寄稿 世界血友病連盟(WFH) | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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寄稿 世界血友病連盟(WFH)


※2001年7月の記事です。

 世界血友病連盟会議参加の意義と「薬害エイズ」

≪筆者≫ 大阪HIV薬害訴訟原告団 代表  花井 十伍


 世界血友病連盟(WFH)は、1963年の設立でカナダのモントリオールに本部を持ち、世界中の血友病患者の治療環境の改善、医療の質的向上、血液製剤、治療薬の質的向上、各国血友病団体の強化を目的とする非営利組織である。WFHには、医者、学者、医療従事者、諸国の血友病協会だけでなく、個人や治療機関、血液センター、企業も参加しており、血友病関連団体の連合体と言える。事務局は10人の専従職員と2名のパートタイム職員で構成されており、その他の参加者は全てボランティアである。正式加盟の各国患者会は62カ国で、その他の国々からも非公式参加や個人参加がある。

 血液製剤へのHIV混入リスクが懸念されていた1983年のWFH総会における非加熱血液製剤の継続使用の容認は、WFHが血友病患者のHIV感染拡大を防ぐことができなかったと言うよりもむしろ、感染拡大に加担したという評価につながり、我国のWFHに対するHIV感染被害者を中心とした患者の評価は芳しくない。

 周知のとおり、血液製剤によるHIV感染は、濃縮血液製剤を使用していた全ての国において生じた悲劇である。これら「薬害エイズ」以前、各国の血友病協会は必ずしも、患者主導の運営がなされてはいなかった。例えば、患者、家族以外の専門家や製薬企業の人間が血友病協会の代表になっている血友病協会も存在した。

 事実我国においても、曖昧な手続きにより、安部英氏が、日本の血友病協会の代表としてWFHに正式加盟登録していた事実がある。こうした、血友病協会が患者主導で運営されないことの弊害を、HIV渦によって身にしみたのは、欧米においても同様であった。欧州各国の患者会は、1990年代初頭から、患者主導の血友病協会の改革に着手していった。WFHもこうした動きを反映して、患者主導の運営体制を構築しつつあると言える。しかし、世界会議を1回開催するにも150万ドル以上もの費用がかかる世界組織の運営は、大きく製薬企業に依存していることもまた事実である。世界において、濃縮製剤を利用できる血友病患者は25%に過ぎず、企業から見れば、75%は潜在的市場である。

 私は、今回、WFH国際会議に日程の都合により、参加することはかなわなかったが、それに先立ってセント・アデレで開催されたNational Membership Organization(NMO)Workshopへの参加の機会を得た。

 このモントリオール郊外のリゾート地で開催されたNMOワークショップは、各国のNMO代表1名が参加する、いわば「企業のいないところで行われる、患者リーダーの強化研修」である。WFHに正式参加していない日本人の私が参加することになったのは、本年春に開催されたグローバルフォーラムに招かれたのがきっかけである。

 このグローバルフォーラムでは、主に、血液製剤の安全と供給に関して、世界の患者、医師、企業、行政等がそれぞれ報告とディスカッションするというものであった。ここでは、アメリカ、欧州、日本など、血液製剤によってHIV感染が引き起こされた国々の患者の「安全に関して妥協を許さない。」という立場に対して、満足に血液製剤を使用できないパキスタン、インド、タイなどの患者の「安全性よりも安い値段で。」という立場が一見対立して存在し、これに対し、「ミニマムスダンダードとオーヴァースペックと複数の選択肢があれば良い」という提案があり、「複数の基準は困る」という企業側の反論がなされる、といった議論が白熱してもたれた。また、EC委員会、CEからの血液の収集、使用に関する調査を行った、オランダのファン・アーケン博士も献血による国内自給という観点から報告し、献血による国内自給の問題が市場原理に相対する側面を強調していた。その他、FDAからも規制の現状に関する発言があった。

 このフォーラムは非常に有意義なものだと感じたが、反面、企業側の市場主義ドグマの押し付けに対して、患者側が十分反論しきれなかった部分に懸念を抱いた。(もちろん欧州、米国の患者は猛反発していたが)フォーラム後、オマホーニー会長に「患者だけで話し合う場がもっとないと、企業側の論理を患者に教育する場になってしまうのではないか。」と正直に疑問をぶつけたところ、「そういった事も考えているので、参加して欲しい。」との返事だった。NMOワークショップはまさにそうした場である。

 まず、ワークショップの内容は、血友病の基本的知識から最新治療、WFHの運営、血漿分画製剤の安全性などや行政交渉のロールプレイなど、まさに各国に強い患者会を創ろうとする、オマホーニー会長の執念を感じさせるものであった。総会にくらべると割と少人数(それでも100人以上だが)が同じところに宿泊し、いわば合宿のような形(田舎のリゾートなのでまわりは山、カンズメ状態である。)で3日間過ごすとみんな顔見知りになり、各国の代表の話が個別に聞くことができ、そうした面でも有意義であった。

 我が国にとって、薬害被害者を含めた血友病患者が、世界企業の製品を使用せざるを得ない現実や安全基準のグローバル化の流れの中で、国際的患者の連携は必須である。この意味においても、世界組織は絶対に必要なものである。これらを踏まえながら、「薬害エイズ」の教訓の一つである、医療における患者主権と患者会のあり方について議論を深めるとともに、患者の為の世界組織として、WFHを評価し、我国の血友病患者がどういう立場をとるのかを議論すべき時期にきている。今回の、大阪、東京原告団、弁護団、はばたき福祉事業団、ネットワーク医療と人権合同のWFHモントリオール会議参加は、その絶好の機会となった。

 世界血友病連盟国際会議

≪筆者≫ マサミ・コバヤシ・ウィーズナー


Assistant Directore/Coordinator
International Medical Program for AIDS Clinical Training (1996-2001)
Center for AIDS Prevention Studies
University of Califonia, San Francisco


 7月の17日から21日まで一週間をかけて、世界血友病連盟が2年ごとに総会を兼ねて行う国際会議がモントリオールで開かれた。世界中の97ヵ国から患者代表や血友病治療医師などが参加し、その総数はおよそ3500人であった。

 日本からの参加は44人。そのうち約半分が患者達と患者をサポートするボランティア及び血友病の治療に当たる医師や整形外科医である。残りは外国企業の日本支社社員や血液事業、血友病の治療に使われる血液製剤などの日本企業関係者である。

 カナダのモントリオールに本部を置くこの世界血友病連盟は、血友病患者で消費者権利を擁したフランク・シュナベル氏の先見の明により31年前、世界中の血友病治療が総合的かつ継続的に改善されていくことを目標に創設された。現会長はアイルランド血友病協会の会長兼任で血友病当事者でもあるブライアン・オマホーニー氏。

 血友病は、体内を流れる血液が内出血や怪我をした際に凝固する仕組みを司る遺伝子のうちどれかが突然変異を起こし、凝固しにくくなる病気である。脳内出血などは致死的で、製剤が発明されるまでは平均寿命も短命だった。DNAが血液中に十数種類あり、因子と呼ばれる種々の蛋白質を作り出すもとになるが、その構成が代わり、体内でどれかが少ないか作られないので止血機能が極度に弱くなる。

 一度変質したDNAは、そのままメンデルの法則により子孫に性染色体を通じて劣性遺伝してゆく。どの国でも約20万人に1人という割合で現れ、患者達は地理的に散在し孤立しやすい。日本の患者数は少なめで約5千人。アメリカは多く2万人ほど。現在世界中では35万人ほどと推定されている。

 治療には、正常な機能を持つ蛋白質が多く入っている人の血液から血液製剤を精製して使う。原料が人の血なので、さまざまな配慮や消毒過程が必要である。無償献血を使っても結果は非常に高価になるが、命を脅かされる出血の場合にはこれらを使わざるを得ない。

 世界市場でのこれらの製剤は、約3分の1ずつを北アメリカ、日本と韓国、欧州諸国で使っており、アフリカ、中南米、インド亜大陸、日本・韓国を除くアジア諸国などは一握りの幸運な人々しか使えない状態である。

 この会議は長く血液製剤業界のマーケティングの場で治療センターなどを通じ医師達が多く招待された。主に臨床科学的な知識の情報伝達に使われ、製剤を通じてエイズの伝達が恐れられていた頃、1983年のストックホルム会議では、治療について企業バイアスの入った宣言が出された。多くの日本の治療者達や行政の関係者達が当時それを鵜呑みにしたことから、日本ではその後もHIV感染危険のある製剤(非加熱)を使い続けた。

 ところが、当時から既に欧州の患者達は医師や企業や規制側から派遣された人達と混じり、消費者の視点を主張していたので、この宣言には大声で反対し、これに基づいた間違いは起こらなかった国が多い。

 日本ではこの時期以降の非加熱製剤でHIV感染した人も多く、患者の観点からは因縁の協会である。これもあって、日本がこの会議に患者代表をはじめて派遣したのは2年前のハーグ会議。それまでは、日本からは医師や企業の参加のみであった。今回の大規模な患者参加には世界中が注目した。

 日本の血友病患者達にも消費者意識が芽生えはじめている。医療サービス消費者と医療薬剤供給者、治療方針の決定をし血液製剤サービスの仲介となる医師達、それらの動きを規制する行政の人々、それぞれの思惑を抱えている。しかしながら、究極的にはこの特定の病気を持つ患者達の日常生活をできるだけ正常化し生きる質を支えていくという共通の目的がある。

 診療所もできた。医師も治療の訓練ができた。あとは製剤を保存しておく冷蔵庫さえあれば緊急時対応ができる、と言うベネズエラ。8000もの島々に散らばる血友病の子を持つ親達をつなぐのに使ってきたコンピューターとファックスが壊れてしまい次が買えない、と言うフィリピン。血友病は悪魔に呪われた印とされ、シャーマンに頼むがなおらない、西洋の薬でこそ命が助かるのだと地方の親へ教育啓発をしたい。出血をした子は診療所で製剤を打ってもらえば助かるが血友病専門のシャーマンでは薬草で軽症の子しか助からない。日本車の中古車を手に入れたいというジンバブエ。

 富める国、貧しい国、古い国、新しい国、医療や製薬技術の進んだ国、遅れた国。自給自足の規制が厳しい国、有償血という名の売血を許す国などと、さまざまな国が文化宗教や経済環境の違いを越えて患者同士の理解をつなぎ、情報交換を振興し、遺伝病への政府理解や補助を推進する交渉の助け合いをする。

 業界が医師へのマーケティングの場に使っていた同じ組織がこの治療サービスでの世界最大の消費者連合としても機能し始めた。一方、製剤を通じて30カ国ほどにエイズを撒き散らした医薬業界にとっては、行政や医師達との関係にひびが入り、これまでとは違う方法で信頼を回復しなければならない時期である。この病気は散らばり過ぎていて直接マーケティングは効率が悪かったが、このような会議などがあることで製品の直接流通販売ルートをつかみはじめた感触もあり、数百万ドルもかかる国際会議でも広告費でスポンサーする。

 倫理的には疑問の声もあるが、営利企業の営利目的に合致する結果を共有することで、非営利団体が本来の目的を達成していくことができるしくみをうまく利用した会議だった。