取材報告「第11回 薬害根絶フォーラム」 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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取材報告「第11回 薬害根絶フォーラム」

(文責:特定非営利活動法人ネットワーク医療と人権 事務局 清瀬 孝介)

第11回 薬害根絶フォーラム
<開催概要>
日時:2009年10月25日 13:30~17:30
場所:キャンパスプラザ京都(京都府下京区)
主催:全国薬害被害者団体連絡協議会
協賛:
 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)、社団法人日本薬剤師会、社団法人京都府薬剤師会、
 社団法人大阪府薬剤師会、薬害オンブズパースン会議、国民医療研究所
本フォーラムのチラシは こちら

イントロダクション

 今年も全国薬害被害者団体連絡協議会(以下、薬被連)主催の「薬害根絶フォーラム」が開催されました。薬害根絶フォーラムは、1999年8月24日、当時の厚生省敷地内に薬害根絶の「誓いの碑」が建立されたのを契機に結成された薬被連が毎年行っており、医療関係者はもとより、広く学生や一般市民まで多くの人に薬害に関して考えてもらうためのフォーラムです。今年はスモン訴訟和解からちょうど30年ということで原点に立ち返り、第1回薬害根絶フォーラムが行われた京都の地で、200人を超える参加者とともに盛大に行われました。

 第1部「薬害被害の実態報告」

報告者:
 古岡洋子氏(財団法人いしずえ)、駒井雄次氏(薬害筋短縮症の会、当日欠席、代理者が発表)、
 出元明美氏(陣痛促進剤による被害を考える会)、大井陽一氏(大阪HIV薬害訴訟原告団)、
 木下佳代子氏(MMR訴訟原告)、中野裕子氏(薬害ヤコブ病訴訟東京原告)、
 出田妙子氏(薬害肝炎九州原告団代表)、S氏(薬害イレッサ西日本訴訟原告)

 第1部では例年通り、薬被連を構成する各薬害被害者団体より被害実態の報告が行われました。毎年思うことではありますが、薬害の恐ろしさを実際に自ら被害者として、あるいはその家族として体験された報告者の方々から発せられる言葉には重みがあり、人の心を動かすものがあると思います。たとえ裁判で国や企業からの謝罪や賠償を勝ち取ったとしても、薬害によって受けた身体的な障害や心の傷は決して癒えることなく、終生被害者の方々を苦しませ続けていくということを改めて痛感しました。潜伏期間が長いために、また新たな被害者の発生が予想される薬害ヤコブ病や、HIVに加え重複感染したC型肝炎ウィルスによる肝臓障害によって亡くなる方が多い薬害エイズなど、最近の問題を考える時、過去に起こった薬害は決して「終わった」ものではなく、今日においてもまだまだ多くの課題を我々に突き付けていると感じました。さらに、現在進行形で今なお多くの被害者を出し続けている陣痛促進剤被害や、国が責任を認めず、何の保証も救済も受けられないまま放置され続けている薬害筋短縮症被害者の方々の存在などは、今を、そして未来を生きる我々にとって何を意味しているのでしょうか。今回の被害実態報告は、それを考えずにはいられないものでした。

 しかしながら、今回いちばん印象に残ったことは、甚大な被害を受けながらも、耐えがたいほどの悲しみに見舞われながらも、それを乗り越え今日まで生き抜き、口々に薬害根絶に向けての力強いメッセージを発する報告者の方々の姿そのものでした。保育士でもあるサリドマイド被害者・古岡氏は「子どもたちにはよく手の障害のことを聞かれるが、子どもたちが薬害を理解できるようになるのはもっと先のこと。しかし私は保育士として、子どもたちにも分かるような言葉で伝えていきたい」、またMMR被害者・木下氏は「予防接種行政が本当に子どもや市民の側を向いたものになって、同じような被害が繰り返されないことを願う」と、「子どもたちを薬害の被害者にも加害者にもさせない」という強い思いが語られました。薬害というものは、いわば人間の弱さや愚かさによって生み出されるものかもしれません。しかし、今回これらの発言を聞き、やはり人間は強いんだという思いを新たにしました。

 今後の課題としては、今話題の新型インフルエンザワクチンについて、その効果、安全性はきちんと確認されているのか、非常に心配しているとの指摘がありました。また、薬害エイズ被害者・大井氏からは「効果と比較して副作用がどれくらいなのか、ということをよく考えて製薬会社は医薬品を製造すべきであり、我々もその点に注意して医薬品は使用しなければならない」との意見も出されました。やはり薬害の根絶には国や製薬会社だけではなく、我々一般市民もしっかりとした知識を持ち、医薬品に向き合っていく姿勢が大事だと感じました。

 第2部 記録映画「人間の権利 スモンの場合」

 第2部では、今年和解から30年を迎えたスモンが特集され、薬事二法の成立とスモン訴訟の全面解決を目指した被害者たちの闘いを収めた記録映画が上映されました。時間の都合上、本来2時間の映画を約1時間に短縮編集した映像でしたが、非常に興味深く、心を打つ作品でした。

 スモンは亜急性・脊髄・視神経・抹消神経障害の略称です。整腸剤「キノホルム」を服用したことによる副作用です。激しい腹痛に伴う下痢に続いて、足裏から次第に全身へと麻痺等が広がる症状が起こります。1960年代に大量に発生し、被害者たちはその身体症状だけでなく、ウィルス説まで発表されたために厳しい差別にも苦しめられ、自殺者も相次ぎました。1975年9月、被害者たちは長く厳しい裁判闘争の末、改正薬事法と医薬品副作用被害救済法、いわゆる「薬事二法」の成立と、スモン訴訟の全面解決を勝ち取りました。

 映像は、被害発生から全面解決までのいきさつをドキュメンタリータッチで追うものでしたが、病をおして全国から集結し懸命に闘う被害者たちの姿には胸が熱くなりました。特に、当時の厚生大臣や厚生省薬務局長に対して涙ながらに被害を訴え、控訴取り消しを迫る被害者代表のその鬼気迫る表情や発する言葉には、映像を見ている私まで胸が張り裂けそうな思いがし、涙を禁じ得ませんでした。

 本フォーラムの開会のあいさつでは、薬被連代表世話人・花井十伍氏が、「薬害エイズの裁判闘争の折に、集会にスモン被害者の方が来てくださった。その時にそのスモン被害者の方が『私たちで薬害を根絶することができず申し訳ない』と謝られた」というエピソードを話しました。確かにスモンの後も薬害は次々と繰り返されています。この映像に映し出されたスモン被害者の方々の命をかけた闘いを無駄にしないために、私たちの社会は何をすればいいのか、非常に考えさせられました。

 第3部 徹底討論「薬事行政のゆくえ」

司会:
 花井十伍氏(薬被連 代表世話人)
パネラー:
 矢倉七美子氏(京都スモンの会 理事長)、高橋豊栄氏(スモンの会全国連絡協議会 議長)、
 村田忠彦氏(スモンの会全国連絡協議会 副議長)、吉田日朗美氏(薬害筋短縮症の会)、
 小林邦丘氏(薬害肝炎九州原告団)、増山ゆかり氏(財団法人いしずえ)

 スモンの闘いで勝ち取った薬事二法。この法律の制定で、スモン被害者たちは「これで薬害は二度と起こらないだろう」と確信しました。しかし、その後今日に至るまで様々な薬害が発生し、そのつど各薬害被害者団体は薬事行政の抜本的改革を提唱してきました。第3部では、こうした抜本改革を求める被害者の運動の成果と、薬害肝炎に基づく抜本改革の議論を踏まえて、今、真の薬事行政の抜本改革を行うための道筋と可能性について討論が行われました。

 まずは司会の花井氏より、「薬事二法から30年、当時と比べて一体何が変わったのか。あるいは変わっていないのか」という問題提起がありました。それを受けて、高橋氏は「この30年の間に様々な薬害が起き、そのつど和解してきているが、私が『いつの時代も変わらないな』と感じているのは『約束は守られない』ということ。原因は官僚の天下り、政治腐敗、製薬会社の過剰な営利主義にある。ここを断ち切らない限り薬害はなくならない。そのためには医薬品の監視・審査は行政から完全に独立した機関が行わなければならない」と述べました。続いて「薬事二法は何を目指して制定されたのか」との問いかけに対して、矢倉氏は「薬事二法は、不良な医薬品の販売停止・回収を徹底し、医薬品の副作用を明確にし、その被害者を救済することを目指して制定された。これで薬害はなくなると思ったが非常に残念だ。さらに現在は様々な規制緩和が進み、医薬品の販売方法についてまで薬事法の改正をしなければならないような状況だ」と述べ、村田氏も重ねて「私も薬事二法の制定で、『これで薬害がなくなる。万が一今後薬害が起こったとしてもこの法律によって救済されるはずだ』と思っただけに、今のこの現状は非常に残念だ」と述べました。

 薬事二法の制定により、制度的には「薬害の責任は国にある」ということが明確になりました。しかし、薬害筋短縮症では国の責任が認められていないことについて、吉田氏は「薬害筋短縮症の裁判の提訴は1978年。薬事二法制定の前なので国の責任は認められず、救済法からも外された。被害者たちは現在、身体障害者認定も受けられず、何の保証も受けられないまま、加齢と共に進行していく身体症状の中で非常に厳しい日々を送っている」と、被害者たちの厳しい窮状を述べました。

 続いて、「薬害が繰り返されるたびに薬事法は改正されてきた。行政側は『もうだいぶ良くなってきた』というが、その点はどうか」という問いかけに対して、増山氏は「『きちんとリスクをマネージメントする制度を作ろう』ということでここまできたが、私がこのプロセスの中で感じてきたことは、『なぜ被害者がここまでやらなければいけないのか』という後味の悪さ。良くなったとはいっても、リスクの高い医薬品を十分にマネージメントできる余力は、まだ今の薬事法にはない」と指摘しました。また救済制度について、薬害肝炎を闘った小林氏からは、「制度とは、いちばん困っている人を助けるためにあるべき。行政側とは一緒に協力してやっていきたいとは思っているが、約束を反故にされることも少なくない。地方の行政はよくやってくれているところが多いが、『中央から指示がないから動けない』という声がよく聞かれる」との指摘もありました。さらに、行政の姿勢について矢倉氏は、薬害イレッサやサリドマイド再承認の問題を例に挙げ、「情報公開が著しく遅れている。医薬品の承認に関するデータの多くが非公開である。このような現状で医薬品の承認を行っていくのは非常に不安である」と批判しました。

 また最近の医療現場の実情として、村田氏は「近年はスモンを知らないといったような不勉強な医療従事者が増えている。それによって高齢化が進むスモン被害者は苦しめられている。国がいくら救済制度を作ろうが、やはり医療従事者の理解がないとその救済制度は意味をなさない」と指摘しました。そして、最後に高橋氏は「薬害の根絶にはやはり情報公開と国の規制が必要不可欠である」と語り討論は締められました。