Coffee break 企画:NPO法人 CHARM 訪問 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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Coffee break 企画:NPO法人 CHARM 訪問

突撃インタビュー!隣の「ヒト」は何する人ぞ?
~NPO法人 CHARM 編~


(文責:特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 事務局 酒伊 まり)
※2007年12月の記事です。

イントロダクション

 学生時代の恩師が、「研究はその分野のパズルを作っていくものだ。だから自分はそのパズルの1ピースでも当てはめられるだけで十分だ」というようなことをおっしゃっていました。以来、自分がどの立場にいてもその言葉の意味をよく考えます。
 いわゆるHIV/AIDS業界において、さまざまな研究、様々な支援団体と支援の形があります。MERSは「日本におけるHIV/AIDS」という領域においてどんなパズルのピースとして存在しているのか。この企画を通して、他の方々・団体ではどんな取り組みがなされているのか知っていき、再度「日本におけるHIV/AIDS」について考えながら進めていきたいと思います。

 今回の訪問先紹介

 今回は、MERS事務所のスグ近く、大阪市北区に事務所を置いているNPO法人CHARM(Center for Health and Rights of Migrants、以下CHARM)を訪問しました。CHARMは、日本に暮らす外国籍住民が医療や福祉のサービスと情報にアクセスすることを支援するNPO法人ですが、その事業の大きな柱としての大阪市・府からの委託事業「土曜日常設HIV検査事業」と、「外国籍住民の健康支援事業」に関して事務局長の青木理恵子さんにお話を伺ってきました。

CHARMの目指すこと

 CHARMは病院や地域の保健所、教会や寺院、各国大使館エスニック雑貨商店/レストラン、NGO/NPO等とネットワークを築くことにより外国籍住民が暮らす社会に安心のネットワークを作って行きます。外国籍住民は問題がある時には自分の近くの組織に相談をします。組織同士がそれぞれ違う役割を持って有効につながっていれば、相互の協力によって様々な問題に対処できます。
 CHARMは外国籍住民自身がもっている力を伸ばすことを支援します。そのためには健康に関する研修の実施や現場実習の機会を外国籍住民自身に提供します。健康で暮らすためには外国籍住民自身が医療支援についての知識と経験を身につけることが必要です。

CHARMの理念

 全ての人が心も体も精神も健康に生きる社会を目指します。

CHARMの事業

 医療通訳・同行支援、翻訳事業・土曜日常設HIV検査事業・外国語による性と生殖の健康に関する電話相談事業・地域支援など。
 土曜日常設HIV検査事業は、2002年10月より毎週土曜日の午後、無料・匿名の抗体検査を梅田で行っています。検査できる項目はHIV、クラミジア、梅毒です。事業の対象は外国籍住民を含んだ一般市民です。会場では、受検者の希望に応じて多言語(英語、スペイン語、タイ語、フィリピン語等)の資料を提供し、通訳を配置します。検査結果は一人ずつ個室で医療従事者が内容を説明した上で渡します。又、感染予防についての個別相談も行なっています。


CHARMのHPより一部抜粋しています。

 インタビュー <Part 1>

CHARMを始めたきっかけは?

 在留資格が短期または無いことが理由で医療とか福祉にアクセスできない人たちがいます。しかし、日本国憲法第25条では、国は全ての人の生存権を保障する義務を負うことが規定されています。現行法では制約があるために生存権を保障されていない人が医療を受けられるような町の診療所を作りたいとCHARMを始めた時に思っていたんです。

土曜日常設HIV検査事業を受託したきっかけは?

 最初から診療所を作ることは無理かなと思い始めたときに、委託事業ということで検査をやらないかっていう話が大阪市・府からあり、形態は違うけれども、検査事業だけでも検査の存在すら知らない滞日外国人の人たちも来られるような場にできるのであれば、それは診療所に向けての一歩かなと思って、始めました。
 それと同時に、HIV診療に情熱をもっている医療従事者やコメディカルの人たちと協働できる機会となりました。
 実際に活動する中で地域には診療所や保健所もあるし、いろいろなところとネットワークを組むことによって必ずしも私たちが診療所をやるっていうことではなくて、その地域の中で担える機関につないでいくってことができるんじゃないかなと考え方が変わってきました。

土曜日常設HIV検査事業について

 この事業には、検査という機会を通して、「感染」ということについて自分自身を振り返ってみたり、新しい知識をそこで得たり、正しく理解をしたりという機会にするという目的があります。今は、スペイン語、ポルトガル語、中国語、ハングル語、フィリピン語、タイ語、英語、七ヶ国語で対応できる体制になっています。英語対応を希望する人は毎回数名おられます。
 1回の検査には、スタッフ10人が関わっているんです。検査の前に説明する人とか、個別相談の担当者、もちろん結果を知らせる人もいますし、いろいろな役割があって、自分の検査というプロセスの中でいろんなタイプの人と出会う機会があります。
 それと、資料をたくさん準備しています。行政が準備しているもの、CHARMが独自で作っているもの、他のNGOが作成した資料もあるし。例えば男性同性愛者、セックスワーカー、性風俗の客のための資料、そういうものを必要に応じて、その人に応じて渡していく、資料によっては「ご自由にお取りください」って取れるようになっています。
 受検者個々に合うものが、誰か人との出会いかもしれないし、そこで見る資料かもしれないし。検査会場の中では色々な仕掛けをして、その人に合うものと出会ってもらうことを目指してきています。

 インタビュー <Part 2>

利用者からの評価とCHARMの役割

酒伊:
 土曜日常設HIV検査事業では、利用者から「こういう評価をいただいている」というのはありますか?

青木:
 「初めて感染ということについてよくわかった」っていう声はすごくたくさんあります。
 それと、あと、「すごく親身に話を聞いてくれた」とか、「受け止めてくれた」っていう反応が結構あります。
 一人ひとり背景も違うし、それから性行動とか考え方とか、そういうものも違うので、一律の情報を提供しても、それでスッと入る人もいれば、そうじゃない人たちもたくさんいる。だから、色々な情報の内容や形態でメッセージを届ける事が必要だと思うんです。

酒伊:
 外国籍住民の健康支援事業では、なにか評価や声などは?

青木:
 利用者から意見を聞く機会とかアンケートとかないので、客観的な評価を聞く機会というのがあんまりなくて・・・。病院からの評価という意味では、HIVの拠点病院は医療通訳の派遣や地域でのフォローを要請してくださったり、手続きについて相談してくれています。少しずつ使えるサービスと思ってもらっているかなと感じます。
 もうひとつは、保健所を支援することを設立以来行っています。保健所の中で行われている健康支援事業はたくさんあるんですけど、外国籍住民がほとんど知らないんですね。やっぱりそこが地域住民に対して開かれた場所になんとかなっていってほしいなと思って。
 大阪市の保健所の中ではCHARMの存在が伝わっていて、最近は他の区から依頼がありました。保健所の中で少しずつ最近そういう認知をされてきているかなと思います。
 ただし、CHARMは、どうしても性感染症に限定しているので、保健所でやっている子育て支援のプログラムを通して性感染症のプログラムにつながることはあんまりないんですけども。保健所は保健所の役割を担うってことで、保健所が地域の住民とつながってくれる、そのお手伝いをCHARMができればと思います。

現場におけるジレンマ①:受検者数を上げようとする行政と現場

酒伊:
 青木さんがCHARMを数年間やってこられて、検査事業では行政側の視点や政策等と現場レベルにおいてジレンマとかありますか?

青木:
 日本でHIV感染症が増え続けているという状況に対して、検査にたくさん行くということだけでは、感染の減少にはつながらないと思うんですよ。
 厚生労働省とかが検査のキャンペーンなどを行って広域広報をしている期間中には「感染とはあまり関係ないけれど広報で見たから行ってみようか」と思う人が検査に行きます。一方、感染の可能性が高い人はキャンペーン期間中はあまり検査に参加していないのが検査現場で得ている感触です。外国籍の人たちでも英語圏以外の検査を受けることが必要な人たちがなんで来ないかと言うと、外国人の人たちは、検査はタダでも、その後の治療は有料でなおかつ、国民健康保険とか、保険には加入していないから、ものすごく高いお金を取られるってことを知っています。だから、「どうせわかったって、治療ができないんだったら何の意味もない」と思って、検査にも行かないんです。
 それから在留資格が切れている人っていうのは日本に17万人いるんですけど、区役所だけじゃなくて、医療機関とかに行っても「通報されるかもしれない」と思っていて、とにかく他の人と接触しなければいけないところに出ないようにしています。入管への通報制度と、医療費がネックになって英語圏以外の外国人は医療にはつながらないと思います。
 本当にHIV感染の増加を抑えようと真剣に考えるのであれば、ひとつは、関連する性感染症の診療を無料にすればいいと思います。梅毒や淋病など、HIVと同じように感染する性感染症診療を無料にすることによって、検査に行くモチベーションは確実にあがると思います。
 ただ、診療を初めから無料にするのではなくて、基本的には普通の医療費個人負担にしておいて、どうしても払えない人に対してはそれを補助できるような制度をしておくことによって、本当にリスクのある人が高い確率で検査をしに行くことが予想されます。
 検査で感染していることがわかったら、その後の治療までできるってことになったら外国人に限らず、経済的に難しい日本人も検査するし、もっと前の段階の梅毒などの段階できちんと治療・介入しておくことによってHIV感染予防にもつながると思います。
 医療は、命に関わること。人間の存在に関わることですし、基本的人権です。どんな人に対しても医療を提供するっていうのは、国の責任だと思います。だから、医療を受けたいという人たちに対して、入管に通報せざるを得ないのは病院が医療費を持ち出しにせざるを得ないからです。性感染症の一次治療に補助金を支給することと、医療を受けることを求めている人には医療を提供することで外国籍住民は安心して医療を受けられるようになります。
 これから5年間でHIV検査数を2倍にしてAIDS発症率を25%下げるという厚生労働省の出している目標1)を実現するには、外国籍住民に対しては安心して医療を受けられる環境を作る必要があります。


1)・・・厚生労働科学研究費補助金(エイズ対策研究事業)の「戦略研究(エイズ予防のための戦略研究)」は平成18年から平成22年までの5年間の成果目標として、首都圏及び阪神圏の男性同性愛者に対しては「HIV検査受検者数を2倍に増やし、AIDS発症者数を25%減少させる」、首都圏を主として(阪神圏を含む)異性愛者に対しては「①HIV検査を2倍に増やす、②AIDS患者の発生を25%減らす」ことを掲げており、研究班を構成しています。

現場におけるジレンマ②:増える受検者と検査実施側のキャパシティ

酒伊:
 日曜にアメ村で行っている即日検査は人数制限を行っていると聞いたんですが、土曜日の検査では人数制限をしていないんですか?

青木:
 アメ村の検査は、即日検査なので人数制限をせざるを得ないと思います。土曜日の検査では人数制限はしないという方針をずっと貫いています。もっといろいろ夜とかに検査ができる会場があれば、受検者にとって受検できる選択肢が広がります。でも、大阪には現在日曜日か、土曜日か、木曜日の夜しかないんですよね。だから、その3箇所でほとんどの受検者を受け止めているわけですよ。そうすると、受検推進の広域広告が出ると土曜日の受検者数が急に増えます。人数制限はしていないので、ときには1時間待ちになったりします。
 「あそこは人数制限をしている」っていう情報が流れたとたんに、「じゃ、早めに行こう」っていう人たち、そういうことを考える人たちが出てきて、そういう情報っていうのは限られた人たちにしか伝わらないので、そういう情報を知らなかった人たちがみんなあぶれていくんです。

酒伊:
 検査のチャンスを失っているってことですよね。

青木:
 はい。そういうことを避けたいので、人数制限をしないでやってきましたが色々課題は抱えています。

酒伊:
 スタッフの確保とか、場所的なこととか、もっとこういう場所が理想的とかいう意見は何かありますか?

青木:
 欲を言えばきりがないんですけども、建物や、環境ということで言うと、今のところっていうのは医療のための建物ではないので、利用者が来て安心できる環境ではないかなと思います。できれば、よりよいのは、やはり保健所とか、医療のために作られた建物が、夜とか、週末、平日の日に空いて、そういうところで検査ができるのがより良いことだと思いますけれども。
 今みたいにね、幕を張ったりしてやらないといけないというのは大学のイベントだったらいいですけど、大阪市や府がやっている事業ということになるとちょっとお粗末かなと思います。けれども、今、私たちに与えられている環境で、できる限り質の高い援助を提供していこうとしています。

酒伊:
 場所的にはどうですかね?今は堂山町ですが別のところはいかがですか?

青木:
 現在の検査会場は全くの繁華街ではないというところなので、場所は、あそこはいいんじゃないかと思います。
 あと、人材のことについては、毎回10人ものスタッフが必要です。その10人の人たちに毎回来てもらえないので、一人あたり1ヶ月1回の関わりと考えてもトータルで40人必要なんですね。今、(検査事業でのボランティアスタッフの)登録が50~60人いるんですけども、そういう人たちを探していき、関わってもらい、そして質も高めていくっていうのは、すごく大変ですが、幸いなことに、そのことに関心を持って、今関わっているスタッフが新しく関わってくれる人を連れてくるっていうのが保健所とか医者の間とかで広まっているので新しい人が次々と来てくれています。

酒伊:
 スタッフは固定でいてもらうことと、今のような変則なスタッフ構成とどちらが好ましいですか?

青木:
 毎週スタッフ募集は出すけれども、誰もいないということがやはりあるんですよね。そういうときは、誰か一人でもずっといてくれる医師がいてくれたらいいなと思いますが、うまく回っているときは、やっぱりたくさんの人がいろいろ経験してもらって支援者の輪が広がっていく方がいいんじゃないかって思いますね。
 保健所からたくさんの保健師さんが検査事業のスタッフとして来られています。保健所のサービスをどういう風により良くできるかを真剣に考えている保健師さんがたくさんいて、ここで経験したことを現場に持ち帰ることによって、現場も変えていきたいって思っている人たちがたくさんいるんですね。そのつながりが広がっていく可能性っていうのはすごくあるから。
 一方、毎回固定で関わっている人たちが複数名、要にいるので毎週のやり方が継続していくことを可能にしています。

 インタビューを終えての所感

 今回は、大阪で性感染症の検査事業を行っているCHARMを訪問しました。お話を伺い、一律的な対応や情報提供ではなく、個別対応を実施し、受検者と専門家との「出会い=介入の機会」を大切にするCHARMの検査事業へのポリシーに対しては大変共感しました。インタビューを踏まえて、「日本において増え続けるHIV感染者」という社会的問題について個人的に感じたこと・考えたことを述べたいと思います。

 私は、性行為によって増え続ける日本のHIV感染者の増加とは、各個人の単一要因によるものではなく、社会の様相や流行、各世代の特性、コミュニティ、類似グループからの影響、家族、個人的事情、パートナーとの関係性などのさまざまな要素が絡まって起こっている社会的問題という風に考えています。そのために、一人の行動変容を期待するのであれば、個人・集団・社会へのアプローチが行われていなければ行動変容は可能にならないと考えています。この理由により、感染者の7割近くを占める20代・30代に対しては、検査会場内における受検者と専門家の出会いを介入の機会とすることで、長期的視野から見て、大変効率的なアプローチだと期待感を持っています。

 現在、厚生労働科学研究費補助金(エイズ対策研究事業)の「エイズ予防のための戦略研究(戦略研究)」が行われています。この研究に関する資料を読んでいると、この研究は、HIV検査受検者数を増やすことで感染者の早期発見・早期治療を主目的とした試みという風にとらえられます。

 厚労省の報告する日本のHIV感染者数が氷山の一角だと言われている現状に対して、受検を促す広報を大々的に行うことは、埋もれているHIV感染者の早期発見・早期治療、関心の低かった人々が関心を持つことに関しては効果的と考えます。しかしながら、多くの人に受検してもらうために、検査会場(現場)の現状に対して、「各受検者への対応時間を短縮すればよい」、というような回答をするのであれば、それは性感染によって感染拡大している「日本におけるHIV/AIDS」という問題の本質を見ていない回答のような気もします。行政においては、「数字」というものが結果的に評価されるポイントになることはやむを得ないことかもしれませんが、この取り組みの成果をより向上させるにあたり、検査会場の増加、支援体制の整備も同じく行っていくことがこの取り組みを成功させるにあたって必要不可欠であると思われます。

 また、社会資源の整備という側面については、NPO法人・その他任意団体などの増加・広範化に伴い、一業界内においても多種多様化しています。その領域における最終目標は何なのか。そのために自分、もしくは所属団体がどのような役割を果たすことができ、そのためには何が必要なのか。関連する資源同士、相互補完的にそれぞれの「強み」を生かして人々が生活しやすい社会づくりに貢献できたらと思います。

 今回取材させていただいたCHARMはMERSとは異なるアプローチ方法で、異なる対象者に向けて、同じ「日本におけるHIV/AIDS」に取り組んでいます。ソーシャルワークで言うと、MERSが社会のメゾレベル・マクロレベルへ重点的にアプローチするものであれば、CHARMはメゾレベル・ミクロレベルのアプローチを重点的に行っているものであると考えます。マクロ・メゾ・ミクロ2)その3つに優劣差があるということではなく、各レベルへのアプローチを同時並行的に行っていくことが、社会問題の早期解決をもたらすのだと私は考えています。

 今回お話を聞く中で、CHARMは地域に根ざした、地域社会資源と地域住民を活性化するアプローチを行っていると再確認しました。これらの課題解決に向け、MERSとしても可能な限り積極的に協力していきたいと思いました。


2)・・・ミクロ(個人・集団レベル:ケースワーク、グループワーク)、メゾ(地域・組織レベル:コミュニティワーク)、マクロ(国・政策レベル:ソーシャルアクション)