特集 薬害の根絶に向けて | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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特集 薬害の根絶に向けて

「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(第一次提言)」
の要点について

(文責:特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 事務局 酒伊 まり)

イントロダクション

 「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」は薬害肝炎事件の発生及び被害拡大の経過及び原因等の実態について、多方面からの検証を行い、再発防止のための医薬品行政の見直し等について提言することを目的として設置された。2008年度以降12回の委員会を開催し、2009年4月30日に第一次提言がまとめられた。
 委員会は、本提言を踏まえた具体的改革とその速やかな実施を国に対して求めている。
 これまでに行われた薬事制度改正(承認審査、市販後安全対策等)から、対応できている部分と残された課題を検討し、提言がまとめられた。
 第一次提言からは、薬害再発防止のために医薬品行政が変わる必要のある部分、補う必要のある部分などが具体的にわかる。今後も委員会の動きと医薬品行政の取組等を注視していくためにも、第一次提言の内容を理解しておきたい。ここでは、提言内容のうち、「再発防止のための医薬品行政のあり方」について要点をまとめた。
 第一次提言は、厚生労働省ホームページからダウンロードできるので参照されたい。

 薬害再発防止のための医薬品行政等についての提言内容

(*従来の医薬品行政に対して特に新しい取り組みである部分を太字で記載)

基本的考え方

1)基本精神
 医薬品行政に携わる者は、高い倫理観と予防原則に立脚した迅速な対応(健康上に著しい不利益を被る危険性を予見した場合にはリスク発現に関する化学的仮説の検証を待つことなく安全対策に努めること等)を取り、医療関係者や研究者との密接な連携のもと、職務を遂行すべきである。

2)法の見直し
 医薬品行政に携わる国、総合機構、地方自治体及び医薬関係者の責務の明確化とその明記を行うなど、薬事法を見直すとともに、「薬害」の定義を明記すべきである。

3)行政機関の体制と人材育成
 薬害の問題においては、将来的にも未知の問題が発生する可能性を否定できない。この可能性を十分に認識し、予防原則に立脚した組織体制の形成に努めることを求める。また、安全性に関する情報分析・評価に携わる職員の増員、かつ、医薬品に携わる職員の倫理観の形成・労働環境の整備を行うべきである。
 特に、人材育成において、安全対策に携わる職員は「現場感覚」を持って従事することが重要であり、人材の育成・研修等の整備、大学での講座の増設が必要である。なお、製薬企業出身者の活用や製薬企業との人材交流という点においては引き続き検討する。

4)薬害教育・医薬品評価教育
 医療に従事する者たちに対しては医薬品に対する認識を高める教育が必要であり、消費者に対しては医薬品への関わり方について生涯教育の検討をするべきである。また、製薬企業に対しては教育訓練での薬害教育を必須項目とするべきである。

臨床試験・治験

 GCP調査1)の更なる厳格化と治験被験者保護のための医療現場における現状の検証と被験者の権利を明記するべきである。また、倫理面に十分配慮されたエビデンス収集のために、制度整備、臨床研究に対する財政支援を増大させるとともに、研究者の権利保護に関する方策についても検討すべきである。

承認審査

 承認審査に関しては、①安全性・有効性の評価、②審査手続、審議の中立性・透明性等、③添付文書、④再評価について検討が行われた。

①安全性・有効性の評価・審査
 資質の向上のためにも審査員の増員と研修等の充実を一層努めるべきである。承認条件を付す場合においては内容・期間等を明確にし、速やかな調査・試験の実施、結果報告が行われるべきである。

②審査手続、審議の中立性・透明性
 特に慎重な対応が求められる医薬品については、承認後の審査報告書や審議会議議事録などの公開だけではなく積極的に審査段階での公開を行えるような仕組みを取り入れるべきである。
 その他に、いわゆる2010年問題(主要製品に関わる物質特許が切れる)では新薬申請の増加やドラッグラグ2)が予想される。承認審査のスピードアップとともに薬害再発を招くことがないように治験・審査を慎重に実施するべきである。

③医薬品の添付文書
 公的な文書として行政の責任を明確にするとともに製薬企業に対する指導のあり方を検討するべきであり、また、医療現場に対する注意喚起機能を十分に果たしていないとの指摘から、添付文書の記載要領を含め、安全性情報の提供全般についての見直しを行うべきである。そして、添付文書における効能効果を科学的かつ明確に記載し、医薬品の適応外使用範囲の限定化を行うべきである。

④再評価
 特にフィブリノゲン製剤の再評価に関して厚生労働省に対し、指示した試験が終了しなければ結果を出さないという現行の運用を改めるべきである。また、厚生労働省は、効能効果の承認内容の変更や必要な試験の実施を製薬企業に指示する手続等を明確化するべきである。

市販後安全対策等

 医療現場における安全対策を製薬企業に任せるだけではなく、行政が必要に応じて緊急時に適切な対応を行うことができるようにし、①情報収集の強化、②得られた情報の評価、③情報の積極的かつ円滑な提供、④副作用情報の本人への伝達や情報公開の在り方、⑤必要な情報提供と適正広告による医薬品の適正使用、⑥GMP調査3)、⑦GVP、GQP調査4)、⑧個人輸入に関する対応の検討をするべきである。

①情報収集体制の強化
 医療機関からの副作用報告の活性化だけではなく、患者からの副作用に関する情報を活かす仕組みの創設、国際的副作用情報の収集とその有効活用の推進、その他医療従事者へ重篤な副作用報告に関する照会等ができる体制づくりなどを行うべきである。

②得られた情報の評価
 評価手法の見直しと体制の強化、予防原則に基づくリスク管理体制の構築、より一層効果的かつ迅速に安全対策を講ずる体制の確保、電子レセプト等のデータベースの活用などを行うべきである。

③情報の積極的かつ円滑な提供
 行政は、現在の「緊急安全性情報」「医薬品・医療機器等安全性情報」の全面的見直し、副作用情報の早期伝達、利用者が副作用情報や使用成績調査等のデータの閲覧・分析を行えるシステムの構築と患者への説明・同意の徹底、病院内安全対策措置システムに対する指導を行うべきである。

④副作用情報の本人への伝達や情報公開の在り方
 副作用等報告制度の機能を損なうことなく、製造販売した企業の積極的な協力の下、個々の患者が当該医薬品に関する副作用等の発現について知る方法を検討するべきである。なお、通達の上では個人情報の保護や医師と患者関係にも十分な配慮を行うことを基本としている。

⑤必要な情報提供と適正広告による医薬品適正使用
 行政は製薬企業における効能効果に関する不適切な情報提供や広告を指導監督し、質の高いMRを育成するべきである。

⑥GMP調査
 さらなる人材確保が必要である。

⑦GVP・GQP調査
 調査資質の向上と薬事監視員の人数確保を行うべきである。

⑧個人輸入
 未承認医薬品については、薬監証明5)等によって使用実態の把握とデータの公表、その副作用情報の注意喚起、積極的な国民への啓発を行うべきである。また、患者数が極めて少ないために製薬企業による承認申請等が進まない国内未承認薬に関しては適正な管理、安全性情報等の収集・提供、適正な使用が行われるような制度設計などについて検討を行うべきである。

健康被害救済制度

 医薬品の副作用及び生物由来製品を介した感染等に対する救済制度の更なる周知徹底と、がんなどの特殊疾病に使用される医薬品の取り扱い、胎児の健康被害の取り扱いなど、救済のあり方について検討するべきである。

医療機関における安全対策

 医療機関は、医薬品使用記録の保管、薬剤師の人材確保と育成等、健康被害の発生や薬害防止において一定の役割を担うよう努めるべきである。また医療機関の安全管理責任者(医薬品安全管理責任者・医療機器安全管理責任者)においてはプッシュメール6)への登録を行うなど、一層の安全対策に向けて検討すべきである。
 また、薬剤師等の医薬品情報を取り扱う部門が添付文書情報等の医療安全確保に関する情報を収集・評価し、その結果を臨床現場に伝達するシステムの構築を行い、薬剤師が必ず関与するようにするべきである。適用外使用の場合には、原則として医療機関の倫理審査委員会等への報告及び定期的なチェックを受けることとし、後日、安全性及び有効性の検証を行えるシステムの構築が必要である。その他に、安全性情報管理をチーム医療に組み込むなど情報共有についても徹底する必要がある。

医薬品行政を担う組織の今後の在り方

 「中間取りまとめ」(平成20年7月31日提出、早期に実施する必要のある安全対策を中心に議論したもの)までには「最終的には大臣が全責任を負う」ことを前提として、薬害再発防止のための行政組織のあり方について議論された。そして、さらに検討すべき事項を挙げ、議論が継続された。「中間取りまとめ」以降、医薬品行政組織としてあるべき組織形態、使用可能な権限の範囲、運営財源の在り方、職員の専門性の確保、行政改革推進の中で課されている制約との関係なども含めて議論が行われた。
 「中間とりまとめ」を受けて、厚生労働省は、平成21年度から総合機構(独立行政法人医薬品医療機器総合機構、PMDA)の安全対策要員を100人増員することとなった。総合機構は専門的な人材の確保・養成、効率的・効果的な組織体制、総合機構と厚生労働省との緊密な連携による一体的な業務運営を行い、市販後安全対策が実現されるようにすべきである。
 また、医薬品行政に対する評価という点については第三者機関による監視・評価を行う必要があり、評価対象においては個別の安全対策を含めること、提言・勧告権限や調査権限を有すること、国民の声を反映させる仕組を備えるべきである。さらに、医薬品行政を担う組織に苦情解決機能を設置することも要検討課題として挙げている。

委員会の今後について

 平成21年度も本委員会を継続し、「厚生労働行政の在り方に関する懇談会」の最終報告も踏まえて医薬品行政を担う組織及び医薬品行政の監視・評価機関等の在り方について更なる検討を行い、最終提言を予定している。


1)・・・Good Clinical Practice:医薬品の臨床試験の実施の基準。被験者の人権と安全性の確保、臨床データの信頼性の確保をはかり、治験(臨床試験)が倫理的な配慮のもとに科学的で適正に実施されるための基準が示されている。2003年6月、薬事法改正において、これまでの企業が行う治験に加えて、医療機関・医師が主体となって治験を行う、いわゆる医師主導の治験の制度化がなされ、新GCPの改正が行われて、医師も企業の場合と同等の責務を負うことになった。(参考:公益社団法人日本薬学会 薬学用語解説

2)・・・海外で標準的に使用されている医薬品が国内では使用できない(未承認の)状態。(引用:公益社団法人日本薬学会 薬学用語解説)この状態によって、治療が遅れたり、手遅れの状態になったり、治療に間に合わずに亡くなるケースも起こりうると予想される。また、委員会の主張では、企業利益優先のために「欧米との時間差を埋める」というものではなく、あくまでも患者が不利益にならないために「欧米との時間差を埋める」ための策を講ずるべきであるとしている。

3)・・・Good Manufacturing Practice:医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準。医薬品、医薬部外品又は医療機器を製造している製造所が適正な管理の下にこれら医薬品等を製造しているかどうかを調査する。(参考:独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページ

4)・・・製薬企業等へGVP、GQP実施状況確認のための立ち入り調査。GVP(Good Vigilance Practice)は、「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品質管理基準」であり、①市場への出荷管理、②製造業者等に関する管理・監督、③品質等に関する情報及び品質不良等の処理、回収処理、④その他製品の管理に必要な業務における「品質管理業務」を適切に行うための「基準」。GQP(Good Quality Practice)は、「医薬品、医療機器などの製造販売後の安全管理基準」であり、①安全管理情報の収集、②安全管理情報の検討及びその結果に基づく安全確保措置の立案、③安全確保措置の実施及び記録、④その他製品の安全の管理に必要な業務における「安全確保業務」を適切に行うための「基準」。(参考:大阪医療機器協会製造販売部会『GVP・GQPについて』平成18年10月、p.9)

5)・・・薬監証明とは、「厚生労働省確認済」の押印がなされた輸入報告書のことで、承認を取得していない医薬品等について、通関前の輸入者からの輸入報告に基づき、地方厚生局の薬事監視専門官が総合的に判断をし、押印し輸入者に交付したもの。なお、この書類は、通関手続きの際に必要となる。(参考:行政書士ひろはし法務事務所ホームページ

6)・・・(独)医薬品医療機器総合機構より電子メールによって情報提供されている「医薬品医療機器情報配信サービス」。緊急安全性情報、使用上の注意の改定指示等、医薬品や医療機器の安全性に関する特に重要な情報が発出された際に提供されており、無料で登録できる(参考:独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページ)。

 終わりに

 文中記載の太字部分は、従来の医薬品行政からは特に新しい取り組みであるといえる。これらの取り組みが速やかに実施され、本提言が決して形骸化することなく、薬害再発防止のために機能していくことをMERSとして期待している。