特別寄稿:薬害イレッサ | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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特別寄稿:薬害イレッサ

ずさんな承認と命の軽視に警鐘を!!
~西日本訴訟第13回期日 福島教授主尋問を通して~

 

       近澤 昭雄 氏

≪筆者≫
イレッサ薬害被害者の会  近澤 昭雄

イントロダクション

 薬害イレッサ訴訟は、非小細胞性肺がんに対する抗がん剤イレッサを服薬し、重篤な副作用被害を被った患者や、その遺族が大阪地裁(西日本訴訟)、東京地裁(東日本訴訟)において、イレッサを製造販売しているアストラゼネカ社、この医薬品を承認した国(厚生労働省)を被告とした裁判です。2004年に始まった裁判は、先日ようやく専門家証人の尋問に至りました。重要な争点であったイレッサ承認の妥当性に関して、西日本訴訟では2006年11月13日に原告側から福島氏が証人として出廷しました。これまでMERSニュースレターにおいて概要を報告してきましたが、今回は自身が東日本訴訟原告であり、イレッサ薬害被害者の会にも所属されている近澤昭雄さんに当期日の報告をお願いしました。

 はじめに

 「ネットワーク 医療と人権」には数回にわたり「抗がん剤イレッサ」の問題を取り上げて頂いた。イレッサは、現在も医療現場の中で使用されている薬である。この薬が起こした副作用被害の訴訟問題を取り上げるには、さまざまな配慮を必要としなければならないという難しい側面がある。一方で、これほどまでに多くの死亡者(2006年9月時点で676人)を出しているにもかかわらず、仕方のない死として見捨てられようとしている事に対して「がん患者の命の重さ」とは何かをこの訴訟の中で根本から見つめ直すきっかけとなっている。この訴訟が10年は遅れていると言われる日本の抗がん剤治療の改革に繋がればと望んでいる。

 イレッサ訴訟の進捗状況

 東日本訴訟の弁護団では、2004年11月の提訴から2年を費やして、調査・作成した証拠書証を裁判所に提出、原告側の意見陳述を行ってきたが証拠調べも終盤を迎え、来年(平成19年)の2月7日の第12回期日より原告側主尋問が開かれる予定となっている。東日本訴訟より4ヵ月早く提訴した西日本訴訟では、既に(平成18年)11月13日の第13回期日で原告側証人による主尋問が行われたが、傍聴できない人達が出る程であった。その証人尋問の様子を、西日本訴訟弁護団の中島康之弁護士の記録を元に報告する。

 西日本訴訟第13回期日

    原告側証人 福島雅典氏(報告集会にて)

 平成18年11月13日午後1時15分から、原告側証人として福島雅典教授の主尋問が行なわれた。福島教授は、京都大学医学部附属病院教授、探索医療センター検証部部長、京都大学医学部附属病院 外来化学療法部部長、併任・(財)先端医療振興財団・臨床研究情報センター 研究事業統括として活躍され実地医療としてガン化学療法に携わってこられた方である。

 まず、冒頭で福島教授は下記の事実を端的に指摘した。

イレッサ承認の問題点

  • 本当の意味での信頼できるデータがないままに承認された。
  • 外国では全く通用しない未熟なデータだけで承認された。
  • 延命効果について十分に証明されないまま承認された。

厚労省の対応

 イレッサの承認に関して、

「臨床試験、臨床試験外の使用で急性肺障害・間質性肺炎による死亡例が出ており、安全性に問題があることが分かっていたこと。比較臨床試験の結果が出ていなかったことから承認すべきではなかったことは明らかである。自分が審査委員であったら絶対に承認しない」


ときっぱりと断言した。加えて厚労省が承認前までに40例の肺障害とそれによる22例の死亡例という副作用報告を受けていたにもかかわらず、「症例の集積を待って検討」としたことについて、

「医師が(イレッサと)関連性ありとしているのに、何故この事実を添付文書に記載しなかったのか全く不可解である。医師として許し難いと今でも思っている。」
「これだけ多くの副作用死亡例が出ているのが分かっていながら『症例の集積を待って検討』としてイレッサを承認したことは、言語道断である。医師と患者を騙したといえる。どういう意図の下で承認がなされたのか知りたい」


と述べ、全例調査しなかったことについて、

「一定の副作用が臨床試験の段階で起こっていたことは市販後にも起こるというシグナルなのだから全例調査をしなければならない」
「(全例調査は)世界に誇るべき薬害防止のための手段である。薬害を根絶できる方法を開発し、過去に実行しておきながら、なぜ今回これをしなかったのか裁判で明らかにしてもらいたい」


と、厚労省の対応を厳しく非難した。

アストラゼネカ社について

 アストラゼネカ社が、EAP(治験外使用)症例の副作用報告について、GCP(医薬品の臨床試験の実施の基準)に準拠して実施されていないので信頼性が劣るなどと主張していることに対しては、

  • EAP症例は、市販後に近い状況で使用されるので、そこで報告された副作用は重視すべき。
  • 臨床試験は環境(条件)のいい患者を選んで行っている。

として一蹴した。また、急性肺障害については、頻度不明だから警告欄には記載する必要がないという被告アストラゼネカ社の主張についても、

「事実と違う。頻度は明らかであった。厚労省の通知にも反することは明らか」


と厳しく糾弾した。

抗ガン剤での副作用における死亡率について

「抗ガン剤の副作用で2~3%の死亡率が当たり前、などという見解は極めて非科学的で医者として許せない。医師が適切にリスクを管理すれば抗ガン剤の副作用で死亡することはほとんどない。京大病院の化学療法部の実績でも2005年度に抗ガン剤の副作用による死亡は0件である」


と証言した。

証言の最後に

   裁判期日朝の淀屋橋駅前の街頭宣伝活動

 福島教授は、

「これまで、我が国が引き起こしてきた薬害の要因がこのイレッサ薬害に全て含まれており、最大の薬害と言える」


と厳しく指摘して1時間40分に渡る主尋問は終了した。

 おわりに

 これからは原告側証人主尋問、そして反対尋問と続き、その後は被告側の証人尋問が始まる事になる。是非裁判所に足を運んで頂き顛末を見届けて頂きたいと願っている。