「輸入血液製剤によるHIV感染問題研究 最終報告書」発行のお知らせ | ネットワーク医療と人権 (MERS)

Newsletter
ニュースレター

「輸入血液製剤によるHIV感染問題研究 最終報告書」発行のお知らせ

(文責:特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 理事長 若生 治友)

 はじめに

 私たちMERSの事業の大きな柱である「調査研究事業」の一環として、2001年から「輸入血液製剤によるHIV感染問題調査研究」を実施してきました。この度、約7年に及ぶ調査研究の集大成として報告書を作成し、これまでの聞き取り調査から得られた数多くの語りを印刷物として公開することになりました。

 調査研究事業の大きな目的は、「良い医療とは何か」、「薬害の再発防止に必要なものは何か」を考えることです。1980年代に「血液製剤によるHIV感染」に直面した医師や患者らの経験・教訓を社会と共有し、今後の医療へ役立つ財産(調査結果や資料)を後世に残すことで、ひいては「薬害の再発防止」につながると私たちは考えました。

 まずはHIV訴訟では明らかにならなかった血友病医たちの思い・経験・現実を丁寧に聞き取っていくことになりました。さらに血友病医の語りに広がりを持たせること、また別な視点からの語りを得ることを目的にして、彼らの診療を受けた患者・家族らの経験をも聞き取っていくことにしたのです。

 報告書の構成

 本報告書は3分冊構成となっています。第1分冊には調査研究に関わった社会学研究者らの論考のほか、調査委員会の養老孟司委員長と村上陽一郎副委員長の対談を掲載しています。第2分冊、および第3分冊では、聞き取り調査に応じていただき、語っていただいた内容の逐語録(トランスクリプト、以下TS)のうち、全面的な出版公開を快諾していただいた方々のTSを掲載しています。1980年代にHIV感染問題に直面した血友病医、1990年代以降に血友病・HIV感染症治療に関わった医師、HIV感染した血友病患者本人・家族らのTSを掲載することができました。地域的にも日本全国各地の方々の語りを集めました。

 第2分冊では、医師は医師なりの振りかえりを行い、当時の自分の振る舞いについて語っています。第3分冊では、HIVに感染した患者や家族・遺族らの語りの他にも、HIV感染は免れたが患者会活動などを精力的に行い、この「HIV感染問題」に精通した方々の語りも掲載しています。患者・家族は1980年代前半のHIV感染リスクや感染した事実よりも、1980年代後半以降の「医療のあり方」に疑問を呈し、その上で自分なりの生き方・考え方を力強く語っていることが分かります。さらに何人かの方々は、社会に対する疑問を語り、どうやったらもっと生きやすい社会になるかといった提案を行っています。

 これらの語りは血液製剤によるHIV感染問題に関わった方々、全てを網羅している訳ではありません。掲載した語りはごく一部といえますが、それでも彼らの経験に基づく語りや、新たに判明してきた事実から見えてきたものは非常に多様でした。中には語ることによって、救われる思いに至った方や、「自分の弱み」まで語った方もいました。まさに彼らが経験してきたリアリティそのもので、「血液製剤によるHIV感染に直面した人々」の多様な現実を、多少なりとも浮かび上がらせることができました。

 まずは先入観なしに第2分冊、第3分冊のそれぞれの語りを読んでいただければと思います。

 最終報告書の目指すもの

 これらの語りを「貴重な歴史的証言」として公開することは、「HIV感染問題」に関心のある人々にとって研究資料的価値が非常に高いと考えています。加えて医療現場での治療やケアにおいて、不測の・予測不能な、あるいは不確実な事態に陥った時、医療を提供する側・受ける側が、どう考え・どのように対処(治療選択など)したらよいか、本報告書が各自の判断・決断・行動に関しての何らかの役割を果たせると考えています。

 何人かの方々は聞き取り調査には応じてもらえたものの、TS出版化の許可までは得られませんでした。結果的にTSが印刷物としては表に出なかったとしても、第1分冊の各論考のバックグラウンドには、そういった方々の語りや思いが含まれていることはいうまでもありません。そしてまた本報告書の出版を待たずして他界された方もいることを忘れてはいけないでしょう。調査対象者のご理解・ご協力が得られたことや、調査実行メンバーの努力はいうまでもありませんが、これほどまで大勢の医師・患者・家族らの、長時間にわたった膨大な「声なき声」を集め出版されたことはなかったと自負しています。

 全ての医療に当てはまることではないこと、本報告書を読む立場の違いによって所感が異なるのは当然ですが、日々奮闘されている医療者の方々や、「病い」とともに生きている人たちにとって、何らかの道しるべ、あるいは羅針盤となり、医療によって傷つく人が少なくなることを期待したいと思います。

 関心を持たれた方は、是非とも第2、第3分冊の語りから、HIV感染に直面した医師・患者・家族のありように触れていただき、それぞれの思いを汲み取っていただければ幸いです。