(文責:特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 事務局 鵜川圭吾)
患者の声を医療に生かす
編者:大熊由紀子・開原成允・服部洋一
発行者:株式会社 医学書院
発行:2006年2月26日
第一版第一刷
定価:1,890円
ISBN4-260-00229-5
【目次】
Ⅰ部 なぜ患者の声をきくのか
- なぜ患者の声をきくのか
- 「でんぐりかえしプロジェクト」へようこそ
Ⅱ部 多様な声、聞きなれない声、壁を崩す声
- なぜ、いま、患者さんに学ぶ?
- 原点としてのピアサポート
- 納得できる説明とは?
- 医療情報はどこにあるのか
- 臨床試験と診療ガイドライン
- 医療者を育てる
- コミュニケーションギャップを乗り越える
- 医療過誤から学ぶ
- 「ハンディキャップ」への挑戦
- 専門家と患者のパートナーシップ
- 行政・政策決定へ
Ⅲ部 患者の声が果たす役割
- 本書の「声」の新しさ
- 日本の患者会をとりまく状況
- アメリカの患者会
むすびにかえて
医師と患者の関係は、「パターナリズム」という形で括られ、批判の対象とされてきた。今でこそ病院では「患者様」という呼称を付け患者主体の医療を志していることを標榜している医療機関も少なくない。しかしながら、そのような呼称とは裏腹に旧来のパターナリズム観を持っていると思われる医療従事者も依然として存在する。また、患者も「私は何もわかりませんから」と、医師に「自身の管理」をお任せという方も多くいるのが現状である。つまるところ、患者が医師を父権主義的に、医師も患者を無力化してしまう、そんな旧来の世界観を再生産する温床になっている医療の現場は意外に多いだろう。
本書には「今のままの医療ではいけない」という気持ちに揺り動かされ、患者の側から医療の変革に挑戦している人たちの「声」をぎっしり集めたものである。その発端は国際医療福祉大学東京サテライトキャンパスで行われた「乃木坂スクール」の連続講座「患者の声を医療に生かす」である。その内容を元に大部分が構成されている。ここで発せられる「声」が非常に多岐の分野に渡っていることは、目次(上記参照)を見ても明らかである。
本書の優れた部分は患者の「闘病記」のような読者の琴線にふれるだけでもなく、医療サイドを痛烈に批判するだけでもない点にある。もちろん章によっては、そのような側面もあることは確かだが、その中にも医療を取り巻く全ての人の改善につながる示唆的な部分を多く含むことにある。たとえば、「医療者の不幸の上でなりたつ患者の不幸はおかしい」と医療従事者の待遇を問題にしていたり、医療不信からでなく「亡くした我が子を、再確認する命の記録」としてのカルテ開示であったりする。
本書を通じて、医療従事者と患者の隔たりの大きさを改めて感じる。お互いを理解できるとはおこがましいとさえ感じる。しかしながら、両者を隔てる深い溝の両端からお互いが手を伸ばすことぐらいはできると感じる。
本書は医療従事者や患者のみに読んでもらいたい書物ではない。多くの患者団体が社会に向けて、自分たちのことを知ってもらおうとするのは、社会の中で「患者」として生きづらいからに相違ない。その意味で一番「患者」を知るべき立場にいるのは今、医療に携わっていない人々である。何も患者は特別な人ではない、皆いずれは患者になるだろうから、その準備を早いうちにする意味でも有意義である。