特別寄稿 医療費の明細書を患者に発行せよ | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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特別寄稿 医療費の明細書を患者に発行せよ

医療費の明細書を患者に発行せよ

イントロダクション

 2005年4月より、中央社会保険医療協議会(中医協1))に支払い側の枠で患者団体から初めての委員となった勝村久司氏。勝村氏は医療情報(レセプト・カルテ等)開示の市民運動2)にも力を注いでいる。 
 中医協においても議論になった医療情報開示の問題、そこで医療機関が発行する医療費の明細書発行の意義、今までの経緯、現状について執筆頂きました。

1)・・・中央社会保険医療協議会(中医協)は診療報酬について審議・答申する厚生労働大臣の諮問機関。診療報酬は原則2年ごとに改訂される。中医協は診療側委員8名、保険者・被保険者側委員8名、中立の公益委員4名の計20名の委員で構成される。

2)・・・勝村氏は「医療情報の公開・開示を求める市民の会」の事務局長として、交渉や啓発活動等を行っている。

 

≪筆者≫ 勝村 久司 (かつむら ひさし)


厚生労働省「中央社会保険医療協議会」委員
厚生労働省「医療安全対策検討ワーキンググループ」委員
日本医療機能評価機構「裁定委員会」委員
枚方市民病院「医療事故防止監察委員協議会」委員
「医療情報の公開・開示を求める市民の会」事務局長
「陣痛促進剤による被害を考える会」世話人
「全国薬害被害者団体連絡協議会」副代表世話人

1961年生まれ。京都教育大学教育学部理学科(天文学教室)卒業。現在、大阪府立牧野高等学校教諭。1990年12月、長女を陣痛促進剤被害で亡くしてから、医療裁判や市民運動に取り組む。


<主な著書>
「ぼくの『星の王子さま』へ~医療裁判10年の記録~」(幻冬舎文庫)、「患者と医療者のための『カルテ開示Q&A』」(岩波ブックレット)、「レセプト開示で不正医療を見破ろう!」(小学館文庫)

<主な共著書>
「カルテ改ざん」(さいろ社)、「陣痛促進剤~あなたはどうする~」(さいろ社)、「薬害が消される!~教科書に載らない6つの真実~」(さいろ社)

 見えない医療

 2月15日、医療費の単価を決める中央社会保険医療協議会(中医協)が今年4月からの診療報酬改定の内容をまとめましたが、そこでは、医療内容の個々の正式名称や単価・数量等を全て記した明細書の患者への発行を進めるか否かが最後まで焦点となりました。明細は、患者にとって、自分がどんな内容の診療を受け、それにいくらかかったのかという、医療の基本データです。どの医療機関も、医療費の7割を支払う健康保険組合などに対しては処置名・薬名・検査名等の正式名称を全て単価と共に記したレセプトと呼ばれる請求明細書を発行しています。しかし、3割を支払う患者本人に対してはそれを発行しないばかりか、厚労省は長年にわたり、健康保険組合などに対してもレセプトを患者に見せないように指導していたのです。

 レセプトは開示されたが…

 医療事故や薬害の被害者たちによる長年の訴えにより、患者・遺族へのレセプト開示が解禁されてから8年経ちますが、レセプトを見るためには、日を改めて健康保険組合等に出向かなければなりませんし、1カ月分がひとまとめになっているのでどの日に受けた治療なのかわかりにくく、早いところでは3~5年で破棄されてしまいます。

 薬害エイズ事件でも特に第4ルートと呼ばれるものでは、自分が使われた血液製剤がどこのメーカーのものか等を知るために、その製剤が納品された医療機関を公表するかどうかなどが大きな問題になったことがありました。しかし、レセプト並みの明細が窓口で医療費を支払うたびに患者に手渡されていれば、このような問題は起こっていなかったはずです。

 薬害肝炎事件でも、カルテやレセプトが既に破棄されていたため、自分に投与された血液製剤を知ることができないままの人がいました。疑いがあっても、明細書をもらえていないために証明ができないのです。妊婦が知らない間に点滴の中に陣痛促進剤が入れられ、その副作用で、胎児が脳障害を負うケースも後を絶ちません。

 明細発行は医療・消費者を変える

 そもそも国民が「価値がある」と思う医療内容に診療報酬の単価が付けられておらず、逆にそれほどの価値があるとは思えないものに、高い単価が付けられていたりなど、中医協が決めている医療単価の設定は、患者や国民の価値観と合っていません。このことこそが不本意な医療の源であり、その極みが医療被害なのです。子どもを乗せた救急車のたらい回しも、不必要な手術や投薬・検査の横行も、同じ原因です。

 健康保険証はクレジットカードと同じです。クレジットカードで費用を支払う際には、明細を確認してサインをし、写しも受け取ります。そして、後日、カード会社からも明細が送られてきて確認ができるのです。お金を支払うのに明細を見せてもらうことができない医療の世界は極めて特殊です。

 スーパーに並ぶ加工食品でも、そこには、原材料名から添加物までが詳細に正式名称で書かれています。そのことで、学校教育でも添加物について学んでいく機会が作られていくことになります。医療消費者教育を学校で進めていくためにも、日常的に医療を考えるための元になる情報が必要です。

 医療情報開示の実情

 中医協は数年前に「薬剤情報提供料」を設定し、患者に薬を手渡す際に、その正式名称や副作用などの説明文を添付することで医療機関の収入が100円加算されるように設定しました。そのことで患者が持ち帰る薬に関する情報提供はこの間、飛躍的に進みました。

 同じように今回の改訂に向けての議論では、医療機関のIT化を進めるためとして「電子化加算」が数年間の期間限定で新設されることになっており、私は委員して、「レセプト並みの詳しい明細書を発行すること」がその加算を得るための必要条件とされるものと感じていました。

 すでに3年前から明細を発行している愛知県のトヨタ記念病院や、今春からの発行を決めている大阪府の枚方市民病院の例から手間や費用もほとんどかからないことが証明されていたからです。

 不透明な決定

 実際、明細発行を促すために診療報酬を加算すべきという意見は、中医協の中では患者側からだけでなく、医療側の一部からも出ていました。にもかかわらず、それまでの議論を踏まえて出されるはずの厚労省の答申原案では、「電子化加算」の必要条件が、「レセプト並みの明細書」ではなく、厚労省が25年以上前から医療機関に対し指導してきている、「保険内・保険外などの小計のみを記載した領収書の発行」にすり替えられていたのです。

 代わりに厚労省は、レセプト並みの明細書発行に努めるよう別途文書で通知するとしていますが、その内容は、「原則発行」ではなく「希望者への発行」となっていました。「希望者に限定すると情報開示の大きな壁になる」という意見は、患者側だけでなく公益の立場の委員からも出されていた事実を考えても、明細書発行を巡る一連の決定は非常に不透明だと言わざるを得ません。

 薬害エイズ事件の反省から、それまで非公開だった厚労省の多くの審議会が公開されていきましたが、最も遅れたのが中医協でした。その後、贈収賄事件の場ともなりました。

 改革が問われた中医協は、公聴会を開いたり国民から意見を募集したりしましたが、そもそも日々の医療の中身や単価が知らされていない患者や国民がどうして単価を決める議論に参加することができるでしょうか。改革に「患者・国民の視点の重視」を掲げてはいますが実を伴っていません。

 終わりに

 明細書の発行を進めていくことこそが、中医協改革の原点だと思います。そしてそれが市民の視点にたった医療改革そのものの切り札でもあることを、国や厚労省はしっかりと認識しておくべきだと思います。