書籍紹介「ビッグ・ファーマ 製薬会社の真実」 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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書籍紹介「ビッグ・ファーマ 製薬会社の真実」

(文責:特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 事務局)


 

ビッグ・ファーマ 製薬会社の真実

マーシャ・エンジェル 著
栗原千絵子・斉尾武郎 共監訳

発行者:藤原 大
定価:2,300円(+税)
発行:2005年11月10日
第一版第一刷
ISBN4-88412-262-3

 

 

 

【目 次】
翻訳刊行に寄せて -科学妄信とトップ・ジャーナル信仰は歪んだ宗教か? 福島雅典
はじめに  薬は他のものとは違う 1
第一章  二千億ドルの巨像 13
第二章  新薬の創造 5
第三章  製薬業界は研究開発費に「本当は」どのくらいかけているのか? 53
第四章  どのくらい製薬業界は画期的新薬を作ってきたのか? 71
第五章  ものまね薬づくり -製薬業界の実態 98
第六章  新薬ってどのくらい効くんだろう? 123
第七章  押し売り -餌に、賄賂に、リベート 149
第八章  教育を名目としたマーケティングの偽装 174
第九章  研究を名目としたマーケティングの偽装 198
第十章  パテント・ゲーム -独占権の引き伸ばし 218
第十一章  支配力を買う -製薬業界はやりたい放題 243
第十二章  宴のあと 271
第十三章  製薬業界を救え -活きた金を使おう 296
著者あとがき 320
謝辞 324
監訳者あとがき レッツ・ビギン!改革は真実を見極める眼と語る言葉から始まる 326
索引 335


「製薬会社が要求しているのは、…研究開発費として使う予定の金額を補填するだけではない。途方もない巨額の利益を得る権利をも要求しているのである。(p68)」
「患者アドボカシーグループへの支援も、教育を偽装したマーケティングの一つである。(p191)」


 このような歯切れの良い批評が随所にちりばめられている「ビッグ・ファーマ 製薬企業の真実」という書籍を紹介する。イレッサ訴訟弁護団が、よく準備書面において引用する書籍でもある。

 内容はアメリカで医薬品を販売するビッグ・ファーマ(巨大製薬会社を総称してこう呼ぶ)による医薬品販売の実態について、多くのデータを論拠に詳細に描かれている。またビッグ・ファーマの販売戦略との関連では、医薬品を処方する医師たち、医薬品の使用者である消費者等に対して、ビッグ・ファーマが情報を操作し、いかに戦略的に医薬品の消費を促しているかが論理立てて説明されている。加えて医薬品の臨床試験デザインへの関与、医薬品を規制する法案に対するロビイング活動、医薬品の特許期間を引き延ばすための数知れない訴訟など、詳細はここでは紹介しきれないほどである。

 また、本書ではアメリカでの医薬品をめぐる状況や動向も広くとりあげている。下に一例を挙げてみると、

 アメリカでは製薬会社は医薬品値段を自由に設定できる。それゆえに医薬品の価格が高額であり、隣国のカナダへと医薬品の買い出しに向かう人が後を絶たない。カナダへの渡航費を勘定に入れても安く医薬品を仕入れることが出来るからである。つまりアメリカで製造した薬が、カナダ輸出され、またアメリカ国民に買い戻されているという現象が起きている。それに関連して、ビックファーマもカナダの医薬品販売業者に圧力をかけたり、連邦議会へ買い出し規制を求める等の抵抗を見せている1)。(p271~p284参照)
1)・・・「日本では薬価は一定の方式で厚生労働省の諮問委員会で決定される…。最近特に、欧米の製薬企業からの日本の制度改革の要求もあって、市場原理に基づく自由な価格算定方式が強く求められている。」(p273注釈参照)
 

 本書はアメリカの事情であるが、似たような状況は日本においても見られる。2004年に実質的な医薬品の承認機関が独立行政法人化され、「独立行政法人 医薬品医療機器総合機構」として現在安全審査・管理業務を担っている。また、研究開発振興の部門として「医薬基盤研究所」もその翌年に設立され、まさにこれは日本におけるアメリカのFDA、NIHといえる。加えて、これら独立行政法人の財源として製薬会社の関与が大きくなる素地が出来ており、FDAと同様に医薬品を迅速承認するように製薬会社が独立行政法人に対して圧力をかけることは容易に想像できる。ただ、医薬品の迅速承認に関して、緊急性のある疾病には患者の利益になる場合も確かにある。けれども、承認部門の拡充や、それによる迅速化は、安全対策部門・監視部門の人的、質的強化がなされていることが前提であることは忘れてはならない。

 本書には、すべては利潤のためであるという「行きすぎた市場原理」への批判と、医薬品という生命に直接関与する化学物質に対する「倫理性と信憑性」を尊重する視座が随所に現れている。今後アメリカに追随するかたちで日本の医薬品市場の規制緩和が進むことへの警鐘といえる。今後の医薬品行政を考える際の一助になる書籍である。