選別される生命(いのち)-基調講演:児玉真美氏 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

Newsletter
ニュースレター

選別される生命(いのち)-基調講演:児玉真美氏

           児玉真美氏

 はじめに

 こんにちは。本日はお招きいただき、ありがとうございます。実は、私は先月末にも大阪に来ていまして、医療事故調査制度のシンポジウムを聞かせてもらいました。すごく勉強になったといいますか、「いろいろな問題は全て繋がっているんだな」と考えながら帰りました。そのシンポジウムの中で、私がいちばん強く感じたことは、シンポジストのどなたもが言われていたのですが、「事故を隠蔽しようとする医療の体質が、患者との信頼関係を損なう」ということです。「私たちは、むしろその信頼関係を構築する方向でものを考えないといけない」ということを、どなたもおっしゃっていました。私自身もブログで、医療と障害の問題を巡る、その周辺での世界の出来事や議論を追いかけてきました。その中で考えてきたことを、今日お話しすることになると思います。

 世界はいつのまにこんなに恐ろしい場所に?

 まず、重い障害のある子どもの親である私が、どうしてこういうことを調べるようになったかといういきさつからお話しようと思います。

                 スライド1

 事の起こりは2006年の夏、今からざっと8~9年前です(スライド1)。当時、私は介護保険関係の雑誌に取材記事を時々書いていました。その編集部から「英語が読めるのだったら、インターネットでブラウズして、介護や医療に関係した海外の面白い話題を拾って、連載を書いてみたらどうか」というお話をいただきました。ただ、毎月英語でネタを探せるのかすごく不安だったので、「まずは試しに少し覗きに行ってみます」と返事をして、すごくお気楽にインターネットを覗きに行きました。ところが、いきなりすごくえげつないスキャンダルと出くわしてしまいました。ニューヨークの葬儀屋が、葬儀場の裏手で、遺体から人体組織を抜きたい放題抜いていたというスキャンダルです。

スライド2

 スライド2の写真は、「USA Today」という新聞の記事にあった写真なのですが、検察が被害者の遺体を墓から掘り起こして撮った、腰の部分のレントゲン写真を公開している様子です。本来なら大腿骨が2本あるべきところに、ストンとパイプが2本写っています。つまり、この葬儀屋は、骨目当てに両足を抜き取った後、バレないようにパイプを取り付けて、その上にパンツを履かせて棺に入れていたのです。この写真の手前の方に写っている白いパイプが、その時に使われたものです。こういうことが何年も行われていました。ただ、闇に流された人体組織は、病気のスクリーニングも何もしていませんから、これが医療製品に加工されて世界中に出回った後、患者さんたちに重篤な感染症が起きました。私がこの記事を読んだ時には、すでにいくつかの国で集団訴訟になっていました。「うわぁ、世界ではこんなことが現実に起こっているんだ」と思って、ものすごい衝撃を受けました。

 その直後には、今度はパキスタンで大きな地震があり、その時に瓦礫の山をうろついていた臓器泥棒が4人逮捕されています。その一味が持っていたクーラーボックスの中には、人間の固形臓器が15個入っていました。私はこの記事を読んだ時にゾッとして考えてしまったのですが、「本当に生き埋めだった人はいなかったのか」ということです。もし生き埋めの人がいたとしたら、そういう人にとっては「やっと誰かが助けに来てくれた」と思って目の前の瓦礫が取り除かれたら、そこにいたのは救援隊ではなく臓器泥棒だったということになるわけですから、恐ろしい話だなと思いました。ただ、恐ろしい話はそこで終わりません。被災地の避難所にも臓器ブローカーが集まって来ていました。なぜかというと、生活に困窮した被災者の人たちが、腎臓や目などを売ろうとしてサインを出すからです。それで、そこにブローカーが集まってくるのです。当時インターネットで調べてみると、臓器の闇売買は世界中で公然の秘密になっていて、パキスタン以外にもいろいろな国の名前が「臓器を買える場所」として挙げられていました。
 ところが、そうした貧困層が食い詰めて臓器を売らなければならなくなっているような国で、一方では、政府が国策として医療ツーリズムを推進しています。その当時の最先端はインドだったのですが、世界中の富裕層がインドに集まって、宮殿のような病院で優雅な療養生活を送っていました。一方で、インドの一般の国民には、ただの下痢で亡くなる人が年間60万人、結核で亡くなる人が年間50万人います。そういう国でこういうことが起こっています。「世界はいつのまにこんなに恐ろしい場所になっていたのだろう」と唖然としました。

 

続きを読む

続きは賛助会員のみ閲覧可能です。

賛助会員の申し込みは こちら