特別寄稿 やはり、あり得ない医薬品販売に「消費者の利便性」 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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特別寄稿 やはり、あり得ない医薬品販売に「消費者の利便性」

やはり、あり得ない医薬品販売に「消費者の利便性」

イントロダクション

 前項で厚生科学審議会医薬品販売制度改正検討部会(以下:検討部会)報告書を概説した。この特集では、検討部会に委員として参加した増山ゆかり氏から、医薬品販売の動向、そして検討部会は実際どのような場であったのかを率直に報告して頂いた。


 

≪筆者≫ 増山 ゆかり (ますやま ゆかり)


厚生科学審議会 医薬品販売制度改正検討部会 委員
財団法人いしずえ 常務理事
全国薬害被害団体連絡協議会 メンバー
薬害オンブズパースン会議 メンバー
みんなの料理教室 主催

1963年5月北海道に生まれる。サリドマイド被害の当時者。

 

 

 医薬品販売をめぐる冒険

 厚生科学審議会は平成11年に中央省庁等の改編に伴い、それまで政策審議・基準作成機能を持つ審議会は原則廃止となり、厚生労働省(以下、厚労省)の所掌に関する科学技術及び公衆衛生等に関する重要事項について審議する審議会として再編され、旧厚生省関連の22にあった審議会は8審議会に統合再編された。今般の医薬品販売制度改正部会は(以下、改正検討部会)、平成16年4月に厚生科学審議会の9つ目の審議会として設置となる。

 かねてより厚労省は内閣府の総合規制改革推進本部が推進する医薬品販売規制緩和策に対し、医薬行政は消費者の利便からではなく、生命健康の保護の視点が必要とし、経済界関係者が名を連ねる規制改革委員会の規制緩和推進の動きを牽制してきた経緯がある。しかし、規制改革側からの厚労に対する軋轢は強く、たびたび医薬品の評価の見直しを迫られることとなる。平成9年に医薬部外品の見直しが閣議決定されたことに伴い、平成11年には従来医薬品に分類されていた肉体疲労時の栄養補給剤、外皮消毒薬や絆創膏類の傷消毒保護剤など15製品群から約200品目が医薬部外品に移行となり、さらには平成16年には15製品群から371品目が医薬部外品に追加となった。

 規制緩和の流れ

 この間に(社)日本フランチャイズチェーン協会が「医薬品販売規制緩和に対する消費者意識•ニーズ調査」を調査委託し、生活の多様化からコンビニエンスストアで医薬品販売を望む消費者の声が高まっているという調査結果が出たことを後押しに、ディスカウントストアのドンキホーテが、消費者の利便性を向上させるために深夜早朝の医薬品販売を展開するとした。現行の薬事法で医薬品の販売において、原則薬剤師等による関与すべきということを厚労省から釘を刺される場面があったものの、そこで引き下がらず今度は医薬品を無料で配布すると発表した。マスコミの報道は緊急医療の不十分さからも、消費者の利便性を配慮するべきという論調に傾きつつあった。

 次々に押し寄せる改革からのアプローチに厚労省は、改革に立ち向かざるを得ない状況に追い込まれていく。ドンキホーテ問題では「深夜・早朝における医薬品の供給確保のあり方等に関する有識者会議」を開き、情報通信技術を活用することの是非は専門家に判断を仰いだ。結局、深夜早朝(夜10時~朝6時)に限りテレビ電話を使って専門家が対応するなら医薬品販売を認めるという結論に至った。現在もドンキホーテはテレビ電話を活用し、40カ所で深夜・早朝の医薬品販売に応じているが、おそらく設備や維持にかかる費用からすると、採算に見合ったものにはなっていないだろう。深夜・早朝におけるテレビ電話を活用した医薬品販売は、ドンキホーテ以外の会社の参入には至っていないからだ。

 このように医薬品販売をめぐる規制緩和の動きは目まぐるしく展開し、いよいよ医薬品販売そのものを調査審議するとした改正販売検討部会に厚労省は、まさに背水の陣という態勢で臨むのである。またそれは同時に聖域に立ち入らんとするものへの宣戦布告のようだった。検討会での医薬食品局長の挨拶、検討会の構成メンバーを見ても、各業界団体を代表する錚々たる人たちが顔を揃えるなど、随所に厚労省の検討会に対する意気込みを感じた。

 これまで厚労省は薬害被害者を健康被害者と言い換えるなど、日頃からの納得のいかない対応に、私には愉快に付き合える相手ではなかった。薬被連に対し審議委員として参加要請の打診があったとき、慎重論もあったが最終的には薬害根絶につながると判断し、この医薬品販売をめぐる問題に足を踏み入れることとなった。規制緩和側から、距離を置いてきた薬害団体を構成メンバーに加えたことに対して、規制緩和を回避するためなら、なりふり構わない厚労省の姿勢を批判した。こういう緊迫した状況下で平成16年から2年越しで、実に23回も改正検討部会を開催し、これに並行して技術的な作業を行うための専門部会「医薬品のリスクの程度の評価と情報提供の内容等に関する専門委員会」が14回開かれた。

 これらの審議を経て昨年(2005年)12月15日に検討を終え報告書を提出した。

 検討部会の舞台裏

 それにしても毎回会議前に送られてくる膨大な資料はといえば、膨大な量の資料の大半は薬事法や医薬品販売の仕組みを解説するもので、それらに疎い私はかなり困難を極めた。内容が理解できていなければ、当然のことだが議論に参加できない。分からないまま発言すると、「この人は理解していない」と容赦なく評価はくだり、すぐさま発言力は失われる。私以外の構成メンバーは、厚労省内に控え室を持っているのかと思うほど、多くの検討会に委員として名を連ねる人々と、政治的背景が色濃く渦巻く中で幕開けとなった会議場には常に張詰めた空気が流れていて、関係業界団体の微妙な温度差も席につくだけで充分に伝わってきた。

 真っ向から意見を異にする相手と、忌憚なく会議場で意見を交わすことはできない。発言の真意がどこにあるのか読み取れなければ、何時間かけて話したところで話が噛み合ない。検討会が近づくと先ず厚労の担当者と資料説明を受け、意見調整が必要と思われる委員と連絡を取り意見交換する。電話ではまどろっこしいので直に会って率直に話をする。必要となれば要望書や意見書を提出することになる。とても全ては追いきれない。しかし、一般用医薬品でもサリドマイドは販売され、多くの犠牲を出している。ここはがんばりどころで、こちらも一歩も後には引けない。

 そんな舞台裏での出来事で最も強く印象に残ったのは、ドラッグストア協会の宗像氏との数回しか持たなかった話し合いの席だ。宗像氏は最初から規制緩和を支持すると意見表明をしていて、検討会での発言は私とは常に対立し、なんとなく気まずい雰囲気があった。しかし、実際にお会いしたときの振る舞いは紳士的で、サリドマイドが医療用だけではなく一般用医薬品としても販売され、そのことで被害を急速に拡大させてしまったことに話が及ぶと、宗像氏が目に涙を浮かべていたことが忘れられない。また、副作用と認定されず救済されない人も多くいるというと、なぜそのようなことが起こるのかと厚労の担当者に詰め寄っていた。なにか協力したいといって、すぐに副作用救済の案内をパンフレットに載せてくれた。あらためて組織ではなく、人と人の繋がりが組織を動かすと感じた。

 当該報告書の要点と法案の見込み

 報告書は鵜川氏が丁寧に解説してくださったので、繰り返しになるので詳しくは触れない。報告書の一番の特徴は、消費者の安全を担保するという視点で議論を貫けたことだ。いくらか消費者にとって医薬品を取り巻く環境は改善に向かうはずである。

 勿論、この法改正は医薬品の「販売のあり方」を切り口に審議したものなので、そこから外れる課題は論点として議論され尽くせなかった。だから、到底これまでの薬事法が抱えている課題を一掃できるものではないが、厚労省や医療関係者が集まっている場所で薬害被害について語り、副作用情報の収集が消費者にとって有益な情報であると確認したことなど、今までにない意義深い審議ができたように思う。

 薬事法改正法案は、今通常国会開催中の3月上旬には提出される予定だ。法案は、提出された報告書を超えないし、またそれを下回ることもない。かなり具体的に書き込まれたことで、報告書と施行される法令の乖離は少ないと見ている。一般用医薬品はリスクの程度に応じて3つに区分され、販売する専門家は相談応需が薬事法で義務づけられ、実施される2008年には専門家が不在のまま販売すれば薬事法違反になる。実質上は専門家の常駐を義務づけた格好である。また、リスクの程度を外箱にも表記することも決まっている。

 終わりに

 一般用医薬品は、CMなどで「良く効く薬は良い薬」という先行するイメージに押されがちだが、あらたな制度導入で緊張感を消費者に持って欲しい。買い易さに流され医薬品の説明を受けない現状が、利便性論議を盛り上げさせてしまった。購入者側の課題も少なくない。今回の法改正で整備される販売環境の利点を活用し、不要なリスクを負わない賢い消費者のありかたが、この新しい制度の評価を下すことになるのだろう。

 参考資料

規制緩和推進の主要経緯

 民間の活力で行政における規制緩和を進めるために、平成10年に行政改革推進本部の規制改革委員会(平成11年に規制緩和委員会から名称変更)は、「規制緩和の推進等について」(平成9年閣議決定)に基づき、行政改革推進本部長(内閣総理大臣)の決定を受け、行政改革推進本部の下に設置。委員会は、「規制緩和推進3カ年計画(再改訂)」に係る各事項の推進状況の監視やあらたな取組み等の活動を通じて規制緩和の着実な推進を図ることを目的として活動を行い、平成13年に内閣府に規制改革推進任務を引き継ぐ総合規制改革会議が設置されたことに伴い、行政改革推進本部規制改革委員会は廃止となった。また、この総合規制改革会議は、平成16年に設置された規制改革・民間開放推進会議に改革を引き継ぎ廃止となった。現在は、経済社会の構造改革を進める観点から規制改革・民間開放の一層の推進を図るとし、規制改革・民間解放推進会議が規制緩和を遂行している。

第1回改正検討部会 資料4 から抜粋

<設置の趣旨>
 近年、国民意識の変化、医薬分業の進展等、一般用医薬品を取り巻く環境が大きく変化している。
 昭和35年に制定された薬事法においては、医薬品販売について、薬剤師等への店舗への配置により情報提供を行うことを求めているが、必ずしも十分に行われていない実態がある。
 また、薬学教育6年制の導入に伴い、薬剤師の専門性が一層高まることとなる。
 このため、本部会は、医薬品のリスク等の程度に応じて、専門家が関与し、適切な情報提供がなされる実効性のある制度を構築するために、医薬品販売のあり方全般の見直しについて調査審議するものである。