日本赤十字社 血漿分画センター 見学報告 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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日本赤十字社 血漿分画センター 見学報告

我が国唯一の血漿分画製剤工場を目の当たりにして思う
日本赤十字社 血漿分画センター 見学報告-


(文責:特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 事務局 鵜川圭吾)
※2006年12月の記事です。

日本赤十字社 血漿分画センター(北海道千歳市)

 はじめに

 日本赤十字社血漿分画センター(以下:分画センター)は、全国の献血血液から血漿を集めて、アルブミン、免疫グロブリン、そして血友病Aの治療製剤である血液凝固第Ⅷ因子製剤クロスエイトMを製造している唯一の工場である。このたび、この分画センターを見学する機会を得たので概要を報告する。

 特に今回は、クロスエイトMの製造工程や製剤の歴史などを実際の現場の方々を通じて学ぶことができた。

 献血血液の行方 -血漿はどこへ行くのか-

         運び込まれる冷凍血漿

 全国各地の血液センターや献血バスで集められた血液から血球成分(赤血球や血小板)と分離された血漿はどこへ行くのであろうか。一部はFFP(新鮮凍結血漿)等の輸血用血液製剤として医療機関に納品され、一部は凍結されたまま船で北海道苫小牧港まで輸送される。その後陸路トラックで千歳市にある分画センターへ輸送されていく。そして、全国から集められた血漿は、分画製剤となって再び全国各地の医療機関で使われるため千歳空港から各地へ運ばれていく。

 今回、血漿分画製剤の輸送ルートとは逆に大阪から千歳空港へ飛んだ。分画センターは新千歳空港から車で20分くらいの距離にあり、広大な工場団地の一角に建っている。当日は見学の予定時間を大幅にオーバーしてしまうほど、センター職員の方々に貴重な時間を費やしていただいた。改めて感謝申し上げたい。

 血漿が製剤となるまで

 血漿バッグはスクリーニング検査やNAT(核酸増幅検査)が行われた後、各地から分画センターへ集められる。そして、採血所で記録したリストと確認後、6ヶ月間貯留保存する「原料棟」へ搬入される。搬入から半年間、血漿バッグの供血者に関する感染症の報告等がないことを確認し、ようやく血漿が製造ラインに乗っていく。第Ⅷ因子製剤は、アルブミンを分画する前処理で取り出されたクリオ1)から作られる。このクリオから「凝固棟」で不活化処理、精製のいくつもの工程を経て、クロスエイトMは作られていく。


1)・・・クリオプレシピテートの略。コーンの低温エタノール分画において、一番最初の沈殿物。

 原料棟、その巨大なフリーザー

 原料棟では各地で急速冷凍され、マイナス20度に保ちながら運搬された血漿バッグを1階ではコンテナごと、2階ではバッグごとに採血現場とのリストと合致しているかの照合作業を行う。照合結果が正しければマイナス30度で6ヶ月間貯留保管することになる。この貯留は血液製剤の安全性確保、すなわち後に感染症の情報などが報告された血漿バッグを破棄するために実施されている。

血漿バッグの照合作業

 血漿バッグはコンピューターによって管理され、誰が何月何日に献血したか分かるようになっている。献血後ほぼ6ヶ月以内に感染等の情報が集まることから6ヶ月という貯留期間が設定されている。

 貯留保存とは別の冷凍庫では、10年間の検体保存の冷凍庫もあり、さらなる遡及調査ができるシステムも見ることができた。30万リットル(およそ150万人分の血漿)の冷凍血漿を保管するためには、北海道の気候が非常に適している事も納得出来た。

マイナス30℃の冷凍庫内

 ちなみに2階では、北海道内の全ての輸血用血液製剤の20プール検体によるNAT(20人分の血液をまとめた核酸増幅検査)検査が実施されている。届けられた次の日の朝にはNAT検査の結果を連絡出来るようになっており、献血後すぐに使われる輸血用血液製剤(血小板、赤血球製剤など)に対応できるようになっている。また3階では、感染症報告などによって安全性が懸念されるロット2)に対して、その原料となる血漿を特定するべく個別NATが行われている。


2)・・・1ロット=5バッチ=5×約20kgのクリオ(原料血漿2500L)

 凝固棟、クリオから凝固因子へ

 凝固棟は6ヶ月間貯留保存した血漿からⅧ因子製剤が作られるセクションである。極力クリーンな環境で製剤を作るために、見学の際においても見学用の衣服を着用した。特にS/D処理(後述)の前後ではさらなる着替えが必要となった。ウィルスを不活化するS/D処理工程の重みが感じられた。

左:凝固棟に入る際の服装 右:中央の青いマットにてS/D処理前後に分けられる。

 凝固棟に運ばれた新鮮凍結血漿は機械でバッグを切り、手作業でバッグを取り除くという開封作業が行われ、1000Lと1500Lの2つの大きな二重構造のタンクにプールされていく。見学の時間帯はあいにく、この工程はおこなわれておらず実際の作業現場は見ることができなかったが、何千人分の血漿が扱われていた現場には「生(なま)」の臭いと金属的なものが入り交じった感覚を覚えた。

 二重構造状の内側タンクに集められた血漿は、外側タンクに満たされたお湯でゆっくりと解凍される。すると血漿中からクリオが浮遊してくる。次に、外側のタンクのお湯はエタノールに入れ替えられ、一定温度(0℃~4℃)に保つことによって、タンパク質である凝固因子を壊さないようにする。

 その後、遠心器にかけられることでクリオと脱クリオに分けられる。お餅と接着剤を混ぜたような黄色い物体であるクリオは、急速冷凍され使われる日まで冷凍保管される。その後数個のバッチ(約20kgのクリオ)を併せて、ろ過され、S/D処理にかけられる。

出来たてのクリオ

 以下で文献を参照しながらS/D処理以降の工程の簡単な解説を行うこととする。なお、実際の見学には多くのタンクやカラム3)が並んでいた。

 クリオ精製後の主な工程として、皮膜を持つウィルス(HIV、HBV、HCV、SARS等)に対して不活化処理としてのS/D処理、抗FⅧマウスモノクローナル抗体によるイムノアフィニティークロマトグラフィーがあり、血液凝固第Ⅷ因子の吸着、ウィルスや不純物の除去を行う。そして、S/D処理では除去しきれない皮膜を持たないウィルスへの対策としてのウィルス除去膜ろ過(ナノフィルトレーション)、第Ⅷ因子の分離を行った後にイオン交換クロマトグラフィーによる精製、試薬の除去という工程を経る。ウィルス除去・不活化率はLRV(ウィルスクリアランス指数)で示され、例えばLRVが10であればウィルス量を100億分の1(1010分の1)に除去・不活化する効果を示す。平成15年11月7日の厚生労働省医薬食品局の4課長の連名通知によると「ウィルスクリアランス指数が9以上である製剤(ロット)については、当該ウィルス(HIV、HCV、HBV)が十分に除去・不活化されていると…判断されたので、…」というLRVによる安全性基準が示されている。クロスエイトMに関しては、不活化除去工程を通じての総LRVは、HIV・HCVでは「≧18.1」、HBVでは「≧20.7」、皮膜を持たないB19(ヒトパルボウィルス)では「≧7.9」という数値である。また純化する工程によって1ロット(血漿換算15,000L相当、約6万人の血漿)が、16Lぐらいにまで純化、精製され、凝固因子製剤の1000単位製剤4)でいえば約2800本の量となる。以下に各工程について説明していく(下図参照)。

 S/D処理は有機溶媒(solvent:皮膜を溶かす働き)と界面活性剤(detergent:ウィルスと有機溶媒の接触を良くしてなじませる働き)によって、皮膜を溶かしてウィルスを不活化する工程である。この工程で用いられる溶液は二つのクロマトグラフィーの工程で、検出できない値まで除去される。

 なお、クロマトグラフィーとは分子混合物の代表的分離・分析法。移動相に含まれる分子混合物が固定相を通過する際に、目的の分子が固定相に取り込まれる。物質の大きさ、吸着力、電荷、質量、疎水性などさまざまな原理によって分離される。

 イムノアフィニティークロマトグラフィーは特定の成分とのみ可逆的に結合するよう性質、特に抗原抗体反応を利用したクロマトグラフィーである。この技術に抗FⅧマウスモノクローナル抗体を用いており、米国バクスター社より技術提供を受けている。この抗体によって血液凝固第Ⅷ因子の抽出に成功している。ちなみに「クロスエイトM」のMはモノクローナル抗体の頭文字から由来している。

 ちなみに薬害エイズ事件の際に問題となったHIV不活化の工程として知られる加熱技術では、非A非B型肝炎ウィルスの除去が、不完全であった。加えて、純化・精製の技術が不十分であったために、夾雑たんぱく質が製剤に混入し、アレルギー反応の問題があった。その問題を解決したのが、S/D処理であり、二つのクロマトグラフィーの工程なのである。

 話をもとに戻して、ウィルス除去膜(ナノフィルトレーション)に入っていく。皮膜のないウィルスへの対策であるナノフィルトレーションは、さらなる安全性を確保する工程である。平均孔径20nmの除去膜を使用し、B19ウィルス(20nm)、HAV(25~30nm)、HEV(27~34nm)の皮膜質のない、小さなウィルスを除去している。ちなみに、20nmより小さくすると、第Ⅷ因子が通り抜け出来なくなる。

 そしてイオン交換クロマトグラフィーの工程に至る。それは無機イオンや高極性分子の電荷を利用したクロマトグラフィーで、抗FⅧマウスモノクローナル抗体を含むその他の試薬をこの工程で除去する。

 さらに分離や精製の際に使用するバッファ(化学における緩衝液。弱酸、弱塩基を用いpHの変化を低減する)を調合する部屋を実際に見ることができた。部屋の計測器の精度もすべて紙媒体に記録を残すことで、事後的にヒューマンエラーの原因を追跡調査できる仕組みをとっていた。

バッファ室の秤

 最後の工程である分注の工程では、凝固因子以外についても説明していただいた。容器(バイアル瓶)の一つ一つをCCDカメラの画像をPCで処理して、欠けていないかチェックし、洗浄、加熱滅菌処理がなされる。また注射用の蒸留水においても、もともと純度の高い水を数回蒸留するによって、より純度の高い蒸留水としていた。


3)・・・カラムという筒状の容器に充填剤をつめ、様々な試薬によって目的とする物質を分離、吸着させる。

4)・・・1単位=血液200ml中に含まれる血液の成分量。

 質疑応答にて

凝固因子製剤が採血からユーザー(患者)に届くまでの期間について

 採血からユーザーに至るまで最低限、原料6ヶ月貯留保管→半月で製造→自家検定&国家検定に4ヶ月→在庫として4ヶ月保存(16ロット)最短でも計14ヶ月間のタイムラグが生じる。治療に使われるまでの期間が長期に渡るということは、献血血液の効率的な利用という観点、保管コスト等を考えるとマイナスであることも否めない。反面4ヶ月分の在庫保存は、かつて他の製剤が供給不足になった際にクロスエイトMで補ったという実績もある。

安定剤としてのアルブミンの評価

 他社の凝固因子製剤が生物由来の材料を極力無くす方向にあるが、クロスエイトMにおいては、安定剤としてアルブミンの評価は非常に高く、歴史的に裏打ちされている安全性、安定性という観点から、他の材料を使用するより優れているとの見解を示された。その安全性の高さゆえに、凝固因子製剤が安全であるかのごとく安易に使われたのも、薬害エイズ事件が起こった原因の一つではないかという指摘もあった。

 なお、クロスエイトMには、様々なウィルス不活化過程を経て国家検定に合格したアルブミンの封を切って添加している。

今後のクロスエイトMの改良点

 改良点として、利便性を考慮し運搬しやすいよう小型化を図っていくとのことだった。

vCJD(変異型クロイツフェルトヤコブ病)のリスクに関して

 vCJDのリスクに関しては、研究が続けられているが、確定した測定方法がまだ確立されていない状況である。しかしながら、バリデーション5)の結果では異常プリオンの除去は可能であるが、感染性が完全に除去できるか否かは未確定である。

 分画センターの副所長である脇坂氏はシンポジウム6)で献血問診の際のスクリーニング等によりvCJDの感染者の血液が混入する可能性は0.005~0.045人であるという極めて少ない数字を出している。また、混入したとしても、異常プリオン自体は小さな分子量であるが、凝集するためにナノフィルトレーション(20nm)の除去フィルターで除けることを発表している。


5)・・・実製造と全く同じ工程を再現した実験室レベルのミニチェア版

6)・・・2005年「クロスエイトM ステップアップシンポジウム」

第Ⅸ因子製剤の製造に関して

 他の製剤については第Ⅸ因子製剤の製造の可能性について尋ねてみた。技術的には製造は実現可能であるが、ライセンスの問題があり、早急には難しいとの回答だった。

日本赤十字社の過去の凝固因子製剤について

 日本赤十字社が1989年12月に製造承認を取得したアールシーエイト(乾燥濃縮人血液凝固第Ⅷ因子)、クロスナイン(乾燥濃縮人血液凝固第Ⅸ因子複合体)についてはウィルス不活化技術の不備があったこと、精製、純化の度合いが低いことで他社製品より劣っていたために、販売が中止になったそうである。

日本赤十字社の第Ⅸ因子製剤 クロスナイン

 血液製剤は果たしてクスリというべきか?

 実際の血漿バッグから分画されていく様子は、生体物(血液)から医薬品へ意識が変化していく流れと同調しているように見えた。一方で感染が判明した血漿バッグの破棄-貯留保存-不活化処理-ウィルス除去という何重にもなされた安全性確保のための処理は素人目でみても、未知なる物質である血液への多大な警戒感の現れといえよう。しかし出来うる限りの安全性確保の措置とコストとのバランスは我々自身が考えていかなければならないと思う。歴史をひもとけば、今後も未知なる感染症が出てくることは必然といっても過言ではない。どこまで安全性を追求するか、だれが判断・決断するのか、万が一被害を被った場合はどうするのか、等々、血液製剤の消費者となりうる我々の意見を反映させる枠組みを確立させると共に、献血血液の行方や輸血医療を考える上でも、製造現場を知る必要性を強く感じた。

 参考文献

  • 新しい血液法成立記念シンポジウム(NAT定例報告会200回記念)
     開催日時:平成15年1月20日
     主催:厚生労働省、日本医師会、日本赤十字社
  • 医薬品インタビューフォーム(クロスエイトM)
    (2004年7月 第3版 日本赤十字社)
  • クロスエイトM ステップアップシンポジウム2005
    (発行年月日:平成18年3月31日、日本赤十字社)