生命を育む思想:フォーラム5 薬害エイズ調査からの報告 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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生命を育む思想:フォーラム5 薬害エイズ調査からの報告

フォーラム5
薬害エイズ調査からの報告

はじめに

 AIDS/HIV感染症、20世紀最後の20年に突然米国に出現し、瞬く間に世界中に伝播、現在4030万人とも言われる患者が存在する。我が国で感染者の動向調査が始まった1985年に報告された日本国内のAIDS/HIV感染症の患者はわずか5名であったが、この時点で既に国内に約5000人いるといわれる血友病患者集団の内、少なくとも1400人以上がHIVに感染していた。当時血友病患者は、米国買血由来原料から製造された血液製剤を日常的に使用しており、これら血液製剤を介して、米国で流行が広がった最新の感染症の原因病原体に太平洋を越えホットスポットのように曝露していった結果である。1996年血友病患者等が国及び製薬企業5社を被告として提訴した損害賠償訴訟が和解に至り、国が新たな治療薬を緊急導入するまでに440人以上の患者が亡くなった。かろうじて一命をとりとめた患者たちも、多くが同様の血液製剤によってHCVとHIVに重複感染しており現在までに約100名が肝硬変等で命を落とし、1000人弱の患者が我が国最初期のHIV感染者集団として闘病を続けている。また、息子、夫や兄弟を亡くした遺族らの多くは未だに深い悲嘆の中にあり、死別体験の影響が身体的症状をも惹起させている。

 これら一連の出来事は総じて「薬害エイズ」と呼ばれる。「薬害エイズ」に関連しては、製薬企業の元役員、血友病の専門医、行政官がそれぞれ、業務上過失致死で起訴され、一部で有罪判決が確定している。

 欧米諸国においては、こうした事態を血液の供給システムの未知なる感染症に対する深刻な脆弱性の問題であると認識し、主に政治主導で検証作業が行われてきた。これら検証作業の結果として、多くの国々で法律改正を含む血液供給システムの見直しが計られた。我が国では、多くの場合「薬害エイズ」の呼称に象徴されるように、サリドマイド、スモンに連なる薬害事件と認識されている。これは、当時先進諸国において唯一輸血(輸血用血液製剤)によるHIV感染者が生じなかったことと無関係ではない。事実、当時の厚生大臣が民間の調査機関に依頼した検証も薬害再発防止についてのものであった。この事は「血液を他の医薬品とは別に供血者から患者まで一貫したシステムで安全監視すべきである」という欧州的脈絡での議論を軽んじる結果を招くとともに、血液を大量生産される商品として扱う事を制度的に追認する事になった。しかしながら、血液製剤を医薬品として相対化する視点は、制度論として、薬事法が「モノ」だけを規制対象にするだけでは医薬品の安全監視ができない事を必然的に明らかにした。医薬品の安全性も、原料から投与する現場までのリスクを一貫して監視する必要があるという視点は、薬事法に生物由来製品医薬品に関する感染症定期報告の条文を新設し、社会的には、医療の有り様をより強く問い直す契機のひとつとなっていった。

フォーラム5-1 薬害エイズ調査からの報告

薬害HIV感染被害者(患者・家族・遺族)生活実態調査から

山崎喜比古氏(東京大学大学院)、伊藤美樹子氏(大阪大学大学院)、溝田友里氏(東京大学大学院)

フォーラム5-2 薬害エイズ調査からの報告

輸入血液製剤によるHIV感染問題調査研究から

種田博之氏(産業医科大学)、好井裕明氏(筑波大学)、横田恵子氏(神戸女学院大学)