取材報告 薬害イレッサ訴訟の経過 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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取材報告 薬害イレッサ訴訟の経過

薬害イレッサ訴訟の経過
医薬品承認のあり方が問われている


(文責:特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 事務局 鵜川圭吾)

 薬害イレッサ訴訟の概要

 前号からの新たに期日を迎えたイレッサ訴訟を報告する。法廷は毎回、大阪地方裁判所202号法廷で行われている。本訴訟は東日本訴訟(東京地方裁判所)と西日本訴訟(大阪地方裁判所)の2カ所で行われている。報告は西日本訴訟の期日、主に原告側準備書面要旨を参考に作成した。

  • 西日本訴訟第10回期日:2006年4月27日
  • 西日本訴訟第11回期日:2006年7月6日

 次回の12回期日は9月12日。次回か次々回の期日において原告側の専門家証人が召喚される期日が予定されている。

 西日本訴訟第10回期日:2006年4月27日

 原告側が第8準備書面意見陳述要旨を朗読し、被告国・アストラゼネカ社(以下:ア社)から法廷において特に反論らしい意見は出なかった。

 原告側の第8準備書面の内容(3章構成)を簡単に概説する。

 第1章はスモン訴訟、薬害ヤコブ等の薬害裁判、厚生大臣の発言等から得られた「(医薬品において)疑わしきは規制する」という原則を基にした主張だった。その上で東京女子医大の動物実験データ結果(「イレッサが肺繊維症を悪化させる」というデータ)の学会発表を遅らせたこと、治験の重篤性基準データに関して虚偽報告をしたこと等を例にあげ、正確な医薬品の検討を妨げる情報操作のあり方を糾弾した。

 第2章では、医薬品の製造物責任の観点からイレッサの添付文書の記載内容(第1版および第2版)を例に被告企業の責任について言及した。論拠として、医薬品の特性(①毒になりうること、②形状から危険性を十分に判定できないこと、③製薬会社以外は医薬品情報へのアクセスが困難であること)、そしてスモン訴訟の判決文より「医薬品の指示・警告上の欠陥の有無及びその程度については、製造物責任一般に比しても、はるかに厳格な基準により判断しなければならない」(原告側準備書面より)ことが主張された。それらの医薬品に関する前提条件と事前に被告企業が入手していたと思われる情報から、イレッサの添付文書は明白な指示・警告上の欠陥があったことを指摘した。具体的には、副作用内容の記載の順番(ex. 重篤な副作用から記載する)、具体的な副作用内容の記述の欠如、第Ⅲ層試験において延命効果が示されなかったことの内容の欠如、動物実験での肺毒性症例の記載不備などであった。

 第3章では、広告宣伝の虚偽・誇大性についてであった。この点について、被告会社は「薬事法上の広告規制には、『イレッサ』という名前を使用しない限りは、法に抵触しない」という見解のみをこの裁判の準備書面で示している。原告側は上記の被告の主張は情報の虚偽性の問題を広告宣伝の体裁の問題へすり替えようと図っていると断じた。その上で、医薬品の虚偽・誇大な広告は、生命・健康上の危険を生じさせかねないものであり、製造物責任法上の欠陥に当たることが明らかであると論じ、被告会社の責任を訴えた。

 また原告側から、被告国・ア社に対して次の2点について情報公開の求釈明が行われた。1点目は第Ⅲ相臨床試験の計画書の提出がなされたか否か(出されていれば、計画書の内容も含めて)、2点目はSWOG試験1)に対して、英国にあるア社本社がどのような評価・報告を出しているかについてであった。この求釈明に対する回答では、「検討中である」「(本国の本社から)回答待ちである」等、問題究明の進展に至る回答はでなかった。


1)・・・この試験は、手術不能の進行性小細胞性肺がん患者で、化学療法と放射線療法が行われた患者の維持療法で、イレッサとプラセボを比較する試験です。672症例の患者を、イレッサの毎日服用とプラセボの毎日服用の2群にランダムに割付けます。2005年3月10日の時点で、611症例が登録され、276症例が2群に割付られました。中間解析で延命効果が見られず、中止されることになりました。(薬害オンブズパースン会議HPより抜粋)

 西日本訴訟第11回期日:2006年7月6日

 原告側より第9、10準備書面が提出され、被告国、企業からも準備書面が提出された。

 今回の原告側の第9準備書面の主張は主に、被告国による承認(第1章)、そしてその適応のあり方(第2章)、副作用報告からみえる安全性の問題(第3章)についてであった。

 第1章の主旨は、当時の見識においてもイレッサを承認したことは違法であるということである。イレッサや抗ガン剤の承認が第Ⅲ相臨床試験を待たずに承認されるには、当然ながら、腫瘍縮小効果だけでなく延命効果についての否定的な情報がない、高い安全性が確保されている等の条件が満たされていることが前提であると主張している。しかしイレッサ承認時点において、延命効果は認められないこと、副作用の発生があったという承認要件の不備になんら措置を講じなかった国の責任を「適法とする余地はありません」と批判した。

 第2章では、臨床試験においては、有用性の観点から適応範囲の限界が示されている。しかしながら、実際イレッサが適応を拡大した範囲で使用された可能性がある。その点において製薬企業には製造物責任法上の欠陥、そしてそのような医薬品を承認した国の責任を追及した。適応外使用の事例として、ファーストライン(初回治療)、他の抗ガン剤との併用、その他除外基準の患者があげられ、杜撰な市販後の管理についてまざまざと示されている。

 第3章では、イレッサは他の抗ガン剤との比較においても、安全性に疑問が生じることを統計的データで示した。H15.7.30~H16.11.30(1年4ヶ月)のイレッサ副作用総数は1460件にのぼり、同期間の頻繁に使用されている他の標準的な抗ガン剤の副作用件数は、シスプラチン:433件、カルボプラチン:204件が報告されたのみで、絶対数においてもイレッサの副作用件数が最も多いという結果が読みとれる(図1)。また、イレッサ副作用に占める間質性肺炎の割合が高い(図2)。なお、上記の副作用件数、間質性肺炎の割合の高さから、新薬であることに鑑みても、適切な措置を講じることができなかった安全上の責任が生じることは素人考えでも明確であると思う。

左:図1 右:図2

 次の原告側第10準備書面は被告側(ア社)準備書面9、10に関する反論の形で提出された。今までの議論と重複する箇所が多いため詳細は割愛するが、被告ア社の主張と原告側との相違点を端的に表したものである。

 被告ア社は、抗ガン剤の有効性評価に関して延命効果、腫瘍縮小効果、症状改善、QOL向上等を総合的に考慮すべきであるのに対して、有効性の評価は延命効果に特化すべきであるという原告側とは平行線をたどる主張であった。また安全性については、因果関係が明らかになっていないとの被告ア社の主張に対し、疑わしきは規制すべきであるという原則に立って、予見できたこと、それに対して対応を怠ったことについて反論する原告側。また「ガンか副作用かわからない」「肺ガン治療の標準的化学療法において副作用死の可能性は不可避である」とする被告ア社と、「本来毒性による死亡が必ず起こる医薬品に、安全性や有用性があると判断されることはあってはならない」とする原告側。抗ガン剤に対する考え方について、大きな乖離が生じている。

 本訴訟は今後、抗ガン剤承認のルールに一定の影響が生じることは確実である。肺癌という生き死に直結する重篤な疾患における、医薬品の役割が法的に問われている訴訟でもある。「日本人の3分の1がガンにかかり、4分の1がガンで亡くなる」という話は良く耳にするほどがんになる人は多い。裁判所がどのような結論を導くのか、我が身になって注視する必要があるだろう。