ごあいさつ | ネットワーク医療と人権 (MERS)

ごあいさつ

MERS設立から約20年、これまでを振り返る

ネットワーク 医療と人権
理事長 若生 治友


 民事でのHIV訴訟が始まったのは1989年、平成元年であった。まもなく「平成」から新たな元号に変わろうとしている。つまりHIV訴訟が提起されてから30年が経とうとしている。私たちネットワーク医療と人権<MERS>が、大阪HIV訴訟原告団からの呼びかけに応える形で任意団体として設立されたのは2000年、NPOとして認証を受けたのは2001年であった。設立から間もなく20年を迎えるが、これまでのMERSを簡単に振り返ってみたい。


 MERS設立当初、大阪HIV訴訟原告団から求められたことは、薬害再発防止に資すること、感染症に対する差別・偏見の解消に取り組むことであった。まずはHIV訴訟の法廷では明らかにならなかった血友病の医療現場で起きていたことを詳細に調べ、薬害の再発防止に寄与したいと考えた。血液製剤によるHIV感染を引き起こした医療現場では、どのようなことが起きていたのか、医療者はどのように考え、振舞っていたのか、それまでの裁判やマスコミの言説を一旦脇において、医師や患者らの声を集めることとした。


 そのために社会学者を中心とした「輸入血液製剤によるHIV感染問題調査研究委員会」を立ち上げ、調査研究事業をスタートさせた。この調査研究委員会は、委員長を養老孟司氏、副委員長を村上陽一郎氏にお願いした。この調査研究委員会(通称:養老研)の報告書は、2009年3月に最終報告書「医師と患者のライフストーリー」としてまとめられている。詳細は省くが、数年間に及ぶ医療現場の社会学的調査は紆余曲折を経たことは間違いない。報告書発行後も、社会学者たちは独自に研究チームを編成し、今もなお様々な角度・視点からの調査を行っている。


 2011年からは、大阪HIV訴訟原告団が厚労省から受託していた「薬害エイズ遺族等相談事業(以下、相談事業)」をMERSが受託・運営することとなり、薬害エイズ被害者(患者、家族、遺族)にとどまらず、血友病患者・家族らへの支援事業(各種相談への対応、相談会等の開催、調査等の実施)を行うことになった。HIV感染症やHCVによる肝硬変・肝がん・肝移植などの相談が寄せられる一方で、近年際立っているのは、血友病患者周辺の女性の問題、すなわち保因者や姉妹に関連する相談と、新たな血友病治療製剤に関連する相談である。


 MERSがNPOである以上、市民向けの啓発事業として、シンポジウムやフォーラムの開催や、医療系の大学生や医療者への講義なども積極的に実施している。ほぼ年に1回は市民向けのシンポジウムや講演会を開催し、賛助会員向けのニュースレターに開催報告を掲載しているので、ぜひ読んでいただければ幸いである。特に2006年の「生命(いのち)を育む思想-薬害エイズと医療」では、2日間にわたり講演会、分科会(フォーラム)を開催した。分科会では、養老研の中間報告の他、優生思想、水俣病、医療倫理、EBMとNBMなどの問題を取り上げた(詳しくは、ニュースレターNo.14を参照)。


 近年、薬害被害者たちの努力や、各種法制度等の改正・整備によって「薬害」の発生が抑止されているのか、あるいはむしろ、人々の「健康被害」の原因が非常に見えにくくなってきているのかもしれないとの印象を受ける。願わくは、それは薬害の起こらない社会に近づいていることの証であると期待したいが、なお引き続き薬事や医療行政の行方を見守っていきたいと思う。

2019年1月

 

ビヨンドからMERSへ

ビヨンド事務局弁護士 加藤高志

 ビヨンドニュースをお読みくださっている会員の皆様、いつも大阪HIV訴訟・HIV感染被害者をご支援くださり、誠にありがとうございます。
 大阪HIV訴訟を支援する会として結成された当組織は、1996年の和解以後幹事団体をビヨンドと命名して運動範囲を拡大し、以後約6年間、ニュースの発行を中心に、シンポジウム等も開き、真相解明のための情報公開や感染者差別の解消などに向けて取り組みを続けてまいりました。その間に獲得した成果は、皆様もご承知のとおり、100%満足できるものではないにせよ、かなりのものであったと自負しております。

 また大阪HIV訴訟自身、和解以後も証人尋問を続けるなどして真相解明に努めてまいりましたが、提訴された方もほぼ皆和解をされ、今般、裁判自体が終わろうとしております。
 それゆえ、もともと大阪HIV訴訟を「支援」する会としてスタートした当組織自身も、新たな段階に入ったのではないかと考えるに至りました。

 ちょうど時を同じくして、2000年9月、大阪HIV訴訟の原告団・弁護団が中心となって呼びかけ、弁護士・医療関係者・HIV-NGO・患者家族など各方面からの専門家を集めて「ネットワーク医療と人権(略称MERS)」が結成されました。MERSは広く薬害の問題や感染症に対する医療の問題などをとりあげ、我が国の医療・社会の改革を目指すものであり、ビヨンドもその趣旨に大いに賛同してきたところです。
 近時報道されているハンセン病問題、ヤコブ病問題や、新たに生じている狂牛病問題などを見る時、我が国における人権の軽視や情報開示の不徹底、危機管理体制のずさんさは全く改善されておらず、今後まだまだ薬害被害や感染症差別が生じるのではないかと思われます。

 そこで、私たち幹事団体は、ビヨンドとしての活動自体を徐々に縮小させ、本年中にニュース発行を終了させるとともに、MERSへの参加を通して、以後これらの問題に取り組んでいこうと考えるに至りました。
 もちろん個々の会員の皆様がMERSに加入されるか否かはそれぞれのご判断による訳でありますが、ビヨンドの方向性につき、かような話し合いがなされていることを皆様にご報告申し上げる次第です。

以上

【ビヨンドニュース vol,17より抜粋】