けて研究もしているでしょうから、そこでそもそもバイアス(偏り)がかかっているわけです。あるいは厚生労働省の研究班といっても、「研究者として選ばれる基準は何だろう」と疑問に思うことが多いです。ある非常に立派な大学の教授でもう退官していますが、この方が、「どうも私は学会のボスに睨まれていて、厚生労働省のブラックリストに載っているようです。それで結局どこかの研究委員会の委員に推薦してくれた人もいますが、それに載りませんでした」、そういう風な話もあります。ある種一つのシステムが出来上がっていますので、そのシステムから出てきた情報というのは相当バイアスがかかっています。それを正していくもう一つの勢力というのがきちんと出来ない事には、これは公平な情報にはならないのではないかと思います。けれども、それで金を儲けるというわけにいきませんから、なかなか育たない。あとはマスメディアですが、どうもマスメディアも何かバイアスのかかった情報しか流さない。情報公開が言われていますが、実は本当にバイアスのない正確な情報を求めるのは非常に困難になってきました。これは何も医学の分野だけではないと思います。いろんな分野に様々なバイアスがかかってきていますから、マスメディアもいろいろ違う情報を流していますので、大変な状況だなと思います。打開するのはなかなか難しいと思いますが、一人一人がそれを打開するために何か力を出していかないと仕方がないかなと思います。答えになっているのか分かりませんが。

花井:
 専門家と称する人たちが必ずしも正しいことを言わないということは身にしみて分かっているのですが、最近そういう正しいことを言う専門家を薬害被害者が育てていこうということを無謀にも考えて、いろいろやっていると聞いているのですが、この辺はどういう活動をなさっているんですか。

増山:
 ちょっとその前に、浜先生の答えと私の答えが若干違ったので、その話をさせて頂くと、私は医療というのが医者の良心とか見識などで治療が変わってしまうということ自体が問題ではないかなと思っています。本来医学というのは科学だと思っています。だから、科学的根拠に基づいて治療が基本的に行われるべきであって、水準的にすごく差があってはいけない。「このお医者さんにかかったら助かるけれども、こっちにかかったら駄目」とか、あるいは「このお医者さんだったらこんなふうだけど」ではなくて、最低ラインの中で、科学的根拠に基づいて医療というのは行われなければいけないのではないかなと思っています。日本の場合は「お医者様」という感じで敬っているのですが、本来は患者自身が負わなければいけない責任などを医療者任せにしている部分もあると思います。それを意識しているわけではないのでしょうが、海外に比べるとそういう状況があるのではないかなと私は思っています。だから患者も治療や医療制度をもっと理解し、主体的に自分の病気と闘わなければいけないという時代になってるんじゃないかなと思っています。

花井:
 実際に医療は科学といっていいのでしょうか。

浜:
 科学でなければいけないけども、どうも科学になりきれないというか。だから困っている。僕はいろんなことを大学で学びましたけれども、「科学ではない。アートだ」と堂々と言う教授もいます。だから、なかなか科学になりきれない。だけど、EBM(Evidence-Based Medicine)というのが出てきたら、「やぁ、昔から我々はEvidence-Based Medicineだよ」とも言うのです。いろいろ使い分けるというのは、偉い人の舌が一枚だけではなくて、二枚も三枚もあるのかなという感じはしますが。

花井:
 科学という限りは根拠となるデータがなければいけないのですが、さきほどの話からですと、そのデータそのものが、一定方向の良いデータしか使われないという可能性があるわけですよね。

浜:
 だから部分的には科学的だと、そういうことなのですかね。

増山:
 今は薬を使えば使うほど、薬を供給した方が儲かるという仕組みがあります。供給側が開示しなければネガティブな情報は出てきません。もしそこに問題が起きた場合に、例えば重篤な副作用が出て、それをさらに知らん顔していたとしても、それほど大きなペナルティがないという現状もあると思います。売った者勝ちで売って、たくさんの薬を開発して、どうやら問題があるなと思ったらすぐに引き上げてしまって、こちらがぐずぐずしている内にうやむやになっていくという薬がすごく多いのではないかなと思っています。これは浜さんと一緒に薬害オンブズパースン会議の中でその薬の有効性、安全性などについていろいろディスカッションしている中で、私は薬が実はとっても万能であるみたいに思っていたけれど、すごく曖昧なところで有効性や安全性が位置づけられていることを実感しています。素人だからと引いていないで、やはり自分の目の前にある薬が本当に自分にとって必要なのかということを考えるところから始めなければいけないと思っています。

浜:
 本当に事態は大変なのですよね。病気のことを全部分かってもらえれば、医者は本当にいらなくなるんですが、例えばこの冬、風邪にかかったら皆さんどうしますか。病院に行ったらかえって悪くなる可能性もありますから、おそらくSARSの疑いのある患者も来ますから、インフルエンザで解熱剤をもらって非ステロイド抗炎症剤の解熱剤をもらったら抗インフルエンザウィルス剤「タミフル」なんかの効果は一発で消えますよ。おまけにSARSまで病院からもらってきたら大変ですよね。「この冬はインフルエンザにかかっても病院に行かないでおきましょう」と僕は呼びかけて、今度のパンフレットにも書きました。今度10月20日に発売の次の号が「風邪とインフルエンザ」で、「病院に行かないこと」を皆さんに呼びかけているのですが、本当に大変な状況になっています。世界の70%のタミフルを日本で消費しているんですよ。だから、世界のインフルエンザ患者の70%が日本にいなければならないのですが、そんなことはあり得ないです。この騒ぎにはマスメディアも大いに関係していると思います。マスメディアが「タミフルが足りない」と言って、大きく報道したりしますから、それで皆が病院関係に行かなければいけないと思ってしまう。そのような状況で本当に良いのかなと思います。これは一つの現象ですが、サリドマイドにしてもやはりマスメディアのバイアスのかかった情報だと思います。医者の情報もそうです。なかなか一般の方が判断できるような情報が少ない。ということで、大変な状況ですから、情報には大いに気をつけて頂いて、情報を厳選して頂くというのが大事になってくるかなと思いますね。

花井:
 大筋でその通りだと思うのですが、中には非常にまれな新薬にすがるしかないという患者さんもいますよね。一方でそういう患者の弱みにつけ込んで、訳の分からない民間療法に毛が生えたような医療で金を取る医療機関がある。何らかの対策がないと、一般の風邪などはなるべく医者にかからない方が良いというのは、実はひとつの選択肢ですが、その通りと僕も思います。いわゆるサリドマイド、HIVやガンなどは人生を左右するような病気ですよね。そういうときに我々は気をつけると言いましても、一流の大学の先生に診てもらったら方がいいのではないかという考えがあるのですが、これは大学病院に行くのが良いのか、そうではない方が良いのかというのは言えるのでしょうか。

浜:
 僕らも若いときは大学病院で勤務してきましたから、「大学病院へ行くな」といったら教育も成り立ちませんので、ちょっと大変なのですが、実は大学病院はトレーニングの場ですから、若い未熟な医者がごろごろしています。そういう医者には良い者もいるし、下手な者もいるし、もうほんとに玉石混淆です。どういう治療になるものか、「良いのに当たったら幸せだな」と思って頂かんと仕方がない。上司である医者も、まじめな人はきちんと部下の医師の面倒をみますが、そうでない者もいる。ですから、一種の賭のような状態になるかも分かりません。ただ、本当に治療しないといけない患者さんというのはもちろんおりますので、そういう場合はやはり高度な治療ということも必要となってきます。けれども、総体として今の医療技術が患者さんをよくしているのかどうかに関しては自信がありません。

増山:
 花井さんが司会をされているのですが、少し質問をしたいのですが、かまわないでしょうか。

 HIV感染症も新薬の開発を待っているのは患者団体かと思うのですが、そういう状況の中で、サリドマイドがこのような形で使われているという事をどう思われているのかお聞きしたいのですが。

花井:
 難しいですね。HIVの場合はやはり特殊なところがあって、一度医者に裏切られたというか、お医者さんの言うことだけを聞いていて、血友病患者らは薬害に遭いました。一回火傷を負った者達なので、HIVの薬を導入し、医療体制を作るときも、科学に基づいているのかどうかも含めて、医師を完全には信用せずに本当に患者の方を向いた医療体制を国に要求し、そこでFDAで認可された全部の薬をリスクがあっても持ってこいということをしたわけです。最初は拡大治験で持ってきたし、その後迅速に審査して保険収載させています。専門病院で薬の使い方が分かる医師が使っているとは思うのですが、患者の側からすると、非常に高い専門性を必要とする抗HIV薬が安易に使われてしまうと、もしかしたら近い将来私たちがこのようにやってきたことが新たな薬害を産むことになって、どうしてそういう薬を持ってきたのかと言われかねないかもしれません。それは正しかったとは言えないけれども、生きるためにはそれしかなかったということですね。

 患者が切実に願って何かほしい場合は、最終的にはこれは薬害被害者で新薬を使う身とすれば非常に自己矛盾ですが、基本的には患者がほしい物の選択肢は全部与えるしかない。ただ選択する段階で、その判断の基準になる情報とその情報を判断することをお手伝いする専門家達がきちんと知っていれば、そういう論理的理想が成り立ちます。ただし、実態は論理的理想論に達してないので、現実にはリスクのある薬を認可すると、とんでもなく副作用被害が出るという実態があります。理想と実態のはざまで悩んでいるという事だと思うのです。だからサリドマイドの場合は、もしエビデンスがあると判断しうるのであれば、ちゃんと判断して、患者の選択にゆだねるのしかないでしょう。不思議なことに、快適さのために人間にはリスクを負う覚悟がある人がいて、例えばピルなんかは快適なセックスのためであったり、眠剤や覚せい剤のたぐいなんてもっとそうです。間違っていると言っても、人間とはそういうところがあるので、最終的には市場の意志というのは否定できないのかなと思うのです。

浜:
 なかなか難しい問題が出てきていますが、もう一度サリドマイドが本当に効くのかどうかというところを、レジュメを参考にしながら説明していきます。

左:スライド14 右:スライド15

 30%から50%の例に効くと言われたのは1993年頃です。効くというのはどういう事かというと、多発性骨髄腫は、異常なタンパクを作る細胞、免疫細胞が悪性腫瘍化する病気ですので、そのタンパクの量によって異常な細胞がどのくらいあるかということでわかるということで、異常なタンパクが減ってくれば、これは効果があったのだろうということです。これは腫瘍で言えば、腫瘍が縮小したという効果があったということでして、そのタンパクが25%以上減少すれば、一応効果があったという「仮の効果」ですね。それがどれぐらいかというと、大体18%から最大70%に効いたという報告が相次いで行われました。これをもって、皆さん効果があったといっているわけです。一部には痛みが少なくなるということも言われていますが、全体としてどうなのかということに関しては全く証拠がありません。一部の方にはどうもそういう症例はあったようです。(スライド14、15)

左:スライド16 右:スライド17

          スライド18

 公平な臨床試験でどういうものがあるのかを見てみました。PubMed(パブメド)というサイトで検索すると、「thalidomide myeloma」というキーワードで212件、「臨床試験」は28件、「ランダム化比較試験」という公平な比較試験では2件しかありませんでした。本来サリドマイドが多発性骨髄腫に効いているというのは、他の治療方法、きちんとした標準的な治療方法を全部やってみて、それで効かなくなったという人を対象にして効いたということが証明されなければいけないのです。

 けれども、ランダム化比較試験、公平な比較試験は、サリドマイド使用群も不使用群もまったく他の治療を何もしていないような人を対象にして臨床試験をしています。効果については全く報告されていません。血栓症がどれだけ出来たかという事だけが報告されています。血栓症は27%から43%の人に出来ており、大体対照群の20倍ほど出来るというのが一般的な評価です。

 スライド17の表をみてもらいますと、サリドマイドを使った群と使わない群で比較してみると、使わない場合には4%しか血栓症が出来ませんでしたが、サリドマイドを使うと28%に出来た、あるいは一番下の場合は使わない場合は3%しか出来ていなかったのが、サリドマイドを使うと37%に血栓症が出来たというデータが出ております。

 その右側を見て頂きますと、一番上の太い線(凝固異常)がどれぐらいになっているかといいますと、60%~70%で出来やすい人に関しては、ほぼ100%に近いほど出来てしまいます。それが35週で1年もかかっていません。余命があと1年もなくて、他の標準的な治療方法をやった最後の手段としてのサリドマイド使用ならばまだしも、この場合は全く他の治療をしていない人にしていますから、こういう状態で血栓症ができたらどうなるのだろうなということです。(スライド16~18)

左:スライド19 右:スライド20

          スライド21

 例えば血栓症が43%に出来たとか、急死したという人もいます。痛みを辛抱するよりも急死する前の状態が良くなればいいんですが、この辺が議論の余地があるかなと思います。致死例は19%であったという報告がありまして、ここではこれ以降止めたのか、その臨床試験は個々で中止したという事になっています(スライド19)。これはさきほど申し上げた、要するにガンの成長に必要な血管の新生を抑制するので、ガンの成長を抑制するというそれが胎芽症の出来る機序と同じです。メカニズムが同じということで血栓症ができるのも必然的だ思います。(スライド20)

 本来再発例とか難治例などの例で、ランダム化比較試験が行われなくてはいけないのに、ほとんどそういう臨床試験は計画もされていない。計画もされていない状況で効くという情報が先行しているというのが、このサリドマイドの場合の特徴です。本当に科学的に効くという証拠は、どうも当分出そうに無い状況です。(スライド21)

花井:
 サリドマイドというと、催奇形性だけが有名ですが、実はそれ自体がとてつもなく危ない薬のように感じられます。

浜:
 そうなんです。サリドマイド事件では妊娠しているお母さんが使って、成長しつつあった胎児に対して障害を与えました。今度のガンの場合は、その副作用を作用として使おうとしているわけです。正常の組織はいつも古い細胞が壊れて新しい細胞に置き換えていっていますから、副作用は別の正常の血管も障害されます。当然置き換わる細胞が再生するのを障害しますから、それによる副作用というのは不可避です。これは、ある時間たてば必ずそういう障害が起こってくるだろうなということを予想させます。ただ、日本人は血栓症を比較的に起こしにくいですから、多少副作用が起こるのは遅いかも知れません。だけど、起こってくるだろうなということは予測されます。アメリカの臨床試験で比較的血栓症が起こりにくい、遺伝的に起こりやすい要素を持っていない人でも長期間使っていると起こっています。日本人のような、比較的普段は血栓症を起こしにくい人でもやはり起こすのではないかなということは予想されます。

花井:
 聞けば聞くほど薬は怖いというか、そういうことになってしまうわけですが、そろそろ時間が来ました。結論は出にくいお話でありましたが、最後に増山さんと浜さんに一言ずつ、今後どうしたものかということについて、感想でもいいですから、増山さんからお願いできますでしょうか。

増山:
 先程、厚生労働省が発表した数字で、平成14年度は薬監証明によって44万錠のサリドマイドが輸入されたという話をしました。それは輸入されたのが44万錠で、そのアンケートに答えてくれたお医者さんの中の80何%がサリドマイドを治療に使ったということで、その44万錠の80%以上が骨髄腫の治療に使われたという事ではないので、誤解がないようにお願いしますね。

 私自身が「サリドマイドが44万錠も輸入されている実態をどう思うか」というと、骨髄腫の患者数はすごく少なくて、多分1万人ぐらいじゃないかとも言われています。けれども、実際その中でもサリドマイドを使う人はすごく限られた状況にある人で、全然それに反応しないという、飲んでもなんの変化もない方や、副作用が強く体調が悪くて飲み続けられないという方もたくさんいらっしゃいます。私自身はその44万錠のほとんどということはないかもしれませんが、もしかして効くかなと思って、アガリスクや鮫の何とかなどというのと同列で、固形ガンの患者さんに使われている可能性がすごくあるのではないかなと思っています。また、44万錠というのを聞いて、本当に放っておけないのではという気持ちになっています。ただ、私も今回サリドマイドの復活問題が起きたことで、自分がいかに医療制度、例えば薬の承認制度について何も知らなかったということがよく理解できました。みなさんも私と同じように知らないことがたくさんあると思うので、今回のサリドマイドがこのような形で輸入されるとか、あるいはイレッサの問題などをきっかけに、日本の医療のあり方というのがどういうものが適切なのかを考えて頂ければと思っています。

左:スライド22 右:スライド23

          スライド24

浜:
 最後に一言ということですが、一番に言いたいのは情報が開示されないといけないということですね。今日本では、特に薬の情報に関しては開示がむしろ後退しています。これは他の部分で情報公開というのが一見進んできている、後退しているものもあるかも知れませんが。意識としては「進めなければいけない」という考え方になってきていますが、少なくとも医療の中の薬に関しては、かえって情報の開示が後退している。例えば、日本では1999年までは臨床試験や動物実験にしろ、すべてとは言いませんが、承認の根拠になった論文、科学的な報告書というものは学術雑誌に公表しないといけないということが規定されていました。ところが、1999年の4月から廃止になりました。その代わりに新薬承認情報誌というのが出るようになりましたが、実はこの中では必ずしも情報が公表されてはいないというのが頻繁に起こっています。その薬剤の承認根拠となった、もう少し詳しい情報を開示してくれといってもなかなか開示がされない状況が進んでいます。

 それともう一つ、旧厚生省内に中央薬事審議会というのがあって、またその下の新薬調査部会というのがあって、そこの情報、議事録なども多少黒塗りがあって虫食い状態ではありましたが、公開されていました。厚生労働省になってから、中央薬事審議会に相当するもので薬事分科会というのがあります。そこでの審議の経過がインターネット上でもまったく公開されなくなったという状況の変化がありまして、情報はむしろ後退しています。それに対して少し意見を言っているのです。なかなか情報開示が進みません。情報を開示させる方向に、公平な情報を審査するということが出来るようにみなさんに働きかけて頂いて、そういう情報が公開されたら、私たちJIPやTIPが必死になってそれを分析して、皆さんに役に立つ情報を提供していきたいと思っています。情報開示に対する動きも応援して頂ければと思っています。皆さん方が必要な情報を、本当に役立つ情報を提供するために我々は日夜やっておりますので、是非とも応援していただいて一緒にやっていきたいと思います。これが一番今大事なことかと思います。一つ一つの情報を皆さん方がいろいろ勉強して、少しでも良い医療を受けることも大事なことですが、情報そのものが開示されないと本当の意味の適切な情報は出てこない。限られた情報の中でも、大いにいろんな分析する内容はありますし、大いに皆さんに提供しているつもりなのですが、それだけではなかなか足りません。是非とも皆さんと一緒に、今後もより確かな情報を得るために活動していきたいと思っております 。(スライド22~24)

花井:
 ありがとうございます。では増山さん、浜さん、大変長時間ありがとうございました。では2部のプログラム、対談をこれで終わりたいと思います。

第2部の様子。左から、花井十伍氏、浜六郎氏、増山ゆかり氏。