書籍紹介「血にまつわる病から生まれたメトセトラ」 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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書籍紹介「血にまつわる病から生まれたメトセトラ」

(文責:特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 事務局 鵜川圭吾)


 

 

血にまつわる病から生まれたメトセトラ
薬害エイズ訴訟和解から十年、僕らこんなカンジで生きてます。

将守 七十六 著

定価 1300円(+税)
発行 2006年3月15日
第一刷発行

 

 

 

 


 「薬害エイズ」を題材にした書籍が少なくなって来た昨今、被害者の半生を綴った本が出ることは珍しい。もし世に出るとしても社会問題に対して客観的・相対的な分析を行うことで過去の社会の「ゆがみ」から現代社会の教訓に出来るものは何か、という論調が妥当なところである。また被害者の手記を読むとき、その圧倒的な被害性が噴出している論調に感情的なマヒを起こしてしまい、ただ文字だけを頭に流し込んでしまうことが私には多々ある。

 本書は上記の意味において圧倒的に主観的で、被害性が噴出した内容であることは否めない。けれども筆者自身が「僕が貴方だったら…」という内省の契機を随所にちりばめており、それが読者の共感をさそう装置となっている。そのような人間としての感情の襞に分け入るような感覚と当事者として体験した被害性が同居している。文体としては軽いタッチのブラックユーモアがちりばめられた本文、切なさに満ちたポエムという構成で仕上げられている。少々マニアックな感もある言葉も出てくるが、筆者の多彩な表現の有り様にも刺激をうけることは間違いないであろう。

 少し具体的な内容に焦点を当てると、血友病患者として疎外感を余儀なくされた少年時代、そして当時致死的な感染症として「エイズ」が筆者に近づいてくる感覚、裁判闘争の中での過酷な被害者の有り様、そして裁判和解後の被害者を取り巻く状況等々がうかがい知ることができる。その上、他の書籍に比べて注釈が多く加えられていることもあり、初めて「薬害エイズ」について読む書籍としても読みやすくなっている。そして匿名で裁判を闘わざるを得なかった異例の薬害エイズ訴訟からも暗示されているように、「無知」「偏見」から生じる「差別」が如何に暴力的であるかを筆者の体験を基にありありと綴られている。学校、就職活動、家族に至るまで、人と人が関係する場全般に及んでいることがわかる。書籍の帯にも記載されているように「尊厳(そんげん)ってなんだ!?」と思わず考えさせられてしまう。

 薬害エイズ訴訟の和解から10年、実際の被害発生から20年以上という時間を経ても、なお癒されることのない「薬害エイズ」。各個別の被害がどのように整理されるのかはそれを経験した各個人の領域であるだろう。ただ「どうか無名の一感染者の遺言とでも思って聞いて欲しい」と「あとがき」にあるように、筆者はこの被害を読者に投げかけるという「整理」をしているのだと私は考える。社会に向けられた、この個人的な想いに対して、今は感度を示せない世相になっていると言わざるを得ない。このような個人的、個別的な想いに応えること、応えようは様々であるが、その積み重ねこそが被害者の癒しにつながり、周囲の人々が幸せになれる一つの契機であるような気がする。