特別寄稿:薬害肝炎 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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特別寄稿:薬害肝炎

薬害のない社会を願う一人の人間として
薬害肝炎訴訟の意義と今後-


≪筆者≫
薬害肝炎大阪訴訟 弁護団
特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 理事  西念 京祐

 相次いだ原告勝訴判決

 東京、大阪、福岡、仙台、名古屋の全国5地裁において、国と製薬企業を被告として提訴され、全国で熱い闘いが繰り広げられている薬害肝炎訴訟。全国に先駆けて、平成18年6月21日に言い渡された大阪判決は、薬事法上の規制権限不行使について、クロロキン最高裁判決の示した厳しい基準を適用した上で違法とし国の責任を認め、また、加熱製剤の承認自体を違法とし国の責任を認めた重要な意義ある判決である。これによって、フィブリノゲン製剤によるC型肝炎ウィルス感染という被害が、薬害であると明確になった。

 また平成18年8月30日に言い渡された福岡判決では、国と製薬企業の責任時期を大阪判決以上に前倒しにして認めた。いずれも血液凝固第Ⅸ因子製剤に関する被告らの責任が認められなかった等の残された大きな課題があるものの、大阪判決を詳細に読めば、法的責任を認めていない時期においても、医薬行政に医薬品の安全性確保の姿勢が欠けていたことを「お粗末」とまで評して非難している。他方で、長期にわたり、かつ生活のあらゆる場面に及ぶ感染被害、とりわけ将来への不安を重く受けとめ指摘している点で、この問題に政治が正面から向き合わなければならないことを示したものと捉えることができる。全面解決に向けた大きな武器となる内容を持つ判決であった。

 35紙もの新聞が社説で取り上げたことに象徴されるが、大阪・福岡の判決前後に広く報道がなされ、また、そのほとんどが被害者の目線から、さらには肝炎患者の置かれている状況に寄りそうものであったため、この問題が広く周知されるとともに、解決されなければならないのだという気運・世論が大きく盛り上がった。

 このような世論の高まりを受けて、与党を含め、各政党が競うように肝炎対策のプロジェクトチームを設置し、恒久対策に向けてのヒアリングがなされるなど、政治的な課題として、肝炎問題の解決を俎上に載せたといえる。今後、我々薬害肝炎原告団、弁護団では、この課題に結論を与えるための活動に取り組む所存である。

 現在、大阪では原告番号13番までの原告(第一次結審原告)に関する大阪高等裁判所での控訴審と、原告番号14番以降の原告(第二次以降結審原告)に関する大阪地方裁判所での審理が始まっている。福岡も同様である。年明け早々にも言渡しが予想される東京地裁判決が、この訴訟の流れを大きく決定づけることになるかも知れない。大阪・福岡両地裁判決を更に前進させる判断を期待したい。そして、東京判決を携え、最終局面に向けた舞台を整えていかねばならない。

 繰り返される薬害の連鎖を断ち切るために

 C型肝炎患者の多くは、一見、普通の健康な人と変わらなく見える。しかし、それは被害が軽微ということではなく、患者らは、周囲に理解されず、感染症であるために差別されながら、気の遠くなるほど長期間にわたる進行性で難治性の最終的には高率で死に至る苦しみの中に居る。昨年6月から取り組んだ原告本人尋問を通じて、我々弁護団は、原告らの被害、原告らが奪われたものは「人生そのもの」であることを改めて発見し、それを法廷で表現してきた。そして、被害を実感すればするほど、繰り返される薬害の連鎖を断ち切らなければならないとの思いは強くなる。

 国は、これまで薬害を繰り返しては起こし、その度に、裁判で法的責任を争い、原告らの必死の闘いの結果、何度も責任を認めて謝罪し二度と薬害を起こさないことを誓ってきた。これらの努力によって、薬事行政や法制度はわずかに前進しているものの、薬害を繰り返さないとの約束は破られ続けている。

 また、近時、薬害肝炎を含めて健康被害等に対する国の責任を認める判決が相次ぐという事態を受けて、政府が緊急に検討した対策は「法務省、厚労省などの訴訟担当部門のスタッフ増員、民間弁護士に国側代理人を依頼する際の報酬増額等により訴訟への対応能力を高めること等。」だという。訴訟に負け続けているのは、当時の厚生行政に見直すべき点があったからではなく、訴訟を担当するスタッフ(訟務検事ら)の力量不足や民間弁護士への報酬の支払いが足りないことにある、という総括しかできていないのである。事前規制を廃して、適正な競争をさせることとし、問題があれば事後規制によって対処するという規制緩和社会のモデルは、事後規制が適切かつ迅速に機能することを前提としなければ成り立たない。言うまでもなく、事後規制の最たるものは司法判断である。事後規制が規制の中心になるのであれば、行政は司法判断に示された行政責任の指摘に敏感でこそなければならないはずである。厚労省の責任放棄の姿勢は甚だしい。

 薬害のない社会、一人一人の健康な暮らしが守られる社会をつくり、保持していくために、薬害スモンやサリドマイド、薬害エイズ等の事件に関わられた多くの先人達が、幾多の試練に耐えながら努力してきてくれたことを感じ、同時にそれでもなおそのような社会が実現できていないからこそ、この訴訟に取り組んでいるのだと感じる。薬害のない社会にすみたいと願う一人の人間として、先人達の多年にわたる努力を引き継ぎ、不断の努力によって、薬害の連鎖をなんとか断ち切りたいと願っている。今後も、引き続き全面解決に向けての取り組みが続く。ぜひ、1人でも多くの皆さんにこの訴訟に関心を持って頂き、世論の力を得て、厚労省に改めて真の反省を迫り、安心してくすりを使うことの出来る社会づくりの一歩としたい。