寄稿 血液行政の改革にむけて | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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寄稿 血液行政の改革にむけて

血液行政の改革にむけて ~新血液法成立~


≪筆者≫ 大阪HIV薬害訴訟原告団  代表  花井 十伍


 私たち、薬害エイズの被害者は、これまで薬害エイズの徹底した原因究明を求めてきた。これは、同様の悲劇の再発防止の原点として絶対に欠かす事ができないとの認識からであった。1980年代初頭における輸入買血を原料とする血液製剤によるHIV感染は、血液行政の誤りによって、もたらされたものであった。血液行政の改革無くして薬害エイズの教訓を生かしたとは言えない。こうした認識は、同様の被害を出した多くの国々とも共通している。被害の重大さから、各国は血液ないし血液製剤によるHIV感染に関する公的調査を行い、これに基づき血液事業の改革に取り組んできた。これらの公的調査の多くは、議会のイニシアティブによって行われ、その報告書を踏まえ、1990年代半ば以降にかけて各国は血液事業の改革に着手していった。

 一方我が国では、1996年の薬害エイズ民事訴訟和解を契機として、国による厚生省内部調査が行われ、省内の内部文書がある程度公開され、当時の担当者に対するアンケート調査結果も公開された。しかし、厚生省が厚生省を調査するという公正を欠く方法はそれ自体問題であるのに加え、そもそも供血者から患者まで、多くの関係者の関与がある血液製剤供給システム全体のなかで、行政内部の問題はその一部に過ぎない。又、当時の国会において薬害エイズに関する集中審議がもたれ、数人の参考人招致、証人喚問が行われたが、関係者の証言は自己弁護に終始した。

 私たちは、薬害エイズの発生原因を調査し、それに基づいた、一貫した血液製剤の安全監視制度を構築すべきだと主張してきたが、厚生労働省は、前出の内部調査で十分であると主張し、後は刑事裁判に委ねるとの答弁を繰り返すのみであった。もちろん、これらの調査や刑事裁判、株主代表訴訟などによっても多くの事実が明らかになったが、公的調査との決定的違いは、制度改革に生かすべく問題点を洗い出し、再発防止の施策に何が必要かということを行政なり立法府が認識するための材料となっていない点にある。是正すべき点に関しての共通認識の無さが、なおざりの内部規則の手直し程度で由とする行政の対応に対して本質的批判が届かない要因ともなったのである。

 こうした状況の中、政府によって、「薬事法および採血及び供血あっせん業取締法の一部を改正する法律」が提出され、参議院、衆議院における修正を経て全会一致で成立した。この法案は、私たちが主張してきたヘモヴィジランス(血液の安全監視)を正面から目指すものではない。しかしながら、献血による国内自給の推進や遺伝子組み替え製剤の安全性確保、献血者や患者の救済など基本的問題に関しても法整備が出来ていない現状をこのまま放置するよりは、最低限の法的枠組を整備する事が血液製剤を使用する患者の利益になると判断し、関係者とともに積極的に修正を働きかけた。

 本改正法の血液に関する規定は、おおまかに二つの法律にまたがっている。買血の禁止、献血による国内自給、適正使用、需給計画、献血推進、献血による原料血漿の有効利用に関する関係者の責務等に関する規定を置いた、改正採供法「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」と「改正薬事法」である。前者において特筆すべき点として、献血による国内自給の原則を基本理念(第3条)のほか国の責務(新血液法第4条)と国が定める基本方針事項(同第9条)に盛り込まれた事が上げられる。1964年の閣議決定を受け、関係者の努力により、輸血用血液製剤は、1974年に100%の献血による国内自給が達成されたが、同時期から買血血漿または買血由来血漿分画製剤の輸入が急増し、特にアルブミンについては1985年には原料血漿換算で384万リットルを輸入し、96%を買血輸入に依存するという最悪の状況となった。これは世界のアルブミン使用総量の実に3分の1を占める量に相当する。その後、適正使用のガイドラインの策定や見直し、薬価差の縮小などにより、少しずつ減少はしているものの、現在でもアルブミンで73%、免疫グロブリンで34%を買血輸入に依存している。献血による国内自給の必要性は、1975年以来多くの国際機関や国内の審議会などが指摘をしてきたが、今般ようやく法律に明記され、国内自給にむけた施策に国が真剣に取り組む枠組みができた事になる。また医療関係者の責務として、適正使用と安全情報の収集提供が努力規定ながら盛り込まれた(同8条)。

 もうひとつ特筆すべき点は、国が定める基本方針(同9条)およびこれに基づく需給計画(同25条)を定める際に薬事・食品衛生審議会の意見を聞く規定に関してである。この審議会に改正薬事法であらたに盛り込まれた、感染症定期報告(改正薬事法第68条の8)の内容を報告(新血液法29条)することとし、さらに医薬品全般の規定として、厚生労働大臣は、副作用等報告などの状況を薬事・食品衛生審議会に報告し、その意見を聞いて医薬品等の使用による保健衛生上の危害の発生又は防止するために必要な措置を講ずるものとするとし、薬事・食品衛生審議会は同様の目的のための調査・審議を行い、厚生労働大臣に意見を述べる事ができる規定(改正薬事法第77条4の4)を新たに設けた。これは、私たちが、血液製剤の運営・安全監視委員会を厚生労働大臣直轄に設置すべきとした意見に対し、既存の審議会で対応したものである。直轄の委員会に比べると、その規模、機能等限界があるが、法案審議過程の国会答弁で、この委員会は原則公開で患者代表を2名参画させる事を国は確約している。

 今回の改正薬事法は、血液製剤を特定生物由来製品と位置づけることによって、血液製剤の安全性を確保する事としている。生物由来製品として認定する事により、生物由来製品である旨のラベル表示(改正薬事法第68条の3)、感染症定期報告(同68条の8)、記録保管(同68条の9)等が規定され、特定生物由来製品(血液製剤はここに含まれる)に関して、インフォームドコンセントの努力規定(同第68条の7)、血液由来に関して採血国、献血、非献血のラベル表示(施行規則)、原料基準の強化(供血者への遡及等)(改正薬事法第42条関連告示)、医療機関における記録保管(同第68条の9第3項)等の加重規定が設けられた。

 私たちは、献血者と血液製剤を使用した患者の救済に関して、今回の法律に盛り込むよう求めてきたが、残念ながら附則において、「速やかに検討を加えその結果に基づいて法制の整備その他必要な措置を講ずる」と規定するにとどまった。患者の救済に関しては、国会答弁の中で、次期国会に法案を提出することを大臣が確約しているが、献血者の救済については採血事業者が行うべきとの基本姿勢を崩していない。

 血漿分画製剤の製造体制に関しては、いわゆる三者合意によって日本赤十字社が原料血漿を民間メーカーに配分していた現行制度を改め、より透明性を確保した制度とするために、需給計画の中で価格や配分量を定めることとし、同時に新たに検討の場を設けて今後の在り方を議論するとしている。血液製剤の献血による国内自給を考える上で、海外企業との市場原理に基づく競争の要素を完全に排除することは、少なくとも今回の枠組みの範囲内では不可能である。こうした本質的議論はこの検討会に持ち越す形となった。

 これまで、血液行政は常に、新しい技術が状況を変え、制度が追い越され、対応が遅れてきたとも言える。そして、新技術の負の面のリスクは常に患者だけが受忍させられてきた。今回、遺伝子組み換え製剤も含んだ形で制度を整備した訳だが、今まで以上に未知のリスクが生まれる危険性を忘れてはならないだろう。また、GMP基準などが尊守されているかを監視可能な体制整備が伴わなければ、法律が画餅に堕してしまう恐れがある。残念ながら、我国においては人的体制が量的にも質的にもまだまだ十分とは言えないのが現状である。審査、監視体制の拡充と人材育成は急務である。インフォームドコンセント、ラベル表示などは、患者の自己決定にとって極めて重要である。しかし、処方せんを書くのはやはり専門家である医師であり、医療現場において十分患者の納得ゆく説明を行われた上で患者が選択できるよう、医療環境そのものを改善してゆくことも重要である。適正使用や遡及調査など血液制度の最終現場である医療現場の責任は重大である。

 今回の法改正は、現行制度をメインテナンスする構成にとどまってはいるが、基本的枠組に法的根拠を与えた意義は大きいと言える。今後、安全監視体制など施行後3年の見直しまで、各制度の点検を決して怠るべきではない。悲劇を繰り返さないために。