第7回 薬害根絶フォーラム 参加報告 | ネットワーク医療と人権 (MERS)

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第7回 薬害根絶フォーラム 参加報告

(文責:特定非営利活動法人 ネットワーク医療と人権 事務局長 太田裕治)

第7回 薬害根絶フォーラム
<開催概要>

日時:2005年10月22日 14:00~18:00
場所:大阪YMCA国際文化センター YMCAホール
主催:全国薬害被害者団体連絡協議会
共催:社団法人 大阪薬剤師会

<プログラム>
【第1部 薬害被害の実態報告】
 【特集】「がんに効く薬?」サリドマイド・イレッサ
【第2部 徹底討論 どうなる?一般用医薬品の販売】

本フォーラムのチラシは こちら

 

 今年で7回目を数える全国薬害被害者団体連絡協議会(以下、薬被連)主催の「薬害根絶フォーラム」が、去る10月22日(土曜)大阪YMCA国際文化センターにおいて開催された。第1回目のフォーラムは、1999年8月24日に厚生省(当時)敷地内に(薬害根絶)「誓いの碑」が建立されたのを契機として、その年の10月に薬被連の結成に伴って東京で開催されたのであった。

 設立当時は6つの薬害(8団体)で構成された薬被連であったが、今や9つの薬害(11団体)が名を連ねるまでに成長した。ある意味ではこのことをもって素直に喜べないものの、被害当事者団体が結束して大きくなることは、その多大な影響力をもって社会や政府を変えていく原動力になることは間違いない。実際、厚生行政や文部科学行政の施策に動きが見られるのは紛れもない事実である。

 薬害根絶フォーラムが大阪の地で開催されるのは2002年11月に大阪大学のコンベンションセンターで行われて以来3年ぶり2回目である。これまで当フォーラムは各地の大学の協力を得て教育施設内で行われることが多く、およそ100名の参加者を見込んで準備されてきたのであるが、今年は大阪府薬剤師会の共催を得て400人以上が収容できるホールが用意され、広報にも当会が積極的に動いたことで、別途イス席を増設して500人近い参加者を集めて盛大に行われた。

      第1部 薬害被害の実態報告

 プログラムは1部と2部に分かれ、第1部では、まず従来どおり各団体から被害の経過と被害者の現状報告があり、参加者にそれぞれの被害実態を理解してもらうことから始まった。1部の特集では「がんに効く薬?」のタイトルで、サリドマイドと薬害イレッサが採りあげられ、それぞれの被害者から詳細な報告が行われた。

 サリドマイド被害者団体の「いしずえ」からは、古川勝子氏の被害報告と佐藤嗣道氏によるサリドマイド薬害の経過と今回の復活までの経緯及び薬害再発防止活動が報告された。1960年代に起こった薬害の原因物質サリドマイドが、今度は多発性骨髄腫の治療薬として復活してきていることは、以前MERSが主催するシンポジウムでも採りあげたが、サリドマイドは現在オーファンドラッグに指定され、承認に向けて治験が開始された段階にあるとのことである。「いしずえ」では、厚生労働省へ新たな薬害被害を防止するための要望書を数度にわたって提出するなど、薬害再発防止に向けてたゆまぬ努力を続けている状況である。

 薬害イレッサからは、「イレッサ薬害被害者の会」代表の近澤昭雄氏より、2年前に若くして亡くなられた自身の娘さんの被害状況とともにイレッサ被害の経過と実態が報告された。イレッサ(一般名:ゲフィチニブ)は分子標的薬に類する抗ガン剤であり、副作用もほとんどない「夢の新薬」という触れ込みで承認前から期待された。日本では2002年7月に世界に先駆けて申請からわずか半年で肺ガン治療薬として承認されたのであるが、販売開始から2ヶ月も経たないうちに副作用情報が出され、2004年の末には588人が死亡、2005年4月までには1555人の副作用被害と607人の死亡が報告されたのである。近澤氏の娘さんもその1人であり、販売開始と同時に医師から「副作用もほとんどなく、手軽に服用できる薬だから」と勧められて服用を開始したとのことである。イレッサを製造販売するアストラゼネカ社は「イレッサには副作用があったが、死亡との因果関係はない。肺ガンにより力尽きて亡くなったのだ。」と主張するのであるが、承認前から誇張した宣伝文句を掲げ、藁にも縋る思いのがん患者に(医師にも)過大な期待を抱かせた製薬会社の責任が問われるところである。また、異例のスピード承認、その後の副作用情報や各国の動き(警告・申請取り下げなど)に関する情報の取扱いに関して、国にも落ち度はないのかが問われているのである。

 第2部では、その冒頭で、今年の薬害根絶デーにおける行政との協議(文部科学省・厚生労働省)、「誓いの碑」前でのセレモニー(大臣への要望書提出)などの模様がまとめられたVTRが上映され、続いて、薬被連世話人の花井十伍氏(代表世話人)、勝村久司氏から薬被連の活動内容が説明された。この報告のなかで、勝村氏は、文部科学省交渉の一番の成果は文科省の推薦によって各大学の医学・看護・薬学部教育の中で、講義などを通じて被害当事者の声が反映されるようになったことだと語っていた。それらの報告の後、現在政府で検討されている一般医薬品販売の規制緩和についてパネルディスカッションが行われた。以下には第2部の主要なテーマである医薬品の規制緩和についてかいつまんで報告する。

 第2部 徹底討論「どうなる?一般用医薬品の販売」

 近年医薬品の分野でも社会の趨勢に呼応して規制緩和が進められている。すなわち、処方箋を要しない医薬品のなかで特にリスクの低いものをコンビニエンスストアやチェーンストアなど一般の小売店でも24時間態勢で販売できるようにしようというものである。医薬品における規制緩和については、政府が小売店業界からの要望を受けて10年にわたり検討されてきたのであるが、厚生労働省では、2003年(平成15年)6月27日の閣議決定「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」で、「医薬品の一般小売店における販売については、利用者の利便と安全の確保について平成15年度中に十分な検討を行い、安全上特に問題がないとの結論に至った医薬品全てについて、薬局・薬店に限らず販売できるようにする。」と明記されたことを受けて、同年9月に「一般用医薬品のうち安全上特に問題がないものを選定するための検討会」を省内に設置して具体的な検討作業に入ったのである。そして、厚生労働省は、これらの検討を経て2004年7月16日、消化薬や整腸剤など371品目を「医薬品」から「医薬部外品」に移行させて一般小売店でも販売できるようにしたのである。これが医薬品類販売規制の「緩和」の1つの流れとする一方で、厚生労働省は、薬事法における医薬品類のうち一般用医薬品の取扱い(販売のあり方)の見直しを検討する作業に入ったのである。すなわち、薬局・薬店等での医薬品販売における薬剤師など専門家の関与、リスク等医薬品に関する適切な情報提供の方法など、安全性を確保するために、どの類の医薬品をどのようなシステムで消費者に提供すべきか、という審議が省内の検討会で行われているのである。ここまでが討論の前提となる医薬品をめぐる経過である。

 第2部 徹底討論「どうなる?一般用医薬品の販売」

 今回、これらの経過を踏まえて、陣痛促進剤被害者団体の勝村久司氏(陣痛促進剤による被害を考える会)、大阪HIV薬害訴訟原告団の花井十伍氏、サリドマイド被害者団体の増山ゆかり氏(いしずえ)をパネラーとして、一般用医薬品販売のあり方に関する現時点での問題点や今後の方向性などについて討議された。増山さんは医薬品販売のあり方を検討する「厚生科学審議会 医薬品販売制度改正検討部会」の委員である。消費者代表としては、他に全国消費者団体連絡会事務局長などが委員となっているが、薬害被害を受けた当事者が当部会の委員に就いていることは、これまで出来レースと言われてきた省内の審議会、検討部会に緊張感を与えているであろうことは想像に難くない。増山さんは、当初委員を引き受けるにあたり、どのぐらいやれるか非常に不安があったが、自身が被害を受けたサリドマイドが市販薬であったことや、規制緩和の流れの中で厚生労働省はどちらかというと規制強化したい立場に立っていることで最終的には委員を引き受けたと語られていた。

 当検討会は昨年の5月に始まり、現在まで既に20回以上開催されている。議論はそろそろ煮詰まりつつあるところだが、現在まで最も審議されてきた点は、医薬品に関する消費者への情報提供の方法と医薬品を販売する者の資質ということである。この検討会において、数ある一般用医薬品をリスクごとに分類し、非常にリスクが高いとされたもの(例えばガスターテン(H2ブロッカー)や水虫・タムシ用薬)33品目については、指定医薬品にして販売規制をかけることとし、さらに残った一般用医薬品をリスクに応じてAからDの4段階に分類して(厳密には含有成分をリスク分類)、そのランクごとに販売方法や情報提供のあり方が検討されてきたのである。なお、各医薬品(含有成分)のリスク評価については、専門家から構成された「医薬品のリスクの程度の評価と情報提供の内容等に関する専門家委員会」において行われている。

 販売する者の資質という点については、まず薬剤師など薬の専門知識を有した者がこれら医薬品の提供に関与することは言うまでもないが、実際のところ一定数の薬剤師を配置する義務がある薬局などにおいてさえも、必ずしも薬の専門家である薬剤師がその販売にあたって情報提供を行ってなかったり、ドラッグストアでは薬剤師がいなくても医薬品が販売されている現状がある。医薬品を販売する形態についても、薬店、薬局、薬種商販売業、配置販売業、特例販売業などが存在し、厚生労働大臣が認める範囲内で一般用医薬品が薬剤師でない者によって販売されているのである。実は、「資質」という点がみそであって、例えば、薬種商は3年以上の実務経験と都道府県が実施する試験に合格すれば一般用医薬品の販売許可が付与される業種形態であるし、配置販売業は5年以上の実務経験等があれば一定の品目に限って医薬品の販売が出来る形態である。

 検討会の方向性としては、そのような曖昧な状況を改善してリスクAに分類された医薬品については、オーバー・ザ・カウンター1)において、薬剤師が情報提供を行うことを義務づけ、Bランクの医薬品については、オーバー・ザ・カウンターもしくはそれに近い形式で薬剤師もしくは医薬品を販売するに値する「資質を有する者」が薬の情報提供を行うことにし、この「資質を有する者」を新設しようということのようである。つまり、薬剤師ではないが、試験によって知識を確認し合格した者をB医薬品ないしC医薬品の情報提供と販売を担わそうということである。要するにこれは、薬種商並みの知識を確認して、慣例的に薬の販売を業としてきた者の既得権益を維持することと現在求められている医薬品の安全性確保の観点を盛り込んだ措置と言えるかもしれない。そうすると、例えば、配置販売業を営んできた者は、さらに販売できる品目がBランクの一部とC・Dに限られることになり、そのBの一部とCを販売するにあたっては、受験して新資格を取得しないと営業できないことになるのである。

 今回の討論で見えてきたものは、薬剤師、小売店等経営者、そして薬害被害当事者などそれぞれの立場である。印象的だったのは、共催者である大阪府薬剤師会代表・児玉孝氏が冒頭の挨拶のなかで、「薬剤師の役割は、薬を使用促進することではなく、医薬品を安全に供給することだ。」と述べたことである。来年度から大学の薬学教育(薬学部)は6年制となり、薬剤師たる者の資質とその専門性がますます求められることになる。それに対して、ドラッグストア・コンビニなど小売店業者は規制緩和の波に乗って事業を拡大する方向性を打ち出し、薬被連と歩調を合わせる薬剤師に対して、既得権を守ろうとしているだけではないかと批判する実態が浮かび上がってくる。協働する薬剤師・薬被連と小売店業者のせめぎ合いは、被害当事者である増山さんが審議会の委員になったことで経済優先にぶれかけた舵を本来のルートに導き返したのではないか。パネリストの発言及び会場との討論を聞いていてそんな印象を受けた。薬被連が結成されて7年、継続した活動経験や幾つかの審議会に当事者委員を送り込む時代になったことで、単なる感情論ではなく、普遍性を追求しようとする被害当事者の姿勢が一般の人だけでなく専門家の支持を得て行政や社会が動いていくのが目に見えるようなフォーラムであった。最後に薬害肝炎訴訟原告の桑田智子氏が声明文(後掲)を読み上げて第7回薬害根絶フォーラムは盛況のうちに終了した。


1)・・・カウンター越しに薬剤師などが客と対面して販売する形態。

 

声明文
 私たち薬害被害者は、健康で幸せな生活を送るために医薬品を使用しました。健康な赤ちゃんを出産するために医薬品を使用しました。感染症を予防するために医薬品を使用しました。しかし、これらの医薬品は私たちの願いとはうらはらに薬害被害という苦しみをもたらしました。
 私たちは薬害被害が偶然もたらされるのではなく、さまざまな人為的要因によって生み出されてきたことを知りました。そして、これらの要因によって依然として薬害が繰り返されています。
 私たちは、薬害発生の連鎖を断ち切り薬害根絶を実現すべく毎年「薬害根絶フォーラム」を開催してきました。本日「第7回薬害根絶フォーラム」を開催し、多くの市民や専門家も薬害根絶に対する真摯な問題意識を共有していることを知り、大きく勇気づけられました。
 本日、薬害の恒久根絶実現に向けて声明文を発表いたします。
一、 一般医薬品販売において、患者が薬の有効性のみならずリスク情報も十分理解したうえで購入できるよう専門家による情報提供体制を強化すべきです。また、緊急時に患者が安易に一般用医薬品を使用することのないよう、深夜救急医療体制等の充実が必要です。
一、 製薬企業は、医薬品の非臨床試験、臨床試験のデータをすみやかに開示し、治験から市販後にいたるまで常に第三者が医薬品の評価をできるように努めるべきです。
一、 子供たちを薬害の加害者にも被害者にもしないため、小学校、中学校、高等学校においても社会科、保健体育のカリキュラムのなかで薬害教育を行うべきです。
一、 薬害イレッサ訴訟は、新薬の評価や副作用情報公開のあり方を根本的に問いただす裁判です。国、被告企業は速やかに誤りを認めるとともに、新薬の治験から市販後安全対策、医療現場での使用のあり方を抜本的に見直すべきです。
一、 過去の誤った血液行政の犠牲者である薬害C型肝炎感染被害者の即時完全救済を実現すべきです。
以 上

2005年10月22日
全国薬害被害者団体連絡協議会
桑田 智子