特別寄稿 HCV訴訟の現状と今後の課題 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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特別寄稿 HCV訴訟の現状と今後の課題

HCV訴訟の現状と今後の課題


≪筆者≫
 薬害肝炎訴訟大阪弁護団・弁護士  西原 和彦


 甲斐みなみ弁護士(「肝炎シンポジウム第2部報告」参照)と同じく昨年10月に弁護士となった西原和彦です。HCV訴訟の現状と今後の課題につき簡単に整理させていただきます。

 早期解決を目指して

 HCV訴訟が提起されてはや10か月、前出のシンポジウムからもはや半年が経とうとしている現在、全国津々浦々のHCV訴訟弁護団は一致団結して全速力で駆けています。HCV訴訟の最終目標はHIV訴訟と同じく、被害者に対する損害賠償、治療体制の確立、そして薬害の根絶です。しかし最終的にこれらの目標が達成されたとしても、それが遠い将来のことであれば結局被害者の救済という観点からは不十分です。HIV訴訟の時も多くの被害者が訴訟継続中に亡くなりました。そこで、日々HCVに苦しんでいる1人でも多くの被害者を救済するためには、この訴訟を1日でも早く解決させる必要があります。そこで全国五地裁で訴訟を提起している薬害肝炎弁護団は、今年8月に京都の大原で開催された全国薬害肝炎弁護団会議において、「このHCV訴訟を2年で解決する」という新たな目標をうち立てました。

 この目標はHIV訴訟にも関わっていた大阪の山西事務局長をはじめ一部の弁護団員が以前から口にはしていたのですが、あまりに弁護団員に対する負担が過大になることなど、実現可能性に関して疑問も呈されていました。しかし、山西事務局長や福岡の八尋弁護団長がこの訴訟の早期解決に対する熱い思いを訴え、最終的には大阪、東京、福岡、名古屋、仙台の弁護団がそれに応えて、弁護団員全員がそれぞれの力を振り絞るとともに全国の弁護団の力を一つに結集させることで、この訴訟を2年で最終解決させよう、という決定がなされたのです。

 具体的なスケジュールとしては、今年中に主張書面を全て提出し、数ヶ月で争点を整理して来年の春から証人調べに入ります。五地裁でそれぞれ必要な証人を全員調べることは時間的に困難なので、それぞれの地裁で証人調べを分担する事になります。そして来年末にはそれぞれの弁護団が五地裁に全国共通の原告最終準備書面を提出し、再来年(2005年)の春には統一した司法判断を獲得する予定です。HIV訴訟の提起から和解成立までに約7年の月日が必要であったことを考えると、今回の決断がどれほど大変なことであるか分かると思います。しかし1人でも多くの被害者を少しでも早く救済するためにはどうしても必要な決断でした。

 今回のHCV訴訟においては全国の各弁護団が訴訟提起準備段階から非常に緊密にしかも強固に連携して動いています。医学文献等の調査や医師への面談、海外調査等も各弁護団で分担し、その成果もメール等を通じてリアルタイムで全国の弁護団員に知らされます。また、大阪の弁護団会議等にも他の弁護団から弁護士が参加していますし、大阪の弁護団員も各地の弁護団会議に参加して、生の情報や議論の雰囲気等を互いに持ち帰り、弁護団同志の結束を固めています。このような全国の弁護団員の結束があってはじめて2年での訴訟終結が視野に入ってきたのです。

 現在の訴訟の経過

現在の原告の状況

 シンポジウムが開催された時点で提訴されていたのは大阪と東京だけでした。その後福岡、名古屋、仙台でそれぞれ訴訟が提起されています。原告数は現在大阪で12人、東京で19人、福岡で10人、名古屋で4人、仙台で3人の計48人になりました。シンポジウムの時と比べると原告数で3倍となり、しかも大阪、東京のみならず福岡、名古屋、仙台でも次々と訴訟が提起されています。当初は被告三菱ウェルファーマの発表でさえ1万人いるといわれた被害者(我々は数十万人いると思っています)が原告に加わると考えていたのですが、自分の肝炎に未だ気付いていない、気付いていてもカルテが処分されていて証拠が無いなどの理由のため、現時点での原告の数は決して多いとは言えません。

 そこで、現在弁護団では、フィブリノゲン製剤を使用した7004の医療機関を公表して肝炎検査を呼びかけるよう厚生労働省に要求しています。しかし厚生労働省は無用な混乱が発生する等の理由で我々の要求には応じていません。肝炎感染に気付かずにいる人達の健康と医療機関における多少の混乱のどちらが重大かは明らかです。我々は必ず医療機関の公表をさせて被害の実態を被害者に伝え、原告数も増やします。

HCV訴訟の争点

 HCV訴訟の争点は大きく分類すると、

  1. 国、企業が血液製剤によるHCV感染とその重篤性を予測できたか(予見可能性)
  2. そもそもフィブリノゲン製剤に効果があるのか及び承認時に効果があることを検証したか(有効性)
  3. 原告らはフィブリノゲン等によってHCVに感染したのか(因果関係)

の3つに分けることができます。そして予見可能性(過失の有無)については、

  1. フィブリノゲンが承認された1964年時点
  2. FDAにおけるフィブリノゲン承認取り消しがなされ、それを旧ミドリ十字と厚生労働省が認識した1979年時点
  3. 青森での集団感染後に(ウイルス排除に効果のない)加熱製剤承認がされた1987年時点

での過失について、現在検証して主張しています。

 全国各地の弁護団はおおよそ上記の争点に従った班をつくって日本や外国の文献調査等を行い、準備書面の作成をしています。そして日本国内の医師のみならず、アメリカやヨーロッパなど海外の高名な医師等に面談するなかで、a及びb(1、2、3の全ての時点)については原告の主張にかなり有力な証拠、証言を得られています。

 しかしながら、国、製薬会社は原告の主張に対して真っ向から反対の態度をとっており、シンポジウムの時から変化はありません。前回の公判期日においては三菱ウェルファーマの代理人が「C型肝炎は容易に治癒させることが出来るので重い病気だとは言えない」と主張するに至っています。このような被告らの態度は許すことが出来ません。必ず被告らの主張に根拠が無い事を裁判所に理解させます。

カルテの開示問題

 被告らは総論であるa、bの争点で勝ち目が薄いことに気付いたのか、cに関連する原告のカルテ開示(文書送付嘱託)を裁判所に申立て、裁判所はそれを採用する決定をしました。HCV訴訟のような集団訴訟においては、まずは総論(予見可能性、有効性等)について検討をした後で、個々の患者の因果関係につき検討するというのが通常の進行方法であり、総論の主張が終わらない時点でのカルテ開示請求は、因果関係につき探索的な証拠あさりの機会を被告らに与えて、いたずらに訴訟を遅延させる原因となります。そこで、現在弁護団では裁判所の決定に対して、全国統一の意見として訴訟遅延をさせないよう強硬に申し入れを行っています。

 HCV裁判の支援の輪と今後の課題

 このように裁判の進行は驚くほど早く進行しており、2005年春には第1次の裁判所による判断が下される予定です。そのような中、大阪のHCV裁判を支える支援の輪は徐々にではありますが確実に広がっています。先日はMERSをはじめ、薬被連、HIV訴訟原告団、大阪肝臓友の会、日肝協、21世紀の会の各代表者が集まって、大阪のHCV訴訟を支える会が結成の方向で合意が得られました。また、京都の大学生も積極的に支援の輪に参加して、大阪の公判期日にはビラ配りをしたり法廷傍聴をしています。先日の薬害根絶デーには4人の大学1年生が参加してくれています。このように支援の輪は確実に広がっています。

 しかしながら、原告数は徐々に増えているものの、現在数十万人はいるであろう被害者のうちのわずか48名しか今回のHCV訴訟には原告として参加していません。このことからも分かるように、現在HCV訴訟の最大の課題は原告(被害者)の掘り起こしにあります。

 そのためには7004の医療機関の公表や世論の高まりが必要であり、支援の輪が更に活発にしかも巨大になって世論や政治家等を動かしていくことが必要不可欠です。裁判での闘いには弁護士は全力を尽くしています。しかし世論の意識を高め政治家を動かす裁判所外での闘いは弁護士は不得意です。やはり支援の会、特にネットワーク医療と人権のメンバーの方々のより一層の熱い支援に期待するほかありません。

 共に薬害の根絶に向けて闘い、2005年春にはこのHCV訴訟に勝利しましょう。どうぞ宜しくお願いいたします。